第三話 -11
「咲……さん……?」
「………」
咲は無言のまま、ブラズへと向かっていく。
咲の異変に、固まる朱伽。
「もう手遅れよ。まずは距離を取るわ」
黒衣の少女は朱伽の腕を引き、咲やブラズから離れる。
「ちっ、めんどくせぇなぁ!さっさとくたばれよ!!」
ブラズが咲と距離をつめ、殴る。
が、咲はブラズの拳を血だらけの左腕で止めた。
「………ァァァァ……」
「何だ、最後の抵抗のつもりか?うぜぇんだよ!」
ブラズがもう片方の拳を振り上げる。
「ァァァァァアアアアッ!!」
次の瞬間、咲の咆哮とともに、今までびくともしなかったブラズが吹っ飛んだ。
「ぐっ……なんだ、その力は……?」
見ると、咲からはいつもの赤い炎ではなく黒い炎が上がり、両腕が何事もなかったかのように治っていた。
「やりゃあできるじゃねぇか……」
ブラズがにやりと笑う。
「……コロス……コロス……」
咲が突進。速い。
あっという間にブラズの懐に入り、マシンガンのようなジャブ。
はじめは防御していたものの、そのうち攻撃が通り、ブラズの身体はストレートパンチを食らっているかのようによろけて後ろに下がっていく。
気付くと、すでにブラズの背がフィールド端の壁についていた。
「アアアアッ!!」
咲の攻撃が、いつものボクシングスタイルから徐々に変わっていく。
それは、ただのド素人のケンカのような、野性をむき出しにしたような……それでいて、威力は生半可なものではない。
「がっ……ぐっ……がはっ……」
ブラズの身体は、攻撃を食らうたび壁にめり込んでいく。
咲の両腕はブラズの血で赤く染まり、返り血を浴びながらも目を見開き、口元は嬉々として笑っていた。
「まずい!巧、かなめ、行くぞ!」
咲に異変が起きた頃、観客席ではなずなが立ち上がっていた。
「どうしたの!?」
「……オロチじゃ……」
小声で答える。
「えっ!咲さんがオロ――」
「ばかもん!声が大きい!」
なずなは慌てて巧の口をおさえた。
「むぐ……」
「咲殿がオロチなのではない。オロチの思念というか、そういったものが咲殿に入り込んでおる」
「ぷはっ……でも、行ってどうすれば……?ものすごい強さだよ?」
「正直わからん。じゃが、止めねばなるまい」
なずなは、フィールドへと続く通路に向かって走り出した。かなめもそれに続く。
「ちょっ、待って!」
巧もあとを追った。
走りながらフィールド内を見ると、新たな乱入者、黒衣の少女が見えた。
「む?あやつは……」
つぶやきながら、なずなはロビーへ続く扉を開けた。




