第三話 -8
「あれ?帰ったんじゃなかったの?」
不意に声をかけられた。
振り向くと、朱伽が立っていた。
「うむ。せっかくじゃから見学をな」
「どうせなら最後まで見てったら?あたしこれから試合だし、最終試合はかなりすごいことになるはずよ」
「何があるんじゃ?」
ふと、周りがざわついてることに気付く。
あれって、もしかして……
スカーレットプリンセス……?
本物?そっくりさん?
声かけてみようかな……
「やば……」
朱伽が周りと目を合わせないようにうつむく。
「おぬし、人気あるのぅ」
「あはは……んじゃまたね」
朱伽は苦笑いし、逃げるように観客席を離れた。
午後六時。
いつの間にか、観客席は空席を探す方が大変なほどに埋めつくされている。
『さあ!お待たせしましたぁ!』
アナウンスの声が一際大きくなり、歓声が上がる。
「な、なんじゃ?」
『闘う女子高生!あの紅の女王の弟子、スカーレットプリンセス!K-ASHの登場です!!』
照明がおとされ、スポットライトが一人の選手を照らす。
「あれは……」
「朱伽……じゃな。スカーレットなんとかと呼ばれておったし、あの服装じゃし」
朱伽は、初めて会ったときの服装に覆面という姿だった。
「派手な登場……かっしゅ……?」
「朱伽の選手名じゃろう。スクリーンに『K-ASH』と表示されとる」
「……名前を逆にしたのかな……?」
「………ノーコメントじゃ」
対して、相手選手は普通に紹介された。
「えこひいきじゃのぅ……」
「朱伽さんの人気のせいなんだろうけど……相手選手がかわいそうになってきた……」
「きっと『女子高生』ってところがポイント……」
『この試合に勝った方が、レーヌ・ド・ルージュ「KISA」への挑戦権を手にします!さぁ、紅の女王vs朱き姫の闘いが見れるのか!?それとも阻止されるのか!?』
「KISA ってのも、咲さんの名前を――」
「それ以上は言わずにおいてやれ、かなめ……」
そんなことを話しているうちに、朱伽の試合が始まった。
「ふん。大した人気だな、スカーレットプリンセス」
「できればK-ASHの方で呼んでほしいんだけど……」
「さて、レーヌ・ド・ルージュを倒すまえに、その弟子で準備運動といこうか」
「準備運動で済めばいいけどね」
「小娘が……!」
同時に地を蹴る。
スピードは朱伽の方が上だ。蹴りを放つ。
相手はそれを余裕で防御。朱伽の足を掴んだ。
「この……っ!」
朱伽は五行を発現。足が炎に包まれる。
「ばかめっ!」
が、炎はすぐに消えた。
「えっ?あれ?」
「俺の五行は『水』だ。相手が悪かったな」
片腕で足を掴み上げ、ぶら下がった状態の朱伽にパンチを何度も浴びせる。
「う……くっ……!」
「どうだ?降参すればやめてやるぞ?」
「痛~っ……女の子なんだから、殴るのちょっとは躊躇ってよ……」
「まだ余裕そうだな。だが諦めろ。俺はランク4。おまえが何か小細工しようと、ほとんどのことには対応できる」
『ランク』というのは、五行の変換力を表す言葉だ。
この男の場合、『水』のランク4なので、水、木、火、土の五行が使えることになる。
「なんでもいいけど、そろそろ下ろしてくんない?その角度からだとパンツ見えてそうで嫌なんだけど」
「ふん、そうやって色仕掛けで勝ってきたのか?」
「そんなわけないでしょ!!」
再度、炎を発現。
「小細工は効かんと……む……!?」
今度は炎が消えない。
「ええ、小細工するつもりはないわ」
炎はどんどん強くなり、
「強引に、押しきるっ!」
「ぐおっ!」
朱伽の全身が炎に包まれ、相手選手が朱伽から距離を取った。
「相手が水なら、それを蒸発させるだけの炎を出すまでよ!」
「まさか、これほどまでに実力差が……!?」
朱伽の姿が消える。
いや、高速で相手の後ろに回り込んだのだ。
背中を蹴り飛ばし、吹っ飛ぶ相手の前に回り込み、腹を蹴って上空へ。さらに相手より高く飛び、かかと落としで相手を地面に叩きつけた。
「ぐっ……ま、待て!降さ――」
「ここでクイズです」
朱伽が相手の目の前に立ち、にこやかに話す。
「今日のあたしのパンツの色は何でしょうか?」
「……黒」
「正解」
朱伽が、まるでサッカーボールを蹴るかのように足を振り上げる。
「ちょっ、待て!白だったじゃないか!……あっ!」
「しっかりと見てんじゃないのよっ!!」
朱伽の叫びとともに、相手選手は数メートル蹴り飛ばされた。
「朱伽さん、余裕だったね」
「うむ。なかなかの強さじゃ」
「すげっ!なに今の動き!?すげっ!」
「ちょっ、落ち着け巧……」
大興奮の巧であった。




