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第三話 -6

「ただいま~」

「ただいま」


とあるマンションの一室に入ると、女性はサングラスをはずし、ポニーテールの少女が覆面を取った。


サングラスの女性は巧達より年上、ポニーテールの少女は同年代だろう。


「おかえりなさい」


出迎えたのは、一人の青年。落ち着いた雰囲気のイケメンだ。


「こちらの方々は?」


「保護してきた」


それだけ言うと、女性は一人で奥へ行ってしまった。


「では、こちらへどうぞ」


イケメンが巧達に声をかける。


「えっと……そのまえに、ここはどこじゃ?」


「あたし達の家よ」


ポニーテールの少女が答えた。


「今からじゃ季里区には戻れないし、ここに泊まって明日帰ったらいいよ」


「いや、しかしそこまで世話になるわけには……」


「つべこべ言わない!はい、さっさと入って入って!」


強引に背中を押され、巧達が中に入る。


「む、家に電話しておかねば」


「なずな、携帯貸して。ボクも病院に電話」




中に入ると、そこには男がもう一人。


「おかえ……おおおおっ!!」


いきなり叫びだしたかと思うと走り寄り、馴れ馴れしくなずなの腰に手を回した。


「こんな素敵な女性に出会えるなんて……俺は幸運だよ。よかったら、俺の部屋でいろいろ話さないか?もちろん、二人きりで」


こちらも、出迎えた男と同様にイケメン。性格はかなり軟派なようだ。ロングの髪がチャラさをアップさせている。


「む、遠慮しておく」


なずなは、さらりと断った。


「きみも可愛いね。あと数年もすれば、絶世の美女になりそうだ」


話を聞いているのかいないのか、男は次にかなめへ声をかけている。


「………」


反応に困るかなめ。


「いきなりナンパしてんじゃないわよバカ!すけべ!」


「んごふっ!」


ポニーテールの少女の拳が、男の脇腹にめり込む。


「ぐぅ……するどいツッコミ……あ、もしかして妬いちゃった?」


「死ね」


少女の拳が、今度はみぞおちに決まった。




ナンパな男が床に倒れ、サングラスの女性がまだ戻らぬ中、テーブルに食事が並べられる。


「この時間、富士取区では中心部以外はどこの店も閉まっていますから、食事もまだでしょう」


すべて出迎えたイケメンの手作りだろうか。かなり豪勢だ。


「いやいや!そんな食事まで――」


そう言うなずなの言葉を、腹の虫が遮る。


「う……」


もちろん、鳴ったのはなずなだ。


「遠慮せずに召し上がってください」


「なぜわしらに良くしてくれるのじゃ?いや、おぬしらを疑ってるわけではないのじゃが……。それにこの食事、今のご時世ではちと値の張るものもある。これだけの食材を集めるなぞ、ちょっと金を持っている程度では不可能……いったい何者じゃ?」


天変地異からずいぶん時は経ち、だいぶ復旧してきているとはいえ、まだまだ問題は山積み。食料難もそのひとつだ。土地が荒れ、今は機械も導入し始めているが天変地異後は機械が壊れたためすべて手作業の農業。生産量も少なく、輸入しようと思っても外国も同じような状況のため、簡単にはいかない。人口は少ないが、食べ物を無駄にする余裕はない。他国と比べ、日本はまだマシな方ではあるが。


「そのへんはご飯食べながら話してあげる。自己紹介もかねて、ね」


ポニーテールの少女が、オレンジの絵が描かれた缶をカシュッと開ける。


「それはお酒です」


スッと缶を奪うイケメン。

口を尖らす少女。


なずなの腹が、また鳴った。




「あたしは観和(みるわ) 朱伽(しゅか)。一緒にいた女の人は大神(おおがみ) (さき)。こいつが三森(みもり)で、あの倒れてるバカが阿坂(あさか)ね」


ポニーテールの少女――朱伽が、簡単にみんなを紹介する。


「ふむ。ふぁひはやははあうあ」


「ちょっ、なずな頬張りすぎだよ。すみません、んじゃ僕から。僕は空島 巧。こっちは津薙 かなめ。さっきからがっついてるのが山田 なずなです」


「んむんむ、んぐっ……はぁ……巧、がっついてるとか言うがのぅ、これだけの豪勢な食事、なかなか食う機会ないぞ?」


「さっきまでの警戒はどうしたの!?」


そんなやりとりを見て、朱伽が笑う。


「おもしろい人達だね~」


「んぐ……ところで、さっきの質問じゃが」


「ああ、うん。まず、何で助けたのかというと……」


朱伽の顔つきが、いくらかシリアスになる。


「あたしも詳しくは知らないけど……咲さん、妹さんを亡くしてるんだよね。さっきみたいな奴らに襲われて……。だから、同じ被害者を一人でも減らすために夜回りしてるの。あ、この話は咲さんのまえではあまり……」


「うむ、大丈夫じゃ」


「うん。で、食事の件だけど、あたしと咲さんはラインファイトの選手なのよ」


「なぬ?ということは、ファイトマネーで?」


「そ。咲さん、チャンピオンなんだから!赤を基調とした服装から、紅の女王『レーヌ・ド・ルージュ』っていう二つ名で呼ばれてるの!」


「何?ラインファイトの話かしら、スカーレットプリンセスさん?」


目を輝かせて話す朱伽が「う……」と止まる。

シャワーを浴びて来たのだろう。サングラスの女性、大神咲が大人っぽいパジャマ姿で現れた。


「何じゃ?レーヌとかプリンセスとか」


「選手はそれぞれ自分で登録した名前があるんだけどね、有名な選手は勝手に二つ名がつけられたりするのよ」


缶ビールを飲みながら、咲が話す。


「私はチャンピオンだから。この子は、デビュー戦が派手だったからねぇ」


そう言いながら、朱伽を指差して笑う咲。


「こ、この話はやめましょう咲さん」


「聞きたい?聞きたい?」


「ちょっ、咲さん!?」


「朱伽ったらねぇ――」


「わーー!わーー!」


「……おもしろい奴らじゃのぅ」




食事も終わり、気付くとかなり遅い時間になった。


「咲さん、自分の部屋で寝てください」


朱伽が酔いつぶれた咲を起こす。


「ん~?おねえちゃんって呼んでいいのよ~?」


「呼びません。ほら早く……」


「ん~……」


「三森、お客さん三人の布団とかお願い」


「了解しました。部屋は、空き部屋をなずなさんとかなめさんに使って頂くとして……」


「あ、巧もわしらと同じ部屋でかまわん」


「えっ!?」

「えっ!!?」


驚く巧。しかし、それ以上に驚いた声が聞こえてきた。


「なずなちゃんとかなめちゃん、この男と一緒に寝るってこと?え?どういう関係?」


阿坂だ。


「ん~……アブノーマルな関係じゃ」


「ーーっ!!」


何を想像したのか、声も出ないほどショックを受ける阿坂。


「くそぅ、とぼけた顔して……やりやがる……」


「いや、僕は何もしてないですからね?」


「女の子の方からだというのか!?何様だてめぇ!」


「深夜にうるさい!バカ!」


朱伽に怒られた。


「だって朱伽ぁ~」


「さっさと寝なさいよ」


「女の子が二人も泊まりに来ているというのに……」


「何ぶつくさ言ってんの?」


「朱伽、今宵こそ夜這いに行くぜ」


「蹴り殺すからね」


「………おやすみなさい」


阿坂がそそくさと自室へ向かう。


「まったく……」


「なずな、何で変な言い方を……」


巧が肩を落としながら問う。


「面白そうだからじゃ」


笑いながら答えるなずな。


「それに、オロチを倒すために集まった仲間など、普通じゃないじゃろ?」


小声で追加した。


「んん……まぁ」


「同じ部屋にしたのは、今後の予定など話したかったからじゃ。あ、襲いたければ構わんぞ?」


「襲わないよ!」



「ごめんね。阿坂がうるさくて」


朱伽が巧達に謝る。


「それと……」


朱伽が巧に近づき、耳打ちする。


「あの……どちらか一人、ちゃんと選んだ方が……いいかと……」


「え?……いや、違――」


「おやすみなさいっ」


反論するまえに、真っ赤な顔をした朱伽は自室へと走っていった。


「………」


「はっはっはっ、勘違いされてしまったのぅ。さて、我々も部屋に行こう。ん?どうした巧?もう眠いのか?」


「……いや、なんでもない……」


巧は、反論をあきらめた。


「あ、そうだ。咲さんと朱伽さん、仲間になってくれたりしないかな?二人とも強いし」


「ふむ……悪くはないが……」


「ん?何かまずい?」


「ふむ……二人とも、何か秘めているものがあるというか……うまく言えんのじゃが……五行の力の流れが、通常と違う気がするのじゃ」


なずなが、さっきまでとは違って真面目な顔で話す。


「……?難しいよ、なずな……」


「まぁ人それぞれ多少の違いはあるし、巧との相性が悪くなければ問題ないと思うがの」


あまり気にするな、とつけ足し、なずなは部屋へと向かった。

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