番外編 麒麟-8
ある日の夜――
「――め!かなめ!」
「………ん……?」
ボクは誰かに呼ばれて目を覚ました。
「寝ているところすまん!かなめ、わしと一緒に来てくれ!」
「……なずな……?」
「そうじゃ!オロチが動いた!わしらも行くぞ!」
「……うん」
「寝ぼけておるのか!?それとも素か!?パジャマのままでよかろう!……ええいっ、手伝ってやるから早よ着替えいっ!」
夜の荒野を、なずなの背を追うように走る。
「……」
月がきれい。夜風が気持ちいい。
「……いた!」
なずなのその一言で、一瞬で緊張が走った。
なずなの目線の先には、七人の人影。
向こうもこちらを見ている。
その七人から十数メートルほど距離を取り、なずなとボクは足を止める。
「……」
白い長髪で背が高く、胸がなずなより大きい女性。
赤い髪に琥珀色の瞳を持つ男性。
長い髪を金色に染めた、同い年くらいに見える女の子。
赤い髪のツインテールの女の子はボクより年下かな?
スレンダーでセクシーな服装の女性の髪は、月の光を浴びて青く見える。
そして、意識を失っているように見える、倒れているショートカットの制服姿の女の子。
状況が把握できてないのか、さっきからキョロキョロしてる男子学生は、下半身が丸出し……
「っ!?」
目をそらした。見てない。ボクは何も見てない。
「……どういう状況じゃ……?」
なずなも困惑気味みたい。
「誰かは知りませんが、排除させて頂きます」
白髪さんがこちらに向かって歩いてくる。
すごい殺気……っ!
ボクは大剣を作り出すため、とっさに地面に手をつける。が……
「いい、放っとけ」
赤髪の男の声で、白髪さんが立ち止まった。
「今はクシナダの件が優先だよ」
金髪さんが続く。
「クシナダ……じゃと……?」
クシナダ――
その言葉に反応して、なずなが驚いた表情をしてる。
「ねぇ、おしゃべりはいいから早く戻りましょ。あたし眠いのよ」
スレンダーさんが気だるそうに言うと、赤髪の男が男子学生の胸ぐらを掴み上げ、白髪さんが倒れている女の子を抱き起こす。
「ひっ!た、たすけて……」
怯える男子学生。
「待て!その者達をどうするつもりじゃ!」
「ふふ、ひ・み・つ」
そう答えながら、一枚の護符を投げるスレンダーさん。
護符から黒い霧が出た。
「逃げる気か!?」
なずなの声を無視するかのように、次々と霧の中へ姿を消していく。
ただ、赤髪の男だけが振り向いた。
「そんなに焦んなよ。あんたらとはまた会う気がする。それまでに力をつけときな――」
月に照らされ、男の眼が妖しく光る。
「せめて、一瞬で死なない程度にはな」
「っ!」
背中に悪寒が走った。
足が震え、立っているのがやっと。
怖い――
怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわい――
「……」
すっ……と、なずながボクの前に立った。
「なずな……」
「大丈夫じゃ、かなめ」
なずなが男を睨みつける。
「くくっ、いい目だ。我々の計画は最終段階に入った。遊んでほしいなら急ぐんだな」
男はそう言い残し、霧の中へと消えた。
「……」
緊張が解ける。
ボクはへなへなと座りこんでしまった。
「なずな、すごい」
あんな怖い人を相手に立ち向かえるだなんて。
「じゃが、戦闘になっていたら負けていた。わしは……わしらは、まだ弱い」
ふと、なずなが悲しそうな、寂しそうな、そんな顔をしたように見えた。
そのとき、
「「……っ!?」」
二人同時に、ズンッズンッという足音に気付いた。




