番外編 麒麟-5
白い天井――
白いカーテン――
白いベッド――
殺風景な部屋――
何も変わらない、いつもの風景。
ボクはベッドから起き上がり、部屋から出ようと扉を開ける。
「うっ……」
太陽の光がボクを襲う。
目が光に慣れてきたとき、そこに広がっていたのは、どこまでもつづく広い海岸だった。
青い海は穏やかで、青い空には白い雲が浮かび、砂浜は太陽に照らされて白く輝いている。
「あ、おねえちゃん!」
「え?」
久しぶりに声を聞いた気がした。
気づくと、あの男の子がボクの目の前に立っていた。
「あ……」
「……」
男の子は無言でにこにこ笑っている。
「あ、えっと……海……」
ボクから話しかけたのは、これが初めてかもしれない。
「うん!ひろいね!たのしいよ!」
「……うん……」
ボクは砂浜へと足を踏み出す。
と、
「だめ」
男の子がボクの身体を押し、病室へと戻した。
「……?」
「おねえちゃんは、まだだめだよ」
「なんで?」
「それはおねえちゃんが、いちばんよくしってるでしょ?」
「え?」
「おねえちゃん。おねえちゃんの願いは?」
いつの間にか、男の子から笑みが消えていた。真剣な顔でボクに問いかける。
「願い……」
ボクの……願いは……
目を閉じる。
暗い病室――
胸の苦しみに襲われ――
そして、ボクは――
「……生きたい……」
願ったんだ――
「うん、そうだね」
男の子が満足そうに笑う。
「だから、おねえちゃんはまだこっちにきちゃだめなんだ」
「きみも……こっちに……」
言ってから気付く。
「あはは、ぼくはそっちにいけないから、こっちであそんでるよ」
あの子は……もう……
男の子が扉に手をかける。
「またいつか……あそぼうね!おねえちゃん!」
ゆっくりと閉められていく扉。
「うん……うん。またいつか……」
太陽の光がまぶしく、男の子の顔が直視できない。
男の子の声は、笑っているようにも、泣いているようにも聞こえた。
「あ……きみの……きみの名前は!?」
扉が閉まる直前、ボクは叫んだ。
「ぼくのなまえは――」
病室が暗闇につつまれた。




