第二話 -20
「…………」
話が終わり、巧はぽか~んと口をあけていた。
10年前に起きた天変地異――
それによって、世界の人口は激減。
同時期に、五行の力に目覚める人々。突然の超能力に戸惑いながらも、その力は復興に大いに役立った。
そして現れた五行使い――オロチ。
神を名乗るに恥じないだけの実力で、世界中の軍隊を圧倒。核や原子力に関するものをすべて牛耳り、世界を事実上征服した。
「一応はオロチ討伐のための軍隊があるらしいが……居場所がわからぬうえ、向こうはボタンひとつで核爆弾飛ばし放題じゃからの……。まぁ征服したとはいえ、『裁き』と言われる殺人行為しかしておらんのだが」
「いや、十分とんでもないことしてるよ!?」
「じゃがな、裁きを受けるのは罪人のみらしいのじゃ。そのせいか、オロチを支持する者も少なくない」
「そんな……」
「なんにせよ、オロチを止められる者はおらんよ……」
なずなが不敵な笑みを浮かべる。
「スサノオである巧、おぬし以外はな」
「えっ!?いや、無理だって!」
「いや、そんなことはないぞ。おぬしの力は開花しつつある」
「え?」
「おぬし、かなめの剣でゴーレムの腕を切り落としたじゃろ」
「あ、うん」
「あの剣は、かなめの五行の力で作り出された。神器っていうんじゃがの。それを他の誰かが使うというのは不可能なのじゃ。気の流れは人それぞれ微妙に違うからの。一卵性の双子であろうと、数秒持ち運べればいい方じゃ。それをおぬしは平気で使い、腕を切ったあげく空の彼方へぶっ飛ばしおった」
「……」
巧は自分の手のひらを見る。
当たり前だが、特に変わりはない。
「スサノオ――まぁ称号みたいなものなんじゃが、スサノオに選ばれた者はオロチと戦う宿命を背負うかわりに、他人の神器を借りることができるんじゃ。まぁ相性もあるがな。それ以外にも能力があるはずじゃが……おぬしの場合はゴーレムを飛ばすほどの怪力かのぅ?」
「待って待って!そんな宿命、背負いたくないんだけど……」
「……すまぬ。わしはおぬしがスサノオであることがわかるだけで、選んだわけではないのじゃ」
「えっ、んじゃ僕はどうすれば……?」
「大丈夫じゃ。わしも協力するし、仲間ももっと増やす」
「いや、だからって軍もかなわないような相手に……」
「ええいっ、うだうだするでない!連れて帰る相手がいるのではなかったのか!?」
「っ!?」
巧の頭に、今日出会った少女の顔が浮かぶ。
瑞穂と同じ顔の、クシナダと名乗った少女――
「おそらくあのおなごは、おぬしの探している子じゃろう」
「え?でも人違いだって……」
「たしかに、もともとこちらの世界の者という可能性もある。じゃが、もしオロチに洗脳されてるだけだとしたら?スサノオとオロチの戦いは宿命だと言ったであろう。相手はおぬしを葬るためにそれくらいしてもおかしくはないぞ」
「……」
「なんにせよ、やっと見つけた可能性じゃ。やみくもにうろつくよりはいいと思うが?」
「……」
巧はしばらく黙りこみ、
「……あーもう!わかったよ!でも、オロチを倒すためじゃないからね!瑞穂ちゃんを助けるためだからね!」
意を決したように叫んだ。
「うむ、いい返事じゃ。大丈夫、おぬしのことはわしが命にかえても守ってみせよう!」
笑顔で返すなずな。
「……すまんな、巻き込んでしまって」
が、笑顔はすぐに消えた。
うつむき気味の淋しげな顔で、なずなが謝罪する。
「え……べ、別にいいよ。幼なじみを助けるだけだし……」
予想外の反応に、うろたえる巧。
「じゃが、結果的に戦わねばならぬ状況に追い込んでしまった……」
「あー……まぁそれは……でも、なずなが助けてくれるでしょ?」
「もちろんじゃ!」
「なら、いいよ。僕も瑞穂ちゃんを助けるためにもっと強くなるし」
「……おぬしはやさしいのぅ……」
「いや、そんなことは……」
「ありがとう……」
「……」
巧は照れくさくなり、なずなから顔をそむけた。
「お礼に何かしたいんじゃが……わしにはこんなことしかしてやれん……」
巧がなずなの方を向いたときには、なずなは四つん這いで巧のすぐ目の前まで迫ってきていた。
「え……?」
「巧……」
なずなは、巧をそっと押し倒した。




