第二話 -17
「………」
巧が目を覚ます。
白い天井。
……ここは……かなめの病室……
そんなことをぼんやりした頭で考える。
すぐとなりから聞こえる寝息。
横を向く。
「……っ!」
そこには、なずなが眠っていた。
びっくりした巧は、ベッドをおりようと上半身を起こす。
その行動は、結果的に掛け布団を剥ぐことになるわけで……
巧の視界に入ったのは、ワイシャツにかろうじて胸を隠されているなずなの姿。
しかも……
「ちょっ……ノーブラ……!」
うっかり声に出してしまった。
顔が熱い。が、目線はしっかりなずなに――正確には、なずなの胸元に釘付けに……
「巧は……えっち……」
「うえええっ!?」
突然背後から声をかけられ、振り向くとそこにはジト目で巧を見つめるかなめがいた。
「いや、これは!えっと!あのっ!」
顔を真っ赤にしながらあたふたする巧。
「…なんじゃ……うるさいのぅ……」
「あ……」
どうやらなずなを起こしてしまったようだ。
「おはよう、なずな」
「うむ……」
寝ぐせのついた頭をかきながら起き上がり、着崩れたワイシャツを軽く直す。
まだ眠いのか、目はとろんとしたままだ。
「はい」
かなめがなずなに水の入ったコップと薬を渡す。
「おお、すまんの」
そう言いながら薬を飲むなずな。
巧は、ふと疑問に思ったことを聞いてみた。
「なぜ正露丸?」
なずなの飲んだ薬。黒くて丸く、においがきつい薬といえばひとつしか思い浮かばない。
「へ?」
「……?」
それに対し、きょとんとする2人。
「ああ、そちらの世界には『万能丸』は存在せんのか」
「万能丸?」
「うむ。さっきわしが飲んだのは万能丸じゃ。その名の通り、何にでも効く薬じゃぞ」
「………」
「あっ!うさんくさいとか思ったじゃろ!こっちの世界ではメジャーな薬じゃぞ!傷の治りも早くなるんじゃ!」
いわれてみれば、なずなの外傷はもうだいぶ治っている。
「あ、これは五行の力で治したんじゃけどな」
「えー……」
「飲んだ瞬間治る薬なんぞあるわけなかろう、ばかもの」
「さて」と、なずなが話を切り替える。
「今は何時じゃ?」
「……夜の七時」
「む……まずいのぅ」
かなめの返事に、いそいそと帰る支度をするなずな。
「ぐっ……いつつつつ……」
が、わき腹をおさえてうずくまってしまう。
「なずなっ!」
「まだおとなしくしてなきゃだめ」
「いや、そういうわけにもいかん。両親に心配をかけてしまうからの」
ふらふらと立ち上がるなずな。
「が、これは……きびしいかもしれんのぅ……。巧よ、すまんが送ってもらえるか?」
「うん、わかった」
断る理由もない。巧がなずなに肩を貸す。
「すまんの、かなめ。今宵はちと巧を借りるぞ」
「うん」
「行こう、巧。あ、かわりと言ってはなんじゃが、ちょっとならこっそり胸さわっても構わんぞ?」
「さっ、さわんないよ!」
「顔真っ赤にして……おもしろいのぅ」
あっはっはと笑うなずな。
「巧……えっち……」
病室を出る瞬間、かなめのつぶやきか聞こえた気がした。




