第二話 -12
「死ねぇっ!」
「ならっ!」
少女が迫ってくる中、巧の頭の中にさっきの出来事が思い浮かんだ。
「なら何で赤ちゃんを助けたの!?」
「っ!」
少女の爪が、巧に刺さるまであと数センチのところで止まった。
「必死に追いかけてギリギリで助けて。赤ちゃんを抱き上げて優しく笑ってた。本当は、君は優しい人なんだ」
「う……うるさいっ!黙れっ!」
少女は顔を赤くしながら、爪を振り上げる。
と、少女の足元の地面が、銃弾を受けたかのように爆ぜた。
「そこまでじゃ」
こんな口調の知り合いは1人しかいない。
「なずな!」
「遅くなってすまぬ」
なずなが小さな声で何かを唱えると、黒色の小さな球体がなずなの周囲に浮かび上がり、
「行け!」
合図で一斉に少女へ襲いかかる。
「ちっ!」
少女は後退しながら回避。すべてを避けきったときには、なずなは巧の隣へ移動していた。
「さすが女王を名乗るだけのことはあるのぅ」
「女王……?」
「うむ。ケイム・エラーの女王、名前はたしか……」
「テマリアさん」
「「……っ!」」
不意に、巧達の背後から声が聞こえた。
そこにいたのは一人の少女。
裾が短くミニスカートのようになっている和服を身につけ、ショートカットの黒髪には包帯が巻かれている。
「……なによ」
名前を呼ばれた少女――テマリアが、面倒くさそうに返事をする。
「標的は仕留めたのでしょう?戻りますよ」
「ちっ……はいはい、わかりました~」
テマリアの爪がもとに戻り、牙と尻尾もいつしかなくなっていた。
「次会うときまで、せめてもうちょい強くなっといてよ。じゃないとつまらないから」
そう言うと、テマリアは巧となずなの頭上を軽々と跳躍。着物の少女の横へ並ぶ。
無言で巧達に背を向ける着物の少女。
一枚の護符を投げると、それは空気中に溶けるかのように消え、黒い霧が発生した。
その霧の中へと姿を消すテマリア。
着物の少女もあとに続き、霧の中へ……
「待って!」
そのとき、巧が叫んだ。
振り向く少女。
「……何か御用ですか?」
「巧、どうしたのじゃ?」
巧の行動に、なずなの顔にも『?』が浮かぶ。
「……見つけた……」
なずなの声が聞こえてないかのように、巧はただ目の前の少女を見つめ、
「瑞穂ちゃん!」
少女の名前を呼んだ。
「すぐ見つかってよかった!瑞穂ちゃん、帰――」
駆けよる巧。
少女はさらに護符を一枚。それを地面に向ける。
護符は燃えて灰となり、直後、巧と少女を隔てるかのように炎が立ち上がった。
「うっ……!」
「人違いではありませんか?」
足を止めた巧に、少女が冷たく言い放つ。
「私はクシナダ。オロチ様と共にある者です」
「え……でも……」
「それに、私にかまっている暇はないと思いますが?」
直後、近くの民家が爆発したかのように弾け飛んだ。




