第二話 -9
「ちょっ……ストップ!!」
とっさに巧が叫ぶ。
かなめの大剣は、少女まであと数センチのところで止まった。
「かなめ、おちついて!その子は――」
そこまで言って、巧は気づいた。
大剣は止まったのではない。止められたのだ。少女の、30センチほどに伸びた、するどくとがった爪に。
「ふふ、助けてくれてありがとう」
少女が巧にお礼を言う。
巧のすぐ横で。
「え――」
「早い……!」
かなめと巧の距離は数十メートルある。
その距離を少女は一瞬で駆け抜けた。
「ほんっとにお人好しだね。逃げろって伝えたはずだけど」
驚愕している巧に、少女は無邪気な笑顔を見せる。
「さて」
少女の目が、先ほどまでケイム・エラーに捕らえられていた男に向けられた。
「ほんとはケイム・エラー達に処分させるつもりだったのに……」
「ひっ!」
腰が抜けたのか、四つん這いで逃げようとする男。
「めんどくさいけど、わたしが裁いてあげる」
少女は笑顔で言い放ち、長い爪を男に向け、
「……っ!」
一瞬のうちに男に近づき、容赦なく心臓を貫いた。
爪を引き抜く少女。男の服がみるみる赤く染まっていく。
男はしばらく痙攣したあと動かなくなった。
「……し……死ん……だ……?」
目の前で行われた殺人。
その非現実に混乱する巧。だが、少女はまったく気にしたそぶりもなく、
「その剣……まさか、キミ……」
少女は振り向きながら、かなめに話しかける。
「いや、まさかね……そういえばどこかで会ってるわよね?」
「……」
かなめは答えない。
「ま、いいけどね。どうせ……」
少女がヒュンッと爪を一振りし、
「ここで消えてもらうんだし」
かなめではなく、まずは立ちすくんでいる巧へと狙いを定めた。
巧が気付いたときには、少女は目の前にいた。
「さよなら」
少女がにやりと笑みを浮かべ、血で濡れた爪を突き出す。
「ふっ!」
が、巧に爪が刺さることはなかった。
かなめが間一髪で少女の爪を切り落とした。
「……硬さには自信あったんだけど」
少女が自分の爪を見ながら呟く。
「キミの方が厄介だなぁ。お人好しくんは後からでいいや」
少女は両手の爪を再度伸ばす。
口元から牙がのぞき、おしりの辺りにはいつの間にか犬や猫の尻尾のようなものも生えていた。
「巧、離れて!」
普段小さい声で話すかなめの大声にびっくりしながらも、巧はとりあえず近くの建物のかげへ身を隠す。
「わたしの攻撃、防ぎきれる?」
そう言いながら、少女は地面を蹴った。




