第二話 -8
「うわあああっ!」
せまる牙をギリギリで避け、バランスを崩して転びながらも、地面を転がって距離をとる。
「か……勝てるわけないよ……」
弱音を吐きながらも急いで立ち上がる巧。
視界の端に少女の姿が映った。
恐怖で呆然としているのか、立ちすくんだまま動かない。
しかし、ケイム・エラーの視線は全て巧の方を向いており、一匹も彼女を見ていない。
「逃げてっ!」
あの子のスピードなら助かるかも。
チャンスだと思った巧が叫ぶ。
それを合図にしたかのように、ケイム・エラーは巧に再び飛びかかってきた。
「うわっ……!!」
とっさに防御するが、ケイム・エラーの牙が木の棒を軽々と噛み砕く。
砕け散る木片。巧は反射的に目をつぶり、
「え……」
目を開いたときには、ケイム・エラーは巧の頭に噛みつこうと、口を大きく開いていた。
目の前には、ケイム・エラーの口内。
よだれに濡れた歯が並び、獣臭いにおいに混じって血の嫌なにおいが鼻をついた。
恐怖は感じなかった。
いや、感じる暇もなかったと言うべきか。
牙がくい込むまでの1秒にも満たない時間。しかし巧にとっては長い時間に思えた。
すべてがスローモーションで、しかし身体は動かず思考も停止し、現状を淡々と見つめるのみ。
そのとき、不意に視界が開けた。
ケイム・エラーが横に吹っ飛び、灰塵となって崩れたのだ。
「巧、見つけた」
「え?あ……」
大剣を持った少女の声に、巧は我にかえる。
「かなめ……さん……」
「違う。かなめ。呼び捨て」
かなめは無表情のまま言うと向きを変えて走り、男を押さえつけていたケイム・エラーを一閃。そのまま走り抜け、民家の壁を蹴って方向転換し、少女の周りにいた数匹もあっという間に倒してしまった。
「すごい……」
呆然とかなめを見つめる巧。
かなめは無言のまま大剣を持ち直し、
「……っ!」
次に、少女へと刃を向けた。




