おまけ
無事に町に着き、宿をとったオロチ一行。
「クシナダの協力で成功率は限りなく100%に近かったはず……あいつがクシナダじゃなかった……?……いや、本来のクシナダじゃなかったからか?……それとも異世界のスサノオがきたせいか……?」
「何ぶつぶつ言ってんのよ~」
一人で悩んでいるパルティネにナミクーチカがからむ。
「ん?いや、あのスサノオに負けた原因を……って、お酒くさっ!」
「そりゃまぁ飲んでるからね。真面目なこと考えてないで一緒に飲みましょうよ~」
「いや未成年だから!引っ張んないでよ!」
「ほらほら、見なさいよ。みんなを」
静かにちびちびと飲んでいるオロチ。
泣きながらぐいぐい飲むハクシラ。
テマリアは赤い顔でぐっすり寝ている。
なずなは酔ってるせいか露出度がさらに高くなり、これからオロチに迫るところだ。
「って、こらあああっ!何やってんのよなずなっ!誰の許可もらってオロチを誘惑しようとしてるわけ!?」
「いや、未成年での飲酒を怒るとこでしょ!?」
「んっふっふ、これでもわしは長生きじゃからのぅ。それに、昔はもっと幼い頃から飲んでいたもんじゃ」
「身体は現代の女の子のを奪ったんじゃなかったっけ?」
「大事なのは心じゃよ」
ちなみに、テマリアはケイム・エラーになった影響で成長が止まっている。十代半ばの容姿でも、実年齢はかなりいっているのだ。
「オロチさまぁぁぁ、胸の大きさなら私負けてないはずですぅ。やはり若さなのですか?私には若さが足りないのですかぁぁぁ?」
「何言ってんだシラ……おまえまだ二十代半ばだろ?十分若いだろ」
「ならばなぜ?なぜ私ではなくなずななのですかぁ?」
「いや、意味がわからん」
「うあーん、私を抱いてくださいませぇぇぇ」
「うぜぇ……」
迫ってくるハクシラを片腕で抑えるオロチ。
ふだん怪力で重い刀を振り回すハクシラ。彼女がケイム・エラーである理由がアルコールだ。身体にアルコールが少量ついただけで怪力は発揮できなくなり、ただの女性と変わらなくなってしまうのだ。
「胸の大きさとかどうでもいいのよ!大切なのは相性でしょ!?」
「おい、チカも落ち着け。ちょっ……シラ、チカを抑えろ」
「かしこまりましたぁ」
「……これが地獄絵図とでも言うのかしら……」
冷静に状況を見るパルティネ。
ハクシラとナミクーチカがなぜか官能的なことになっている横でうとうとし始めたオロチ。
テマリアは寝返りうってクマさんパンツがまる見えだ。
「やはりスサノオはモテたりするのかのぅ……これも特殊能力か……?」
一緒に眺めるなずな。
「そういえばさっきクシナダがどうこうと悩んでいたようじゃが?」
「え?ああ……計算上では失敗はありえなかったはずなんだけど……」
「おぬしがどんな計算をしたのかはわからんが……称号は『スサノオ』『アマテラス』『ツクヨミ』しかないぞ。あとは朱雀とか玄武とか……」
「えっ!?ならクシナダって……?」
「それは……遠い昔、アマテラスもツクヨミもやられ、スサノオが一人でオロチに立ち向かわねばならなかったとき、スサノオのサポートをした女性の名じゃ。
久しぶりに意識を取り戻し再会したときは、それはもう驚いた……懐かしいのぅ……」
「……え?」
「つまり、計算がくるったのであれば、それはクシナダを称号と勘違いしたところじゃろうな。何で調べたのかは知らんが」
「………………」
周りを見渡す。
相変わらず寝ているテマリア。
ハクシラとナミクーチカは抱き合いながら眠ってしまったようだ。
オロチももう完全にテーブルに突っ伏している。
今のなずなの話を聞いた者は、パルティネ一人のみ。
「………………」
黙っておこう。
そう心に決める。
「まったく……みんな仕方ないのぅ」
なずなが全員に毛布やタオルケットをかけていく。
「双、こんなところで寝たら風邪ひくぞ」
「ん……ああ…………」
「…………なずな、オロチをどこに連れていく気よ?」
「隣りの部屋じゃ。二部屋とったじゃろ?全員ここで寝てしまったが、使わなかったらもったいなかろう」
「……あんたはこっちに戻ってくるんでしょうね?」
「………………」
「ちょっ……えっ!?」
「ほら、わし今まで一緒じゃなかったじゃろ?距離を縮めるよい機会かと思うんじゃ~」
「いやいやいや!」
「あれ?パルティネとやら、計算間違えたのか?」
「う…………」
にやりと笑うなずな。
黙っていてほしければ…………
その隠されたメッセージに気付いてしまったパルティネには、これ以上引き止める術を持ち合わせてはいなかった。
なずなとオロチが出ていき、静かになった部屋。寝息だけが聞こえてくる。
これでいいのか……?
…………いや、よくない!
自分の計算ミスでオロチの計画が失敗したのがみんなに知られ、ひどい仕打ちを受けようとも、このままなずなの好きにさせてはダメだ!
気合いを入れるためか、コップの水をぐっと飲み干す。
「うっ……ごほっ……げほっ……」
酒だった。
みるみるうちに顔を赤くしたパルティネは、そのまま倒れるように寝てしまった――
翌朝――
これ以上弱みを握られ続けるのを避けるため、パルティネは自分から計算ミスを白状した。
が、今のみんなの標的はなずなだ。「あ、そうだったの」程度で話が終わり、ハクシラ、ナミクーチカ、テマリア、なずなによる、オロチ争奪戦がこの日より開始されることとなる。
「オロチ様っ、なぜ私ではなくなずなをっ!?」
「あたしのことはハクシラに止めさせたくせに!」
「ずっと寝てて何がなんだかわかんないんだけど!」
「…………やべぇ……そのまま寝た記憶しかねぇ……」
ちなみに、このオロチの記憶は間違っていない。
昨晩隣りの部屋では、オロチもなずなもただぐっすり寝ただけだった。それを知っているのはなずなだけである。
これにて「柳の下で蛇は眠る」終わりになります。
長々と読んでくださった皆様、ありがとうございました。
現在、第二章として「柳の下に蛇は集う(仮)」を製作中です。
公開のときはまたよろしくお願いします。
2014/10/6追記
「柳の下に蛇は集う」書き始めました。
今回は書き溜めていないためスローペースではありますが、またよろしくおねがいします。