第二話 -5
「…………クマ?」
人だった。少女だ。
短めのスカートが翻り、かわいいクマがプリントされたパンツが後方から丸見えなのも気にせず、その小柄な身体は坂道をものすごいスピードで下る。
目の前の少女は手も地面に着け、まるで犬や猫のように走っていた。
そのまま少女はベビーカーへ追いつき、交差点直前で急ブレーキ。惨事は免れた。
赤ちゃんを抱き上げ、あやす少女。
歳は10代中頃に見える。髪は染めているのか、赤っぽい髪をツインテールにしており、学校の制服にも似たデザインの、黒を基調とした服装をしている。
ちなみにパンツの柄はすでに確認済みだ。
そんな少女を、呆気に取られた顔で眺める巧。
「おわっ!」
そのせいか、うっかり足がもつれてしまった。
状況を再確認しよう。
巧はベビーカーを追いかけて、下り坂を全速力で疾走中である。
結果は……言うまでもない。
「んぎゃぁぁぁ~~!」
巧は派手に転び、そのままの勢いで坂道を転がり、やっと止まったときにはベビーカーと少女の足がすぐ横にあった。
仰向けになると、覗き込む少女と泣き止んだ赤ちゃんが見えた。
「……生きてる?」
少女が巧に声をかける。
「……一応は」
少女のパンツが終始見えているが、身体の痛みの方が強くてそれどころではない。
「この坂道をダッシュって……バカだなぁ」
「あの……ありがとう」
「え?キミの赤ちゃん?」
「いや、違うけど……助けてくれたから」
少女は一瞬ぽか~んとしたあと、急に笑いだした。
「あはははは!かなりのお人好しだね!やっぱバカだよ!」
「え?そうかな……」
巧は立ち上がって身体中のホコリをたたき落とす。
「うんうん!でも、そういうバカは嫌いじゃないよ」
少女が赤ちゃんを巧へ渡す。
抱きなれていない巧は、ぎこちないながらもなんとか受け取った。
赤ちゃんが巧の服をつかみ、ばぶばぶと何かしゃべる。ついつい笑顔になってしまうのは巧だけではないだろう。
「お人好しさんに、特別にいいこと教えてあげるよ」
そんな巧をよそに、少女はきびすを返しながら、
「早く逃げなさい。死にたくなければ」
つぶやいた。
「え……?」
巧が顔をあげたときには、少女の姿は消えていた。




