第二話 -4
巧は病院を出て、見知らぬ道を歩く。
あてがあるわけではない。ただ、焦る気持ちだけが巧を動かしていた。
「ごめん、僕には話の内容がさっぱりわからない……あとは僕一人で捜します」
病院の方角にぺこりと頭を下げながら独り言をつぶやく。
短い間とはいえ、お世話になったお礼が何も出来なかったことをちょっとだけ悔やみつつ、巧は病院から見えていた少し栄えた場所へと来た。
店が立ち並んでいる以外にも、路上で商品を広げている人も多い。日本ではあまり見かけない光景に、まるで外国にきたような気分になってくる。
「市の名前は同じだけど……まったく違う街だなぁ」
そんなことを考えながら何気なく歩いていると、道が長い下り坂に変わった。
そこを境界線としているかのように、坂道には店もなく、ほとんど人がいない。
少し急な坂になっているため眺めが良く、遠くまで見渡すことができた。
他の街――というより集落がいくつかあり、学校らしき建物も見える。さらに遠くに見えるのは市役所だろうか。
「……あれ?」
坂道を歩きながら、ふと違和感を感じた。
「えーっと……」
違和感の原因が見つからず、立ち止まって考えこんでいると、
「きゃぁーーっ!」
背後から悲鳴が聞こえた。
振り向くと、何かがすごいスピードで近付いてきていた。
「えっ?えっ?」
軽くパニックになりながらも、とっさに避ける。
よく見ると、それはベビーカーだった。
「誰かっ!誰か止めてぇ!」
母親であろう女性が、必死にベビーカーを追いかけながら叫び続ける。
が、坂道にはもともと人が少ないうえに、どんどん加速していくベビーカーは猛スピードで下っていく。
通り過ぎたベビーカーを目で追いながら、巧はあることに気付く。
この坂を下った先に見えるのは交差点。何台か車が走っているのも見えた。
「ええぇぇぇぇっ!?」
巧は全速力で走り出した。
ベビーカーが交差点に突っ込めばどうなるか、そんなこと想像もしたくない。
が、現実は……
「ぐ……っ!」
どんなに必死になろうと、ベビーカーとの距離は縮まるどころか、広がるばかり。
ベビーカーが交差点へと突っ込むまであと十数メートル。
「止まれ……止まれ……!止まれええぇぇぇっ!」
願望を叫ぶことしかできない。
そのとき、巧の横を一迅の風が吹いた。




