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七支刀

 だが、次の瞬間、至近距離からハンドガンの射撃を受けて、男の頭はザクロのように散っていた。

 怜の身体は細身の少女が抱えて男から奪い去っていた。


玲奈(れな)ちゃん、その子は大丈夫?」


 紅いサングラスに黒きコートをまとった女がハンドガンを片手に聞いてきた。

 神沢優(かみさわゆう)、公安警察所属の危険人物である。


「いや、普通なら大丈夫ではないですが、プロレスラーだけあって身体が丈夫なようですね。致命傷はないです」


 秋月玲奈(あきづきれな)はにっこりと微笑んだ。

 少しあきれた表情である。


玲奈(れな)ちゃん、あなたは先に逃げて。私は奴と少し遊んで時間稼ぎしてから逃げるわ」


 サングラスをしているので、表情は読めないが口元に不敵な笑みが浮かんでいた。


「やっぱり、逃げるんですか?」


 ちょっと意地悪な質問である。


「頭を吹き飛ばされても再生するのよ。逃げるしかないでしょう」


 神沢優の視線の先で、男は吹き飛ばされたはずの頭部を再生させながらむっくりと起き上がっている。

 瞳は赤く輝き、口元に狼の牙が見えた。

 異世界から転生してきた人狼種、弱点は一切なく、地上の兵器では殲滅は不可能だった。


「神沢先輩、健闘を祈ります。あ、この子たちを置いたらまた帰ってきますよ」


 秋月玲奈は風森怜の身体を右肩から背中に軽々とかついで走り去った。

 ランドセルの女の子は怜が奮戦中に救助済みで、その女の子も左肩に乗せていた。


「早く帰って来てね。それまで私の命がもてばいいけど」


 いつになく弱気な発言をする神沢優である。

 が、仕方ない。仕事だし。

 

 左手をかざして異空間から「七支刀(しちしとう)」「七子鏡(ななつこのかがみ)」を取り出した。

 ハンドガンは異空間に投げ返す。非常に便利である。


 七支刀(しちしとう)とは石上神宮にある国宝で、別名「ななつさやのたち」、「六叉の鉾(ろくさのほこ)」とも呼ばれる。鉄製の身の左右に各三本の枝刃を段違いに配した特異な形をした剣である。とはいえ、神沢優の持ってるのは当然、本物でなくレプリカである。


 全長74.8センチ、剣の棟には表裏合わせ六十余字の銘文が金象嵌(きんぞうがん)で刻まれている。

   

 剣の表には「泰和四年五月十六日丙午正陽造百練□七支刀出辟百兵宜供供侯王永年大吉祥」と、裏は「先世以来未有此刀百濟王世□奇生聖音(又は晋)故為倭王旨造傳示後世」と書かれているらしい。日本書紀の記事にも神功皇后の時代の四世紀に百済から倭へと贈られたものとの記述があり、記録が一致している。


 解読すると「太和(泰和)四年五月十六日丙午の日の正陽の時刻に百たび練った□の七支刀を造った。この刀は出でては百兵を避けることが出来る。まことに恭恭たる侯王が佩びるに宜しい。永年にわたり大吉祥であれ」


「先世以来、未だこのような(形の、また、それ故にも百兵を避けることの出来る呪力が強い)刀は、百済には無かった。百済王と世子は生を聖なる晋の皇帝に寄せることとした。それ故に、東晋皇帝が百済王に賜われた「旨」を倭王とも共有しようとこの刀を「造」った。後世にも永くこの刀(とこれに秘められた東晋皇帝の旨)を伝え示されんことを」ということが書かれているらしい。


 それはともかく、剣なのか鉾なのかはっきりしてほしいのだが、百兵を避ける呪具だとか、田植えの祭りの際に神を降ろす祭具というのが正しい使用方法らしい。武器というより魔法の杖に近い。


 「七子鏡(ななつこのかがみ)」はそれとセットにして贈られたものらしいが、丸い突起が同心円上に七つあるという。細線式獣帯鏡で、青龍、白虎、玄武、朱雀などの霊獣の文様がある。アメリカ合衆国のボストン美術館に所蔵されている銅鏡ではないかとする説もあるが、現物は日本にないはずなのだが。


「ということで、物理攻撃はダメなようですので、ちょっと呪術戦闘に切り替えますか」


 誰に向かって言ってるのが不明だが、おそらく、独り言だろう。


 右手の七子鏡(ななつこのかがみ)が発光した。

 玄武の文様が輝き、霊獣が異空間から召喚された。

 巨大な霊亀(れいき)が現れて人狼の前に立ちはだかった。

 体長は十メートルぐらいあり、身体には蛇が巻き付いていて緑色の燐光につつまれている。


 左手の七支刀(しちしとう)にも、枝刃のひとつに文字が浮か浮かび上がる。

 「雷」の文字が黄金色の燐光で輝く。


「準備はできたわ。かかってらっしゃい!」


 神沢優は威勢よく言い放った。


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