魔女
「なかなかやるね。神沢優」
少女の声が聴こえた。
(出たわね。魔女が)
ステルスのまま、安堂光雄に通信をする。
(厄介ですね)
人狼は心臓を貫かれてその再生力を失い、沈黙している。
「最近、ステルスも量子レーダーで位置が特定されるらしいですよ」
赤い瞳の魔女が高層ビルの屋上の端に腰掛けてる。
14歳ぐらいの少女の姿である。
黒いフードが赤ければ、赤頭巾ちゃんに見えるかもしれない。
中身は似ても似つかないのだが。
(それでステルスの私の位置が特定されていた訳ね)
人狼が妙なゴーグルを掛けているのはそういう理由があったらしい。
戦闘中は気づかなかったが。
(量子レーダーとはとんだハイテク魔女ですね)
安堂光雄もちょっと感心している。
(感心してる場合じゅないわよ。やつが出てきたからにはあれが来るわよ)
(やっぱり、来ますよね。あんまり戦いたくないですね)
安堂光雄のため息が聞こえた。
倒れてる人狼がゾンビのように再起動する。
むっくりと起き上がる。
その様はもはや生物のものではない。
ロボットか、アンドロイドのような奇妙な挙動である。
操り人形のように動き出す。
(いつものことだけど、ゾンビマスターとはよく言ったものね)
神沢優はいつものことながら、戦闘態勢を整える。
(全くです。嫌気がさしますね)
安堂光雄の嘆きは頂点に達する。
人狼ゾンビの瞳が魔女と同じ赤色に染まる。
満月の呪力か、魔女の力か、人狼ゾンビの穴の開いた胸に魔法のように心臓が再生していく。
胸の傷もふさがる。
完全再生した人狼が吼えた。
月明かりに銀色の鬣が美しく映える。
振り返った人狼ゾンビが <黒鋼>に襲いかかる。
鋭い銀色の爪が<黒鋼>の装甲を傷つけるが、安堂光雄も<黒鋼>の腕で巧みに防御しつつ後退する。
何かの拳法らしいのだが、神沢優もよく知らない。
(安堂君、そのまま人狼ゾンビを引きつけておいてね)
神沢優は<七支刀>を地面に突き刺して大地の呪力をためる。
こうなっては、もはや物理攻撃は通用しない。
(月読真奈さん、<天照>の準備を)
神沢優のダークレッドのサイバーグラスは<モバイルギア>という通信機器でもある。
亜空間、異次元空間からも地上と通信できるアイテムであるとも言われている。
サイバーグラスのモニターには赤い光点で<魔女ランダ>の位置が表示されている。
(了解。魔女を焼き殺しますか?)
月読真奈は物騒なセリフをさらりという。
(いや、ターゲットは人狼ゾンビにしておいて、魔女が動いても波奈が防いでくれるわ)
(はいはい、お呼びでしょうか?)
月読波奈のサイバーグラスはショッキングピンクである。
ステルス機能がなければ、目立ってしまって仕様がない。
(呼んでないけど、魔女は任したわよ)
魔女を抑える伏兵はすでに配置済みである。
(了解)
月読波奈は短く答える。
月読四姉妹はあとふたりいるけど、それがまた別の話である。
魔女と人狼ゾンビ征伐の準備は整った。




