氷の女の子
当作品は、『ノンヒロー/アンヒロイン 番外編 番外その6 秘密結社の女幹部~割と昔‐白谷銀子5歳‐編~』で出てきた作中作『氷の女の子』と全く同様のものです。比べても加筆・修正・差分などは一切無いのであしからず。
ある雪山には氷の女の子が住んでいました。
氷の女の子の体はとても冷たく、触れると凍ってしまいます。
せっかくなかよくなったユキウサギのぼうやも、シカのお姉さんも、コグマの男の子も、みんな凍ってしまいました。
氷の女の子は、誰も傷つけたくなくて、とうとう氷のどうくつに引きこもってしまいました。
女の子は独りぼっちが好きではありません。けれど友達を傷つけるのは、もっと嫌です。寂しいのずっとガマンして、ひとりぼっちをずっと抱えて、どうくつの中を過ごします。
冬の来たある日、季節外れの春風に乗って、男の子がやって来ました。
まだ春には程遠いですが、その年の冬はとても暖かく、男の子はカン違いを起こしてやって来てしまったのです。
「どうして冬なのにこんなに暖かいんだい?」
山の様子が変なことに気付いた男の子は、暖かくて冬眠をしていないどうぶつたちに、この冬が暖かい理由をたずねました。
「それは氷の女の子がどうくつにかくれちゃったから」だと、山の動物たちは口々に答えます。
それから、女の子が引きこもった理由を話して、女の子を助けて欲しいと男の子に頼みました。
女の子が引きこもった理由を聞くと男の子は、女の子を助けてあげたいと思いました。
男の子は、動物たちに氷の女の子のいる場所を聞くと、洞窟に向けてまっすぐに向かいました。
聞かれた場所を訪れると男の子はそこで、とても冷たい風を出いるどうくつを見つけました。
ここだと思った男の子がそのどうくつに入り奥深くに進むと、そこに一人ぼっちで悲しそうにしている女の子を見つけました。
男の子は聞きました。
「どうしてきみは出てこないの? 動物たちから聞いたけど、きみが出なくないから冬なのに外は暖かくなったって言っているよ」
女の子は冷たく言い返します。
「わたし、みんなを凍らせたくないの。だから誰とも会いたくない。ここから出てって」
女の子が男の子の誘いを断ると、洞窟の奥から男の子を追い出さんとばかりに冷たい風が吹き付けました。
まるで、吹雪に遭ったみたいに強くて強い風でした。
けれども男の子は、風が強ければ強い程、寒ければ寒い程、頑として去ろうとはしません。女の子も男の子に帰ってもらおうと必死です。
女の子と男の子、根競べに勝ったのは男の子の方でした。
男の子は疲れてクタクタしている女の子に言いました。
「それ、ボクがなんとかしてあげるよ」
男の子は自分の春風を掴むと、その春風をほぐしだしました。
男の子は春風をほぐしてそこから一本の糸を紡ぎだすと、今度はその春風の糸を編んで、一組の手袋と一着の服を作ってみせました。
「これあげるよ」
「これを私に?」
「うん。春風でできているからきっと暖かいよ。着けて見て」
男の子に促されて、さっそく女の子は貰った手袋と服を着けてみます。
すると女の子の体が不思議な暖かさに包まれました。
「似合う、似合う。お次は僕を触ってみてよ、平気だからさ」
女の子は、恐る恐る手を男の子へと伸ばしました。すると、不思議なことに男の子は凍りません。
「外に出てみんなと遊ぼうよ」
男の子に手を引っぱられ、女の子は氷のどうくつから外へと飛び出ました。
女の子が外へと出ると、茶色い地肌の見えていた雪山の地面は真っ白な雪へと変わり、色づいたまま残っていた木々の葉っぱたちはみな落ち、冬がやって来ました。
その日から、女の子はひとりぼっちでいることをやめ、もう寂しくはなくなりました。
それからは雪山には、毎年きちんと明るい冬がやって来るようになりましたとさ。
ただ、一つ困ったことが。
それは、女の子のいる雪山だけ少し早めの春風がやって来るようになったそうです。
ペンネームについてはスルーで。