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異界の悪魔が恋をして

悪魔はただいまデート中 Part2

作者: 縁ゆうこ

 12月に入ると、人間界はクリスマスムード一色で急にロマンティックになるんでしゅ。

 そんな中、ボクは那波ななみさんと海沿いの水族館にやってきました。


 水族館前の広場には、さまざまなイルミネーションに加えて、恒例の大きなクリスマスツリーが設置されています。季節柄、昼間でも灯りをともしてあるそのあたりはとても豪華で、人がたくさん集まっています。

 毎年趣向を凝らしたツリーが飾られてるらしいんでしゅが、今年は白とブルーを基調とした、シンプルながらも海をイメージした癒やされるツリーに仕上がっている、と、那波さんに教えてもらいました。


「わあ、ステキね~。明日羅くん、写真撮ってもらいましょ?」

「はい」


 近くにいたカップルにシャッターを頼み、また、こちらも先方のカメラで二人を撮ってあげました。その後に、那波さんにツリーの前に立ってもらって写したり、イルミネーションやツリーだけを写したりして満足したボクたちは、水族館へと向かいました。


 ここの水族館はジンベエザメやマンタが人気で、いつでも大賑わいなんでしゅ。ここへ来るのは2回目ですが、人の流れを上手く考えた造りになっているため、満員でもゆったりと水槽を眺められるのがボクは気に入ってます。


「いつ見てもジンベエって可愛いわね~癒やされちゃう。あ!ちょうどごはんの時間みたいよ。すごーい、あの口!」


 一日に何度かジンベエザメのお食事タイムと言うのがあって、今日は上手いことそれにあたったようでした。那波さんは飽きずにジンベエがエサを吸い込んでいくのを見やってます。そうやって那波さんが楽しそうにしているのを見ていると、ボクもほんわかと幸せになるんです。


 じ、じつは水族館に入ってからは、人に流されそうになるからと、はぐれないように那波さんがしっかりボクの腕につかまっているんです。ですが!おつきあいを始めた頃はそれだけで固まっていたボクも、ようやく普通でいられるようになったのでしゅ。成長ー、心の中で拍手!


 大水槽をぐるりとまわるように歩くと、長い階段状になったベンチがあって、皆そこで休憩しながら、のんびり目の前の水槽を眺めたりしています。


「ちょっと疲れちゃった~。ねえ明日羅あすらくん、休んでもいい?」


 などと可愛く言う那波さんに誘われたら、断れるはずがありません。「は、はい」と、その時ばかりはちょっとドギマギしながら、ボクたちは休憩をかねてそこに座りました。


「はい、これどうぞ」

 と那波さんが差し出したのは、小さなキャラメル。館内の飲食は禁止となっていますが、これくらいなら許してくれますよね。


「疲れたときは甘い物が良いのよ。ふふっ、明日羅くんなぜかこのキャラメル好きよね?」

「!」

 そうなんです、前に残業してたときに、用事で13階に来た那波さんが今と同じセリフで、机にチョンとおいてくれたキャラメル。その時はまだお付き合いもしていなかったので、那波さんは何の気なしに置いたのだろうけど。


 ボクはとっても嬉しくて、その一つが食べられなくて。机に大事にしまうのを見て、あきれたあいつがもうひとつもらってくれたんです。で、笑いながらもう一つくれた那波さんを見て。すごく恥ずかしかったんでしゅが、それを口にすると、その甘さが那波さんの優しい気持ちみたいで身体に染みて…

 それ以来、このキャラメルはボクの残業のお供になっているのでしゅ。


「あ…ずっと前に残業してたとき、那波さんにもらって…それから、す、好きになったんです」

「え?」

 那波さんはちょっと固まっていましたが、そのあとほわっと微笑んで、

「あんなこと、まだ覚えてたんだ。ふふっでも嬉しい~」

と、コトンとボクの肩に頭を乗せてきました。アワワワ。ずいぶん成長しましたが、やはり不意打ちをくらうといけません。ちょっと固まってしまいましたよ。


 そのあとは、またゆったりと魚を見て回って。

 水族館を堪能した後。

 ふざけてちょっと海岸の方を探検してみようと言う話になって、水族館のまわりをそぞろ歩いていると。

 そこはあったんでしゅ。


 水族館の裏手に、忘れ去られたようにたたずむ古い小さな遊園地。

 すべて木製の、十人も乗れば満杯になりそうなメリーゴーランドだとか、同じ所を何度もぐるぐる回るだけのジェットコースターだとか。遊園地を一周する汽車の乗り物も、レトロな木の作り。


 水族館一帯の再開発から取り残されたようなその場所は、それでもたまに人が迷い込んで、乗り物の動く音が響いていました。


 最初はびっくりして「こんなところがあったのね~」と言っていた那波さんは、ちょっといたずらっ子のような顔をして、ボクの手を取ってジェットコースターに乗り、

「わぁー!けっこう怖いのね~」

 などと言ってキュウとつかまって来るんです。な、那波さん。

 那波さんってどんな状況でも楽しめる人なんでしゅね。だから大好きなんですが。


 そしてコースターの出口をでると、目の前に「ミラー迷路」と言う看板のかかった建物があったんです。


「あ、なつかしい。昔ね、父に遊園地に連れて行ってもらったことがあるの。その時にこんなふうに鏡で作った迷路があって、その中で父とはぐれちゃって、すごく泣いたのを覚えてるわ。そんなに難しいのかな、ねえ、入ってみましょうよ」

「あ…はい…」


 中にはふたつ迷路があって、ひとつは普通に入り口から入って出口へむかうもの。

 もう一つは、「恋人用迷路」?となっていて、左右の端に一つずつ入り口があって、真ん中にゴールがあり、「最後までたどり着くとラブラブ度上昇間違いなし!」とかなんとか勝手なセリフが書いてあります。


「恋人用迷路ですって。もちろん私たちはこっちよね、明日羅くん」

 窓口でチケットを買うと、那波さんは当然と言うように、そっちへ歩いて行きます。

 那波さんとはそこで左右に分かれてそれぞれの入り口へ向かいました。


「あれ?なーんだ」

 入り口から中を覗いたボクは思わずつぶやいてました。これって、鏡渡りじゃないか!

 最近はあっちの世界へも帰らないのでご無沙汰してますが、鏡が張り巡らされているその空間は、鏡渡りするときのそれとよく似ています。


「これじゃ、迷路もなにも…」


 ボクはちょっと拍子抜けしましたが、遠くから「明日羅くんもう着いた?じゃあいくわよ~」という嬉しそうな那波さんの声がしたので、「はい」と返事しました。


 すると、那波さんの「わあ~最初からぶつかっちゃった」とか「あれ?あれあれ、どっちかしら?」などと言う声が聞こえるので、心配になってしまい、そそくさとゴールへ向かいました。


 もちろん、まっすぐに歩いて。


 ボクたち悪魔にとって鏡は通り抜けるもの。

 鏡はあって無いようなものなんです。途中に透明なアクリル板があったって、鏡が隣り合わせだったり、足下が鏡だったりすればチョイっと抜けられるんです。


 難なくゴールにたどり着いたボクは、那波さんのいるらしい方を透かして見てみました。那波さんはあっちを見たりこっちを見たりしながら、チョッピリ不安そうに迷路をたどっています。

 それを見ていたボクは、心細そうな那波さんを放っておけなくて、きっと怒られるだろうなと思いながら、ぼふん!と鏡渡りサイズになって那波さんの所まで行ってしまったのでした。


「な、那波さん」

 ボクはフワフワと浮かびながら、那波さんに話しかけました。

「え?ああ!明日羅くん。だ~めよ~、私一人でゴールまで行くんだから」

「ええっと、そうなんでしゅが…那波さんの不安そうなお顔を見てたら、いても立ってもいられなくてでしゅね」

「明日羅くん…」

 そう言うと、那波さんはボクを捕まえて、キューっと胸に抱えてくれたんでしゅ。ボクはまた真っ赤っか。


 しばらくあたふたしていたボクでしゅが、ふとあることを思い出しました。

 それは、以前にルエラ叔母さんに聞いてみたこと。那波さんと一緒に鏡渡り出来ないかなって。すると、

「とんでもない!アスラ!絶対に人間を鏡の世界へ連れて行ったりしちゃ駄目よ!帰れなくなるわよ!」

と、こっぴどく怒られたのでした。

 ボクたち悪魔と人間とはそういう点では全然別物なんだそうです。


 だから、今ここで、仮想っぽくではありますが、鏡の世界を体験させてあげたらステキだなって。

 それで、またまたルエラ叔母さんが出てくるんですが、彼女はこっちの世界へ来てから、こっちの科学とやらとボクたちの術を融合できないか、日夜、小さな努力を積み重ねながら、色々研究中なのでしゅ。

 それらにはボクもすごく興味があって、この間、写真を術で浮かび上がらせて、景色と重ね合わせると言うのを教えてもらったばかりなのでした。


「那波さん、さっき撮った写真がありましゅよね?」

「ええ、ちょっと待ってね。でもなんで?」


 ボクはまた、ぼふん!と本来の姿に戻り、那波さんの差し出したカメラを受け取って、イルミネーションを画面に出し、反対の手でそっと那波さんを抱き寄せてボクから離れないように言いました。


 そして。

‥∀‥◆‥‥‥§☆★

 まだ試験段階だけど、このあいだ成功した呪文を唱えると…


「わぁ~ステキ!」


 あたりがキラキラと輝きだしたかと思うと、広場にあったイルミネーションがそこに浮かび上がり、それらが鏡に映り込んでボクたちのまわりを取り囲んでいます。まるで万華鏡のように。そして、ボクたちがちょっと動くと、それに連動して景色がユラユラと変わっていくんです。


 ああ、そう、これこれ。12月の鏡渡りっていうのは、人間が急に作り出すイルミネーションがあっちこっちで鏡に映り込むんで、すごーくきれいなんでしゅよね。

 ボクたちの使う鏡の範囲は、ビルが壁代わりに使っているような、まっすぐではっきり写る鏡もどきでも大丈夫。だから外での移動も楽チンなんでしゅ。


「明日羅くん、すごいことが出来るのね」

「はい。この迷路って、鏡渡り…は知ってますよね?あれにすごく似てて。そこにルエラ叔母さんから教えてもらった術で、写真を移し込んだんです」

「そうなの。それにしても、なんて綺麗…」


 那波さんはうっとりしてて、その笑顔がとっても可愛くて。

 嬉しくなったボクは、今いる場所が頭から抜け落ち、あいつにそそのかされたお陰で自分から出来るようになったKissを那波さんに落としたんです。

 でも、唇が離れたあとで見た那波さんは、今日に限って真っ赤になっています。

「?」


「おにいちゃんと、おねえちゃん、ラブラブー!キスなんかしてるー!」


 急に聞こえた甲高い声に、ゲッとなって振り向くと…

 さっきまで、だーれもいなかったのに!

 なぜ子どもが、恋人用の迷路に!

 すると、「こ、こら!すみません。だからあっちの迷路にしようって言ったのに」と、父親らしき人が慌ててやって来て、その子を連れ去って行ったのでした。


 そのあと。

 ボクはその場でしばらく真っ白になっていたのでした。


「明日羅くん、そんなに謝らないで。すごくステキだったから」

 すみませんすみません、と、何度も頭を下げるボクに優しく言ってくれる那波さん。

「ほ、ホントですか?」

「うん!鏡の世界も、Kissもね」

 などとウィンクしながら言われて、またカキーンと固まってしまうボクなのでした。


 でも、聞くところによると、あのあと、なぜか恋人迷路の中でKissをしたカップルは必ず幸せになれるというジンクスが生まれて、今ではその「ミラー迷路」は大盛況。

 毎日2時間待ちはあたりまえなんだそうです。

 まったく世の中、良くわかりません。




ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

この二人は、ホントにラヴラヴなんですが、あまり進展がありませんねえ。

未だにKissどまり。

次回ではもう少し頑張ってくれれば良いですね。

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