資産家独居老人の道楽10
テレビのある茶の間でアキが子供を抱きながらテレビを見ている。とは言えサブスクが観たいとテレビを買い替えたのだが、とても楽しそうだ。
「のう?アキよ。この異世界転生が多いのはなぜじゃろうな?」
「剛田さんは良いところに気がついたわね!これは小説家になろうに投稿された作品でなろう系作品には転生ものが多いのよ」
「ふむふむ」
「なろう系アニメも数百作品アニメ化されてるのよ!」
「この間観たあれもそうかの?」
「私なろう系が好きだから全部そうよ」
うむ、これも時代というやつなのだろうのう。
ワシはそれから独田中松に呼ばれてまた新しい格闘家の技をインストールするとのことで、地下の実験室へ行った。
例の青年のローキックから始まり。
当代最高の空手家。
ボクサー。
合気道。
システマ…これは良くわからんかったのう。
中国拳法…太極拳、八卦掌、八極拳…もう数え切れんのじゃ。
次々とインストールされるモーションキャプチャからのデータ。
「のう?独田よ、ワシをどうするつもりなのじゃ?」
「最強を目指していますよ」
「そろそろ刀を振るってもよいかの?」
「あ、剣術家を忘れてました!!」
「剣術家はよいのじゃ」
こうしてワシは接近戦特化型に更に進化したように思えるのじゃ。
茶の間でアキと甚右衛門とニュースを観ていると、どうやら巨大隕石が地球に最接近するようなのじゃ。
「これほど大きな隕石が地球の近くを通過するのは何万年ぶりなのでしょうか?」
アナウンサーの声が聞こえると宇宙望遠鏡鏡からの映像に切り替わったのじゃ。
「この大きさは恐竜を絶滅させた隕石の倍以上はあるそうです。次のニュースです」
アキはまたサブスクでアニメを見始めていたのじゃ。
しかし…異世界転生した者たちは米を探すのう。
ワシは1日数回点滴を受けるのじゃが、時間を取られてめんどくさいのう。
起きて点滴、昼に点滴、夜に点滴じゃ。たまったものではない。
「剛田さんの生命の維持のためには、どうしても必要なので」
黒澤惹句も独田中松も口を揃えてそう言う。
ただし食事は出来ないのじゃ。
米が食いたいのう。
アキはサブスクでアニメ、テレビのニュース、アニメと毎日のように観て、時折散歩に出かける。八岐の大蛇メンバーの数人を連れて。
「巨大隕石が地球に衝突する可能性が、0.001%になったとNASAが分析結果を報告しました」
アキの消し忘れたテレビからニュースが流れていた。
独田中松から裏の森の1部を切り開き設備を作りたいと言うので、許可を出した。何をするんじゃろうのう。
そんな日々が続いたある日。
「剛田さん!隕石が地球に衝突するかも!?」
「何をいうておるのじゃ?アキは心配性じゃのう」
「速報です!巨大隕石の軌道が変わりました!地球へ衝突するか可能性は55%を超えました!世界各国の首脳が電話会談をし、核攻撃を加えることが決定しました」
「無意味なことをしますね」
独田中松はそう言った。
「独田中松はどうするつもりなのじゃ?」
「この核攻撃の結果を見てから、剛田さんにお話しすることがあります」
「なんじゃ?改まって?」
3日後地球から無数の核を搭載したミサイルが発射された!
それは全世界にライブ配信されて、巨大な隕石に次々と核爆発が起きるのを全世界の人々が見守っていた。
「ニュース速報です!巨大隕石は健在!巨大隕石は健在です!」
「やはり無意味でしたね」
独田中松はぼそりと言った。
続報は続いた現存するシェルターに避難しても、危機を回避することは不可能なこと。
各国が希望する国民に安楽死する薬剤を配布することを発表したこと。
馬鹿げておるのう。しかし…ワシにもどうにも出来そうもないわい。
独田中松が駆け寄って来てワシに話があると言った。
「剛田さんの極小化ブラックホールコアを使わせて下さい」
「それはかまわんのじゃが、外せばよいのかの?」
「いやいや、外せは剛田さんは即死なので…。巨大隕石に体当たりして欲しいのです」
「何を言うておるのか本当に分からんのう。どのみち即死じゃろうて」
ワシはニヤリと笑うしか無かった。
「よろしいですか?極小化ブラックホールに巨大隕石を食わせます。その後に剛田さんには帰還してもらいます。すべてのコントロールは我々が責任を持って行いますので、ご安心下さい」
「もう一つ極小化ブラックホールコアは作れんのかの?」
「剛田さんに装着した極小化ブラックホールは奇跡的に稀に見る安定性があります。数度製作を試みたのですが、失敗しました。もしくは…この地球を飲み込む可能性があるので中止しまして、この地球に現存する極小化ブラックホールコアは剛田さんの持つものだけです」
「しかし…どうやって空まで上がるのじゃ?」
「それはもう完成しております!」
アキは甚右衛門を抱きしめてポロポロと泣いている。
これは…。
ワシが役に立つなら皆を守ってやらんとのう。
「独田よ善は急げじゃ!すぐに始めるとするかのう」
「準備は万全です!しかし奥様にお伝えしなくてよろしいのですか!?」
「ワシはそんな究極の選択をアキに強いることはできんのう」
ワシは独田に巨大なランドセルのような物やら、色んな付属品を取り付けられて、裏庭の森に立っていた。
「剛田さん通信で、いまどのフェーズかはお伝えしますので、特に剛田さんがすることはありませんからね!」
「わかったのじゃ!やってくれ!」
ワシの背中、胸の前、両脚から炎が噴き出して、ワシはあっという間に空高くへ飛び上がっていた。
「---独田です!剛田さん!聞こえますか!?」
「少々周りがうるさいが聞こえておる」
「---あと、1分で目標の巨大隕石とランデブーします!」
「わかったのじゃ!」
ワシは足元を眺めたのじゃが……。
この星はなんという美しい姿をしておるのじゃ。
ワシの大切なものは、この星のすべてなのじゃろうのう。
いつか甚右衛門の出会う大切な誰かも守りたいものじゃわい。
「---全推進器パージします!」
「パージとはなんなのじゃ!」
ワシに取り付けられたすべての付属品が分解して落ちていった。と同時に足の裏から炎が出て来たのじゃ!
「巨大隕石とコンタクトします!胸部極小化ブラックホールコア露出開始!」
ワシの胸が観音開きに開いて透明なケースに収まっている黒い小さな珠が見える。
しかし巨大隕石はどこにもないのう。
「コンタクトします!!」
「ええ!?」
ワシは目の前に大きな壁があることにやっと気がついたのじゃ!
「---剛田さん!そのまま絶対に動かないでくださいね!!」
「わかったのじゃ!」
巨大隕石が剛田甚左衛門の胸部の極小化ブラックホールの透明の容器を壊し極小化ブラックホールに触れた途端に、グイグイと引き伸ばされて吸い込まれるのが見えるのじゃ。
あと少しで全部吸い込まれるじゃろう。
「全部入ってしまうのじゃあああ!!」
ワシは巨大隕石を右手で押し込んだのじゃ!!
やってやったぞい!!と思ったのも束の間でワシの右手は極小化ブラックホールに吸い込まれて行った。
それは刹那の時間のようでもあり、無限に続く時間のようでもあった。
右手、右腕、右肩、頭、次々とブラックホールに吸い込まれていくのじゃった。
そして…。
気がつくと真っ白い空間でワシはただ立ち尽くしていたのじゃ。
「ほう、ここへ誰かが来るのは50000年ぶりかな」
知らない誰かの声が聞こえたのじゃ。




