猫、王子のペットになる
フリードは魚を二切れ食べた後、オットーが気を利かせて持ってきたお粥もきれいにたいらげた。
もちろん毒見役のあたしが匂いを確認。
食器もすべて問題なし、と太鼓判を押してからの食事だから安心安全。
実際に食べて毒見するのはフリードがどうしても許してくれなかった。
死なないから大丈夫って言ったんだけどね。
久しぶりにお腹を満たしたフリードは、眠そうに目をしばしばさせていた。
いろいろ話し合おうと言っていたけれど、とりあえず眠ったほうがいい。そう言ったのはあたしだ。
そして彼は、翌朝目覚めて真っ先にこう言った。
「こんなに気持ちのいい朝は、生まれて初めてかもしれない」
もちろん、あたしは再びフリードの背中にぴったりくっついて就寝していた。
「ゴロゴロ喉を鳴らす振動がすごく心地いいんだ。君の温もりを感じると、とても安心できる」
そうだろうそうだろう。
猫のありがたみを思い知るがいい。
ふふん、と胸を張ると、フリードがなぜだか嬉しそうに笑った。
「どうか僕と一緒にここに住んでくれないか? 君がいるだけで、不思議と気持ちが明るくなる。力が湧いてくるんだ」
フリードに言われて、あたしは考えこんだ。
これまでも良い飼い主はいた。
そして……良い飼い主だった分、お別れはとても悲しかった。
独りで生きていくことに決めたのも、お別れが辛いから。
あたしはいつも見送る側。
いつも置いていかれる側なんだ。
あたしがしょんぼりと俯くと、フリードが心配そうな顔つきになった。
(まずいな。あたし、もうこの子のこと好きになっちゃってるかも)
好意を持てば、別れが余計に辛くなる。
「僕と一緒にいるのが嫌?」
フリードの声がまた弱々しくなったので、あたしは思わず顔を上げた。
彼の瞳は不安そうに揺れている。
拒絶、と誤解されたのかもしれない。
あたしは慌てて言いつのった。
『あ、あのね。あたしは無力な猫として永遠に生きなきゃいけない呪いをかけられてるの。仲良くなっても、いつもお別れしないといけない。それがとても悲しいの。だから、あまり仲良くならないように一人で暮らしていたのよ』
「なるほど……。残酷な呪いだね」
フリードは静かに言った。
「君は二百年も、ずっと一人で苦しい思いを抱えて頑張ってきたんだね」
この子は本当に、人の泣くツボを心得ているような気がする。
でも、めそめそするのは嫌だ。
昨日は不意打ちをくらって泣いちゃったけど。
あたしは彼から目を逸らして、顔を洗うことにした。
前足や肉球を舐めては顔に撫でつける。
やっているうちに無心になれるのだ。
「君は呪いを解きたいと思う?」
いきなり核心をつく質問に、あたしは前足をぴたりと止めた。
『そりゃ、もちろん。でも、呪いをかけた魔女は見つからないし、今も生きているかどうか分からない。多分死んでるんじゃないかなって気がするし……。どうやって解いたらいいのかも分からないもの』
フリードの顔が、ぱっと紅潮した。
「それなら、僕が助けられるかもしれない」
『え?』
「実は僕も呪われているんだ。だからもう何年も呪いの研究をしてきている。君の呪いを解く手がかりも探せるかもしれない」
そう言って、真っ直ぐこちらを見る。
「呪いが解ければ、君はもう別れを心配することもなくなるだろう?」
『えええ!? あなたも呪われているの!?』
もしかしたら。
どこか懐かしさを覚えたのって、同じ呪われ者同士だったからなのかしら?
呪いの研究をしてきたフリード(しかも多分魔力持ち)と協力できれば、本当に手がかりが得られるかもしれない。
少なくとも、一人で暮らしているよりは可能性が高い。
計算高いと言われるかもしれないけど、フリードの申し出はあたしにとってとてもありがたいものだ。
『分かった。でも、もらいっぱなしは嫌なの。だから、あたしのことも利用してちょうだい。とりあえずは毒見役をさせてほしい』
フリードはくしゃくしゃの笑顔を見せた。
「君のおかげで僕は眠れるようになったし、夕べは久しぶりにお腹がふくれたよ」
そしてあたしの頭や背中を優しく撫でる。
「もらいっぱなしなんてとんでもない。僕のほうが沢山もらっている。だから大きな顔をしていればいい」
あまりにもあからさまに喜んでいるから、あたしは首を傾げた。
「毒見役……というより、匂いで確認してもらうだけでも十分だよ。君はいてくれるだけでいいんだ」
たかだか猫一匹で、こんなに喜んでくれるものかしら?
「詳しい話は朝食の後にしよう。朝食はどうする? またここに持ってきてもらう? 僕は普段食堂を使うけど構わない。最近は何も食べないことが多いし」
『じゃあ、あたしも食堂に行くわ。食事が安全かどうか、あたしがちゃんと見張ってあげるから』
「そうか。よろしく頼むよ」
そう言ってフリードは身支度を整えると、あたしをひょいと抱きあげて肩の上に乗せた。
立ち上がると思っていたより背が高い。でも肩幅はやっぱり細くて安定しない。
「ちゃんとつかまっててね」
ぎゅっと肩に爪を立てたら、
「い、いた、いたたたた!」
となってしまったので、爪を立てずにバランスを取るようにあたしは頑張ったのである。




