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【挿話】王太子フリードリヒ・フォン・ライナー その1

 僕はライナー王国の王太子、フリードリヒ・フォン・ライナー。現在十八歳。


 兄弟はいない。

 将来、この国を継ぐことになるだろう。


 もっとも……。


 病弱で、体も小さく、発育不良。

 はっきり言えば、年齢よりずっと幼く見えるはずだ。


 周囲の人間が、


『こんなに虚弱で、将来国王になれるのか?』


 そんな不安を抱いていることも、もちろん知っている。


 けれど国王である父上は、その噂を意に介してはいない。


 魔女であった母上の血を引く僕は、黒目黒髪。

 そして魔力もきちんと受け継いでいる。


 将来は有望な魔導士になる、と宮廷魔導士たちからも太鼓判を押されているからだ。


 それに父上は知っている。


 僕がしょっちゅう体調を崩して寝たきりになるのは、体が弱いからではない。


 毒を盛られているからだ。


 誰が毒を盛っているのかは分からない。


 もう何年も、父上は犯人を見つけようとしてくれている。

 けれど、よほど巧妙なのか、いまだに見つかっていない。


 毒見役が確認した後なのに、毒にやられることもある。毒見役が誰であっても、同じことが起こった。


 毒のせいで死ぬ間際までいったことも一度や二度ではない。


 その影響もあるのだろう。


 努力して鍛えているつもりでも、なかなか筋肉がつかない。


 ……いや、正確に言えば。


 毒で体調を崩すことがしばしばあり、鍛える時間そのものが取れないのだ。


 毒を盛られすぎたせいで、どんな料理にも恐怖を覚えるようになった。


 食欲がわかない。


 ほとんど何も食べず、一日が終わることも増えてきた。


 ただ……


(どうして僕ばっかりこんな目に)


 そう思ったことは、ない。


 むしろ。


 僕は当然の報いを受けているのだ。


     ◇◇◇


 十歳の時のことだ。


 真夜中に突然、見知らぬ魔女が僕の寝室に現れた。


 ライナー王国では魔石と呼ばれる魔力を持つ鉱石を産出している。そのためか他国と比べて魔法使いの数が多い。王宮には宮廷魔導士もいる。


 王城には貴重な魔石も保管されているため、近衛騎士団、衛兵、警備兵の数も多い。


 それだけではない。


 宮廷魔導士が王城全体に結界を張り巡らせている。


 そのため、魔法使いであっても外部から侵入するのは非常に困難なはずだった。


 それなのに……


 その魔女は深夜の寝室に侵入し、僕に呪いをかけた。


 黒目黒髪。


 いかにも魔女らしいその女は、高笑いしながらまだ十歳だった僕を指さした。


「ほーっほっほっ、身の程知らずなお前の母親のせいで、お前が罰を受けるのだ! 生涯お前を苦しめ、自分を責め続ける呪いをかけてやる!」


 魔女が僕の顔に人差し指を向ける。


 その刹那、指先から……


 真っ黒で血に濡れた矢のようなものが現れた。


(よけきれない!)


 次の瞬間。


 正面から僕の額に漆黒の矢が突き刺さった。


 悪寒が走る。


 同時に、額から何かおぞましいものが体の中へ吸い込まれていくのが分かった。


 僕は一瞬、意識を失った。


 すぐに意識は戻ったが、恐怖で声が出ない。


 全身がガタガタと震えていた。


 今、自分に何が起こったのだろう。


 その時だった。


 扉が勢いよく開いた。


「フリード!」

「衛兵! 早く王太子を守れ!」


 異変を感じて駆けつけてくれたのは、父上と母上だった。


 だが魔女は勝ち誇った表情で二人に告げた。


「既に呪いは成就した! 禁忌を犯せば王太子が最も愛する者が死ぬだろう!」

「なんですって⁉」

「どういう意味だ!」


 魔女は父上へ顔を向け、妖艶に嗤った。


「ある日、この子供は、自分のせいで一番愛する者を殺す運命にある。そなたがそんな魔女を選んだばかりになぁ」

「その髪と目の色……あなたも魔女なのでしょう? わたくしたちに一体どんな恨みがあって……」

「はっ! わたくしを莫迦にする者は誰であろうと罰を受けるのよ!」


 魔女が叫んだ瞬間、強い光が部屋を包んだ。


 そして。


 その場にいた人間は、一瞬にして意識を失った。


 当然、僕も。


 翌朝。


 目を覚ますと、僕は自分の寝室に寝かされていた。


 王城は騒然としていた。

 真夜中に王太子の寝室へ侵入者があったのだから、当然だろう。


 城の騒ぎに落ち着かなくなったのか、王城で飼われているヤシオウムのサミュエルもギャーギャーと大声で鳴きながら飛び回っていた。


 ヤシオウムは長生きだ。


 寿命は百年近くあるらしい。


 前国王である祖父が気に入って飼い始めた鳥で、今でも元気にピンピンしている。しかし、傍若無人で食器を割ったり人を襲ったりするので正直あまり人気がない。


『憎まれっ子世にはばかるって本当ね』


 なんて侍女たちが話していたこともある。


 とんとん。


 ノックの音がした。


 父上と母上が、恐る恐る顔を覗かせる。


「フリード、目が覚めたか? 具合はどうだ?」

「どこか痛いところはない?」


 二人の顔は青ざめていた。


 当然だろう。


 僕は昨夜、知らない魔女に呪いをかけられたのだから。


 『呪い』


 僕にはほとんど知識がない。


 ただ、ライナー王国では呪いは違法とされている。


 確か……。


 人ひとりを呪うには、別の人間を一人犠牲にしなければならない。

 そんな話を聞いたことがある。


 あの魔女は、僕を呪うために誰か別の人間を殺したのだろうか?


 想像しただけで、胃の奥から何かがこみ上げてきそうだった。


「フリード、まずは朝食をとって。その後でゆっくりお話ししましょう」


 そう言って、母上は優しく微笑んだ。


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