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猫、捕まる

 ある時、あたしはライナー王国という小さな国に住みついた。


 他の国では採れない希少資源、魔石が算出されるので、小さいわりにかなり豊かな国らしい。


 そのせいか魔法の研究が進んでいるという噂を聞いた。もしかしたら呪いが解けるヒントがあるかもしれない、とシャボン玉よりもはかない希望を胸にやってきた国だった。


 ……まあ結果から言うと、住みついた理由はだんだん別の方向に変わっていくんだけど。


 というのも、この国……


 めちゃくちゃ住み心地がいい!


 人々の生活には余裕があるし、野良猫にも親切な人が多い。


 王都なのにどこかのんびりした田舎町みたいな雰囲気も気に入ったし、それに何より……


 港が近い。


 つまり、新鮮な魚が手に入る。


 ……うん、これ大事。とても大事。


 そんなわけで、気がついたらずいぶん長く居ついていた。


「お、にゃんこ、また来たな! ほら、これ大きいけど傷物になったから売れないんだ。やるよ!」


 そう言って、大きな魚をぽいっと投げてくれる漁師。


 お腹にちょっと傷があるだけで売り物にならないらしい。


 野良猫としては大歓迎である。


 あたしは新鮮なご馳走にほくほくしながら、物陰に魚を引きずり込んで舌鼓を打っていた。


 美味しい。

 とても、美味しいよ~。

 ありがとう、漁師さん!

 ありがとう、魚!

 ありがとう、海!


 全てのものに感謝しつつお腹が丸く膨れて満足したあたしは、どうやら完全に油断していたらしい。


「おっ! 見つけたぞ!」


 背後から人間の声がした。


(やばい!)


 逃げ出そうとしたその刹那。


 唐突に首根っこをつかまれた。


 ぎゃーーん! ぎゃんぎゃん! しゃーーーっ!!


「お、おい! 引っかくな! い、いてー!」

「仕方ないな。離すなよ」


(えっ、二人もいたの!?)


 動揺した次の瞬間、あたしの目の前が真っ暗になった。


 大きな布をかぶせられて包まれたことに気づいたのはそのあと。


 必死に暴れて抵抗したけど……


 まったく効果なし。


 あたしは軽々と運ばれていった。


(これからどうなるの……!?)


 不安で震えるあたし。


 そして次に気がついたときには大きなお屋敷の中にいた。


 しかも。


 いい匂いのする泡のお風呂に突っ込まれている。


 知らない女の人に「ほら! いい子にして!」と言われながら、全身をゴシゴシ洗われる屈辱。


 ……いや、屈辱なんだけど。


 でも泡はいい匂いだし、お湯は変だけど気持ちいいし、なんだか複雑。


 お風呂の後、濡れた手足を高速ぶるぶるして不快感を飛ばしていたら「いやだ可愛い!」という声とともに、ふかふかの布に包まれた。


 そのあと、優しく乾かしてもらって櫛で丁寧に毛並みまで整えてもらう。


(あれ……?)


(なんだかこの感覚……懐かしい……?)


 王宮で大切にされていた頃の記憶なんて、遠い昔に忘れてしまっていたあたし。


 改めて周囲を見回してみる。


 ……すると。


 ここは大昔に生まれ育った王城よりも、はるかに贅沢で繊細な装飾が施された部屋だった。


 広大なお屋敷であることも、高級な家具が並んでいることも一目で分かる。


(貴族の屋敷……?)


 そう思っていたら世話をしてくれていた女の人があたしと目を合わせてニッと笑った。


「今から王太子殿下にご挨拶するからね、猫ちゃん!」


(……おうたいしでんか?)


 あたしが小首を傾げていると、女の人は感極まったように叫んだ。


「もう~っ、めっちゃくちゃ可愛い! 毛並みもいいし、飼い猫だったんじゃないかしら?」


 ギューッと抱きつかれそうになったので慌ててするりと抜け出すと……


 シャーーーッ!!


 威嚇して(どうだ!)とばかりに胸を張った。


「うーん、やっぱり野良猫かしらねぇ?」


「アンナ! 猫はどうだ?」


 その時、扉が開いて背の高い男の人が入ってきた。


 ……聞き覚えのある声。


(あ!)


(さっきあたしを捕まえたやつだ!!)


 あたしは即座にテーブルの下へ避難。


 そして再び


 シャーーーッ!!


 威嚇(どうだ!)


「あ、悪い悪い。怖がらせたかな?」


 くそぅ、まったく威嚇が効いていない。


(ならば実力行使だ!)


 手を伸ばしてきた男の手の甲を、あたしは思いっきり爪で引っかいた。


「いてっ! こいつ、さっきも俺を引っかきやがった! 殿下も引っかかれたらどうする?」


(ふんすー!)


(ざまーみろ! 天誅!)


 鼻息荒く勝利に酔っていたあたしを「仕方ないわね」とアンナが抱き上げた。


 そのとき。


 半開きの扉の向こうから「ギャー」という鳥の鳴き声がした。


 あたしの全身の毛が一瞬で逆立つ。


 そこには……


 あたしとあまり大きさの変わらない黒いオウムが扉の隙間から部屋を覗きこんでいた。


 しかもトコトコと歩いて部屋の中に入ってくる。


 あたしは瞬時に悟った。


『こいつは敵だ』


 アンナの腕から素早くすり抜けてあたしはオウムに飛びかかった。


 爪を伸ばしてオウムに襲いかかるあたし。


(絶対やっつけてやる!)


 狩猟本能に突き動かされた結果……


 相手は


 飛んだのであった。


 黒いオウムはトサカのような冠羽を大きく広げて威嚇しながら部屋の外へ飛び去ってしまった。


 ……くそぅ。


「もう! ハンス、気をつけてよ! ドアはちゃんと閉めて! サミュエル様に傷をつけたら大目玉よ! 何十年も王宮で飼われている大切なオウム様なんだから」

「ああ、悪かった。猫と鳥は相性が悪いからな。でも、こいつは想像以上に狂暴だ」

「爪を切っておいたほうがいいわね。ハンス、ちょっと押さえていて」


 その後。


 あたしの必死の抵抗もむなしく……


 爪、全部切られた(涙)。


 さらにヤスリで滑らかに整えられるという念の入れよう。


 ……くそぅ。


 なんという屈辱。


 もう引っかかれる心配がなくなったせいか、ハンスは鼻歌を歌いながらあたしを抱き上げてニヤリと笑った。


 ふと横を見ると籐でできた箱型の手籠が置いてある。


 前面は竹の格子のようになっていて中がよく見える。


 ハンスは格子状の扉を開けると、逃げ場のないあたしをその中に押しこんだ。


(牢屋に入れられたみたい)


(まあ……抵抗しても無駄そうね)


 無駄な努力はしない。


 それが賢い猫の流儀。


 ハンスが手籠を持ち上げてどこかに歩いていく間、あたしはおとなしく毛づくろいに集中することにした。


 そのまま手籠の中でしばらくゆらゆら揺られていると、長い廊下の突き当たりにある大きな扉の前でハンスは立ち止まった。


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