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猫、犯人を知る


あたしはオットーに抱えられて、フリードが毒を盛られて運び込まれたという医務室へ向かった。


フリードは弱々しくふるまっているけれど、思っていたよりも元気そうに見える。


「エレと話がしたい」


そう言われて、あたしはすぐに寝台へ飛び乗った。


部屋の片隅では、クラウス宮廷魔導士長と魔女のマルガレーテが小声で何か話し合っている。


『ねぇ、毒って本当なの? 油断しちゃったの?』

「ああ、大丈夫だ。マルガレーテ殿が調合してくれた解毒薬が効いたようだ。すまない。エレがいないところでは飲食しない、と決めていたのに」

『本当に気をつけてよ』

「分かっている。すまない」


苦笑いを浮かべたフリードが、何か言いたそうにこちらを見た。

そしてオットーへ視線を向ける。


「オットー、すまないがサミュエルを連れてきてくれないか? あのまま放置したら可哀相だ」

「はっ、かしこまりました」


オットーが部屋を出ていく。


……何かあったのだろうか?


気配が扉の向こうへ消えると、クラウス宮廷魔導士長と魔女のマルガレーテがこちらへ近づいてきた。


「毒を盛ったのが誰か分かったよ。ふりをしただけで毒は飲んでいないから安心して」

『え⁉』


あたしは驚いて、ぽかんと口を開けてしまった。


いけないいけない。淑女として気をつけないと。


『一体誰が⁉』

「オウムのサミュエルよ」


マルガレーテが悔しそうに爪を噛みながら断言した。

額の青筋が彼女の怒りを物語っている。感情を露わにしない彼女が珍しい。


え⁉

えええええ?


オウムのサミュエルって、あの王宮の古参の?

あたしの仇敵の⁉


「わたくしはずっと夫の仇を探していたの。フリード様を呪うために夫を殺した犯人がいるのよ。王城のどこかに隠れている確信はあった。でも、まさか何十年も城に住んでいるオウムに化けているとは思わなかったわ! 悔しいっ!」


マルガレーテの目は真っ赤に血走っている。


『でも、どうしてわかったの?』


フリードが、あたしの問いに答えた。


「さっき久しぶりにサミュエルに会ったんだ。あれは僕が動物の声を理解できる魔石シアストーンを耳につけていることを知らない」


フリードは静かに続ける。


「サミュエルは、はっきりこう言った。『邪魔な猫はいないようね。今日こそ殺してやる。ああ、魔法さえ使えたら楽なのに』と」


そして付け加えた。


「ちなみにサミュエルは女性だった」


ええええええ⁉


なんてこった⁉


「サミュエルが僕に危害を加えたオウムだと考えると納得がいく。君が来てからサミュエルは僕に近づかなくなっただろう? その間、一度も毒は入っていなかった」


フリードは優しく笑った。


「文字通り、君が犯人を追い払ってくれていたんだよ」


知らなかった。

狩猟本能、グッドジョブ!


「それでオウムと呪いを一度に捕まえたいのです。エレ様、協力していただけますか?」


クラウスが早口で作戦を説明する。


要するに、あたしが囮になって呪いの蛇らしき物体を捕まえるということらしい。


「魔石にかけられた呪いであれば実体があるはずです。動きは素早いですが、猫のエレ様であれば……」


自慢じゃないが、野良猫歴百年以上である。


瞬発力と狩猟能力には自信がある。


『任せてください!』

「ダメだ! 危険すぎる! 君に万が一のことがあったら……」


元気よく胸を叩いたが、最大の難関はフリードを説得することだった。


もうすぐオットーが戻ってきてしまう。


『フリード、いい? クラウスの言う通りにして! そうしないと、あたしはすぐに城を出ていくわ! 二度とあなたには会わない!』

「そ、そんな無茶な……」

『あたしは本気よ!』


金色の瞳で睨みつける。


あたしが本気だと悟ったのだろう。

フリードは不本意そうに、しぶしぶと頷いた。


「では手筈通り、呪いの発動は心からの思いを込めて愛を告白してください。フリード様のエレ様への愛情は本物だと確信しておりますので、発動条件はそろっているかと……」

「分かっている。念を押さなくても大丈夫だ!」


フリードが、なぜか真っ赤な顔で言い放った。


かくして。


オウムは魔法のかかった鳥籠の中に閉じ込められた。


そして、あたしは呪いの蛇を捕まえて、そいつは無事に堅牢なガラス製の容器の中へ封印されたのであった。


◇◇◇


マルガレーテは深く頭を下げた。


「エレ様、信じられないほど失礼な態度を取り、誠に申し訳ございませんでした!」


あたしはうろたえて、キョロキョロと周囲に助けを求める。


「まったくだ。エレを疑うなんて正気を疑う」


フリードはまだ怒っているようだ。


「はい。おっしゃる通りです。ただ、わたくしは夫を殺した犯人を捜していて……。皆様があまりにもエレ様を慕っているので、もしかしたら魔女が猫に化けて入りこんだのではないかと、つい疑ってしまったのです」


夫を殺された女性。

しかも、自分に呪いをかけるために殺された。


その事実を思い出したのだろう。

フリードは口を引き結んだ。


「そうだな。ご主人のことは心からご冥福をお祈りする。サミュエルに化けていた魔女と呪いについてはクラウスがさらに調査をする。詳しいことが分かったら報告する」


「はい。ありがとうございます。フリード様の母君エリーゼ様はわたくしの夫が殺されたのはフリード様を呪うのに必要だったからだ、と。そして呪った魔女は、自分の呪いが発動するのを高みの見物するために王城に近づいてくる、と確信を持っておいででした」


痛ましそうにフリードは俯いた。


「クラウスが完全に呪いを解除できたら、母上を覚醒させても問題なくなるだろう。いまだに謎も多いが、呪いをかけたのも毒で僕を殺そうとしたのも、オウムに化けていた魔女に間違いないと思う」

「はい。エリーゼ様も毒の犯人と呪いの犯人は同一人物だろうとおっしゃっていました」

『じゃあ、もうフリードは毒の心配しないで食事ができるのね! 良かったわ!』


 フリードがあたしに優しい笑顔を向ける。


「ああ。今まで城の誰もがサミュエルに甘すぎたんだ。僕の食器にしょっちゅう近づいていても誰も止めなかった」


フリードがもう安全になったと知って、あたしは心から嬉しくて飛び上がりたくなった。……うっかり尻尾もぴんと立ってしまったけど、これは仕方ないと思う。


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