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【挿話】オットー・ブラウン騎士団団長 その1

「そんなこと、断じて許せませんっ!」


部屋の中から、フリード様の大きな声が聞こえてきた。


(フリード様がこんな声を出すなんて珍しい。しかも……)


部屋の中にいるのは、国王ヴィルヘルム陛下とフリード王太子殿下。

そして魔女のマルガレーテと宮廷魔導士長クラウスである。


重臣を集めての会議だからエレ殿は抜きで……と自分も聞いていた。

それなのに、いざ会議の会場に来てみればこの面子である。


恐らくエレ様には聞かせたくない秘密の会議なのだろう。

そう当たりをつけたが、間違ってはいなかったようだ。


言葉は悪いが、エレ殿を利用してフリード様の呪いを解除する突破口にしたい。

おそらくそんな話になるのだろう、と予想していた。


自分はフリード様の護衛騎士として長年仕えてきた。

主君の清廉潔白さと、正義感の強さはよく分かっている。


だからフリード様は怒り、猛反対するに違いない。


「……エレにそんな危険なことをさせられるか⁉」

「フリード様、でもエレ様は多分なにをしても死なないので……」


クラウスの声が聞こえた直後、バンッと机を叩く音がした。


正直言うと、私はエレ様の意見を尋ねるべきだと思っている。


あの方は猫の姿をしているが、心根は王女としての矜持と慈愛を兼ね備えた方だ。


フリード様が毒で狙われていると知った時、エレ殿は迷わず毒見役を買って出た。


危険な任務だったとしても、それがフリード様の助けになるのならエレ殿は引き受けるのではないか。


そんな確信に近い思いがある。


(だからこそフリード様は、エレ殿のお耳には入れたくないのだろうけれど)


エレ殿の呪いは、我が国の魔石トランストーンを使ったものだった。

そして恐らく、フリード様の呪いも……。


何年もの間、フリード様の呪いを解くことが王国の最重要課題とされてきた。


呪いを解き、王妃陛下にお目覚めになってほしい。


愛する者に愛情を口にしただけで、その相手を殺してしまう呪い。

そんな性質たちの悪いものがあっていいはずがない。


このままではフリード様はご結婚もできないだろう。


我々はずっと解決法を求めてきた。


それにつながる手がかりがあるのなら、藁にもすがりたい。

実際、自分もエレ殿に期待する思いがある。


もちろん、エレ殿を危険な目になど遭わせたくない。


しかし……。


あの方なら。

高潔なあの方なら。


自己を犠牲にしてでも、フリード様を救ってくれるのではないか。


そんな期待を抱いてしまうのだ。


だが、それは自分が口出しして良いことではない。


自分はただ、フリード様の決断を受け入れ、見守り、最後までお傍で力になる。


それだけが生きる目的である、改めてそう自分に言い聞かせた。


しばらくして、フリード様が強張った表情のまま部屋から飛び出してきた。


「フリード様!」


私が声をかけると、フリード様の表情が緩む。


「ああ、オットーか」

「よろしければお茶をご用意させましょうか?」

「あ、ああ……そうだな。エレはどこにいる?」

「フリード様の部屋でハンスとアンナと共におられると思いますが……」

「そうか」


ほっと安堵したように、フリード様が息を吐いた。


その時。


ぎゃお、ぎゃおお


鳴き声と共に大きな羽音が聞こえた。


「……ああ、サミュエルか」


ヤシオウムのサミュエルはフリード様に懐いている。

だがフリード様は少し苦手に思っておられるようだ。


オウムはフリード様の肩に乗り、久しぶりに会えて嬉しいのか、必死にくちばしを頬に押しつけている。


「サミュエルも久しぶりだな」


ぎゃおん、ぎゃおん、ぎゃおおおおおん


オウムの鳴き声を聞いた一瞬。

フリード様の表情が、ほんのわずかに固まった。


私の見間違いだったのかもしれない。


すぐにフリード様は、いつものようににこやかな笑みを浮かべるとオウムに話しかけた。


「久しぶりに一緒に茶でも飲むか?」


ぎゃあぎゃあ!


心なしか嬉しそうなオウムを肩に乗せたまま、フリード様はサロンへ向かう。


「オットー、茶を用意してもらえるか?」


サロンで侍女がフリード様の前に茶器と軽食を並べる。

フリード様はリラックスした様子でそれを眺めている。


最近では見慣れた光景だ。


オウムは食卓の上でフリード様のカップに顔を突っ込んだり、ナイフやフォークを足で踏みつけたりと、割とやりたい放題である。


「殿下、申し訳ございません。代わりの茶器と食器をお持ちしますので」

「いや、必要ないよ。新しいのを持ってきても、またサミュエルは同じことをするだろうから」


そういえば。

エレ殿が来て以来、こんな狼藉は見たことがない。


エレ殿とオウムが同席することはないから当然か。


エレ殿はもともと人間で、しかも元王女だ。

猫の姿であっても、食卓で大暴れしたり人の食器に触れるようなことは絶対にしない。


毒がないか匂いを嗅ぐ時でさえ遠慮がちに近づき、決して触れないよう慎重にくんくんと鼻を動かしている。


フリード様がカップを手に取る。


そして、ゆっくりと口に運んだ。


次の瞬間。


フリード様が激しく咳き込み始めた。


ガタン。


椅子が倒れ、フリード様も床に崩れ落ちる。


侍女の悲鳴とオウムの鳴き声がサロンに響き渡った。


「フリード様! お気を確かに! フリード様!」


私はフリード様に駆け寄り、必死に主君の名を呼び続けた。


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