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猫、警備をする

夜。

フリードが穏やかな寝息を立てているのを確認すると、あたしは静かに寝台から床へ飛び降りた。


彼の寝室の扉には、あたしが自由に出入りできるよう猫用のキャットドアが装備されている。


魔女マルガレーテが深夜にフリードの寝室の周辺で目撃された、というのが気になったので、一応警備することにしたのだ。


彼女があたしを嫌っているのは確定だけど、フリードにまで手を出すなら許せない。


フリードを毒から助けるはずの人がどうして?と腹が立ってしまう。


あたしは頭でキャットドアを押し上げると、音もなく廊下に足を踏み入れた。


真っ暗で、静かで、誰もいない。


猫の足音はほとんど音がしない。

フリードの寝室の周辺をうろうろしながら考えた。


マルガレーテは、どうしてあたしが嫌いなんだろう?


猫嫌い?

猫の毛で肌がかゆくなったり、くしゃみが出たりする人もいる。

そういう体質なのかな?


でも、フリードの部屋に深夜近づくというのは穏当ではない。

何かたくらんでいるように思えてしまう。


ヴィルヘルム国王のことが好きなのかな?


つい、下世話なことまで考えてしまう。


ヴィルヘルム国王、めっちゃモテそうだもんなぁ。

奥さんがいても好きになっちゃうのかなぁ?


あたしは廊下の隅で丸くなり、ウトウトし始めた。


その時。


誰かが忍び足でフリードの部屋に近づいてくるのが分かった。


あたしはぱっちりと目を覚ましたけどその場から動かない。

幸いあたしは黒猫だ。目を閉じていれば暗闇に紛れることができる。


残念ながら、この金色の瞳は闇の中で光る。

だから目を閉じて、必死で気配を探ることにした。


その人間は女だった。間違いない。

微かに声が聞こえたから。


女は何かを囁いている。


マルガレーテの声だろうか?

よく分からない。囁き声だと余計に聞き取りづらい。


「……あの猫が邪魔さえしなければ……コろシて……わたくしがヴィルヘルムと結婚……猫め……まさか……」


あたしは全身の毛が逆立つのを感じた。


自分に向けられた憎悪と敵意が、尋常ではなく伝わってくる。


真っ暗だった廊下に、窓の外から微かな月の光が差し込んだ。

ちょうど雲の切れ間があったのかもしれない。


あたしの姿は見えないと思うけど、慎重に薄目を開けてみる。


すると、女の黒髪が目に入った。


結っているのではなく、腰まで届くような長くうねる黒髪。


マルガレーテ?


女は寝室の扉に近づこうとした。


しかし……


ビリッと音がして、「痛っ」と女が手を引っ込める。


「くっ、結界が……」


そう呟くと、女は再び何かをぶつぶつと呟きながら闇の中へ消えていった。


あたしの心臓はどきどきと鳴り続け、逆立った毛はなかなか元に戻らない。


周囲に誰もいなくなったのを確認すると、あたしはすぐにキャットドアからフリードの寝室に戻り、寝台の上へ飛び乗った。


フリードは深く眠っているようで、静かな寝息が聞こえてくる。


あたしは心からほっとした。


彼の背中にぴたっと張りつくと、温もりが伝わってくる。


ああ、やっぱりここが一番落ち着く。


あたしは再び、とろとろと眠りについた。


◇◇◇


翌朝、目を覚ますとフリードはとっくに身支度を整えていた。


「おはよう、エレ」


そう言いながら、指であたしの顎の下をくすぐる。


『あ、あのね、夕べ……』

「ごめん、エレ。今朝は父上に呼ばれていてね」

『あ、あたしも?』

「いや、重臣たちを集めて会議があるそうなんだ。さすがに君は連れていけない。ごめんね」


昨夜のことを話そうと思ったけど、今は忙しそうだ。


『分かった。じゃあ後でね』


あたしは笑顔で見送った。


夕べのことを報告できないと、どことなく落ち着かない。


「エレ様、おはようございます!」

「おはようっす!」


その時、アンナとハンスが部屋にやってきた。


あたしはアンナが持ってきたご馳走に気を取られてしまった。


めっちゃ美味しい魚である。

何故、魚はこれほど美味しいのか?


火が通った魚も食べなくはないが、あたしが一番好きなのは生魚。

しかも白身魚である。


特に鯛とヒラメが大好きだ。

弾力のある切り身にがぶっと噛みついた時の感触。

舌に広がる旨味。


今朝も好物の白身魚を厳選してくれたに違いない。


夢中で舌鼓を打っていると、ハンスがあたしの背中を撫でた。


もう、今は食べることに集中したいから触らないで。


あたしはさりげなく体を移動させてハンスの手を避けた。

彼は本当にタイミングが悪い。


「エレ様にはやっぱりまだ嫌われているのかな~」


悲しげなハンスと、腰に両手を当てて苦笑いするアンナ。


その後も、おもちゃに釣られてついつい走り回ってしまい、夕べのことをすっかり忘れてしまった。


平和な一日で良かった。


そう思ったのも束の間。


突然扉が開き、そこには息を切らしたオットーが立っていた。


「エレ殿! フリード様が! 毒に!」


まさか……


足元から床が崩れていくように感じた。


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