猫、推理をする
「エレ様の呪いを詳しく聞かせてください。どのように呪いをかけられたか覚えていらっしゃいますか?」
あたしはフリードに通訳してもらいながらクラウスに説明した。
あの夜、突然魔女があたしの寝室に現れた。
当時の城には結界も張っていなかったし魔女ならちょちょいのちょいで侵入できたと思う。
魔女は「お前の父親のせいだ」とかなんとか喚きながら、人差し指をあたしに向けた。
多分……。
昔のことすぎて、はっきりとは覚えていないけど。
その指先から、何かがものすごい勢いで飛び出してきたのよね。
なんだろう?
石礫みたいな……そんな感じ。
それがあたしの額に当たって、気持ち悪い魔法が体の中に侵入してきた。
そんな感覚だった。
『お前は無力な猫として永遠に生きるのだ!』
そう言われたことだけは、よく覚えている。
「なるほど……具体的なことは初めて聞いたが、確かに共通点はあるな」
フリードがそう言うと、クラウスも頷いた。
「はい。殿下の場合は矢でしたが、額から吸収されたという点が類似しています」
「魔石のトランストーンは額から吸収される、という特徴がある」
クラウスは真剣な顔で頷いた。
「殿下は変身したわけではなかったので、まさかトランストーンとつながりがある可能性は想定しませんでした。というより、魔石との関連は考えたことがありませんでした」
「そもそも魔石に呪いと魔法を同時に付与できるなんて、従来の魔法理論に反している」
フリードが腕を組む。
「ゲルトルートという呪いの魔女が存在して、魔石を使って呪いをかけていたなんて……研究者としておのれの無知を恥じるばかりです」
「おそらく外交上の機密でもあったのだと思う。それにエルドラ王国は滅亡してしまった。わざわざ滅亡した国について調べる人間はいない。それで魔女ゲルトルートの記録も忘れさられてしまったのだろう」
あたしは、おずおずと口を開いた。
『あの、ゲルトルートの呪いを誰かが真似してフリードに呪いをかけたんだと思う? それとも、ゲルトルートがまだ生きていてフリードにも呪いをかけたんだと思う?』
フリードがあたしの質問を通訳すると、クラウスは首を横に振った。
「ゲルトルートが生きていることはあり得ないでしょう。二百年前の魔女ですよ? もしかしたら魔女の中で、ゲルトルートのやり方を引き継いだ者がいたのかもしれない。血縁者とか……」
そうね。そのほうがあり得そう。
『でも、例えばゲルトルートが魔石……トランストーンを持っていて、動物に変身して隠れていたら、年を取らずに今でも生きているかもしれない。あたしみたいに』
フリードとクラウスは顔を見合わせた。
「理論的にはあり得ますが、その場合、ずっと動物として生きていたことになります。ゲルトルートにとってそれでメリットはありますか? エレ様は人間に戻れなかったから仕方がないですが、もし人間に戻る選択肢があったら戻っていたのではないですか?」
ふむ。
野良猫生活をしていた頃の自分を思い出してみる。
空腹で辛かった記憶がよみがえる。
そうね。
人間に戻れるなら戻っていたわ。
「それに、トランストーンで動物に変身している間は魔法が使えません。魔女にとっては都合の悪い選択ではないですかね? 動物として野生で生きていくのは大変ですよ」
それは魔女としては致命的だ。
クラウスの言葉に、あたしはしぶしぶ頷いた。
フリードが、あたしの頭から背中をくすぐるように撫でる。
ゴロゴロと喉を鳴らしながらころんと転がると、クラウスも恐る恐る手を伸ばした。
(仕方ないわね~)
頭を撫でさせてあげると、クラウスが感極まったように口を開いた。
「絹のような手触り……。ごろごろという振動も、精神的な鎮静化効果がありそうですね」
こうして宮廷魔導士長との面会は……
猫を愛でる会で終わったのだった。
◇◇◇
後でフリードは、あたしを彼のお母さまのところへ案内してくれた。
豪奢だけれど薄暗い部屋。
その寝台で静かに眠っている、真っ白い繭。
フリードの肩が震え、拳をぎゅっと握りしめる。
あたしは相変わらず肩の上にいるけど、彼のために何もしてあげられない。
あまり自分を責めないで。
どうか、許してあげて。
言葉にはできないけど、あたしはフリードの頬をペロッと舐めた。
険のある眼差しが、あたしに向けられると柔らかくなる。
「ありがとう、エレ。絶対に一緒に呪いを解こう、な?」
「なぁ~ん!(当然!)」
あたしは頭をフリードに擦りつけた。




