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猫、呪いを学ぶ


魔女や魔法使いがかける呪いには、いくつかの種類があるという。


強い恨みや恐怖を抱いたまま亡くなった人の魂を取り込み、自分の魔力と練り合わせて直接標的ターゲットにかける呪い。


人形ひとがたなどの呪物に恨みを吸わせ、標的ターゲットに災いをもたらす呪い。


ほかにも言霊や呪詛、怨霊、祟りなど、それぞれに特徴があり、呪い専門の魔女や魔法使いは一つのやり方を生涯かけて極めるらしい。


だから。


あたしを呪った魔女ゲルトルートが、過去にどんなやり方で呪いをかけていたのかが分かれば、あたしの呪いの解明につながるかもしれない。


フリードはそう言った。


『すごい! その通りね。ゲルトルートの呪いのやり方って、記録に残っているの?』

「詳細は分からないが、魔石を使っていたことが古い記録に残っている。とても珍しい」

『魔石……』


さっきフリードに尋ねられた。

あたしは魔石のことをどれくらい知っているのか、と。


魔石というのは文字通り魔力の籠った石で、魔道具の原動力になったり、魔力を補充できたり、魔法の威力を高めたりできる。そんな話は聞いたことがある。


「そう。その通りだ。よく知っているね」


フリードは優しくあたしの頭を撫でた。

まるで褒めるみたいに。

……甘やかしすぎではないだろうか。


でも、猫だからいいのかな?


「それが一般的な魔石の使い方だ。ただ、ライナー王国の魔石鉱からは特殊な希少魔石も採掘できる」

『特殊な魔石……?』

「例えば、君と話ができるシアストーンもその一つだ。通信系の魔法を付与しやすい魔石で、その精度の素晴らしさは君自身がよく分かっているよね?」

『うん。猫になってからこんな風に人と会話をするのは初めてだもの。本当にすごいわ』

「何にでも変身できる魔法を付与できる魔石もある」

『変身?』

「ああ。動物でも何でも。例えば猫にも変身できる」


話がだんだん核心に近づいてきた気がして、嫌でも緊張が高まる。


「猫に変身する魔法を付与した魔石を体に取り込むと、猫になることができる。猫になっている間は人間としての体は時間の経過がない。たとえるなら冷凍保存されている、というか。だからある意味、不老不死になるんだ」

『まるであたしみたいに?』

「ああ。ただ、普通は魔石を体に取り込んだり排出したりを、自分の意思でできる。通常は額から魔石を体に吸収させるんだけど、人間に戻りたいと思ったら、そう念じると額からその魔石が排出される」

『……っ。念じてみたけど、額から何も出てこないよ!』


なだめるように、フリードが背中を撫でてくれる。


「変身用の魔石をトランストーンというんだ。魔女ゲルトルートは、トランストーンに呪いをかけるのが得意だったようだ」

『魔石に呪いを?』


だんだん、全体像が見えてきた。


「ああ。おそらく猫に変身する魔法が付与されたトランストーンに呪いをかけた。自分の意思で排出できない呪いだ。それを君に吸収させることで永遠に猫になる呪いをかけたんだと思う」


フリードは落ち着いた声で続ける。


「トランストーンが排出できなければ、君は永遠に猫のまま。そして年も取らないし死なない。猫の体は君の本当の体ではないから」

『でも、痛みとか空腹とかはすごく感じるよ』

「そう。苦痛は感じる。でも、君の本当の体ではないんだ」


なるほど。

なんとなく呪いの仕組みが見えてきた。


『じゃあ、そのトランストーンを体の外に出すことができたら、呪いは解けるのね?』

「ああ、おそらく。今度一緒に宮廷魔導士に会いに行こう。専門家の意見も聞いてみたい」

『分かったわ』


フリードはすごい。

出会ってからまだ数か月なのに、もうあたしの呪いの仕組みをここまで解き明かしてしまった。


……それに比べて、あたしは過去二百年以上、いったい何をしていたんだろう。

ただ必死だった。生き残るだけで精一杯だった。


少しだけ情けなくなる。


「エレ? どうした?」

『ん? ううん。なんでもない。ところでフリードも呪いをかけられているって言ってたよね? フリードの呪いはどんなものなの? 解き方は分かっているの?』


その瞬間、フリードの顔に影が差した。

一瞬で表情が暗くなり、瞳から光が消える。


「僕の呪いは……。そうだね。いつか君にも話すよ。母上のことも……」


フリードは寂しそうに目を伏せた。


初めて会った時、この人には深い悲しみがあるように感じた。

それは、お母さまに関することだったのかもしれない。


これは、あたしが踏み込んでいいことじゃない。


『そうか。急がなくていいよ。フリードが話したくなったら話して。あたしはいつでも聞く用意はできているから』


猫だけど、聞き役くらいならできるわ。

フリードは安堵したように表情を緩めた。


「ああ。ありがとう、エレ。いつか僕の話も聞いてほしい」


そう言って、あたしの頭をぐりぐりと撫でてくれた。

フリードの大きな手のひらを感じながら、あたしは少しだけ誇らしい気分になった。


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