はじめまして、呪われた猫です
*新連載です! うちの猫を見ていたらふと思いついた物語です。読んでいただけたら嬉しいです。よろしくお願いします(#^^#)
はじめましてこんにちは。
あたしは猫。今の名前はエレ。
まあ、いきなり猫って言われても困るよね。
はるかはるか大昔、といっても二百年くらい前の話なんだけど、あたしは悪い魔女の呪いで猫にされてしまった元王女なのだ。
そのとき魔女が言ったセリフがこれ。
『お前は無力な猫として永遠に生きるのだ!』
……いや、ちょっと待って。重すぎない?
理不尽すぎる呪いで、突然あたしは小さな黒猫にされてしまった。
どうやら国王だったお父さまが魔女に失礼なことをしたのが原因らしい。
いや、娘を呪うのはやめてほしいんだけど。そこは本人に文句言って?
呪いを知ったお父さまとお母さまは、それはもう大騒ぎ。「かわいそうに!」って泣き喚いてくれた。
……まあ、猫の姿でそれを見てるあたしとしては、ちょっと複雑な心境だったけど。
その後、肝心の魔女はというと呪いをかけたままさっさと行方不明。
つまり解き方不明。永遠コース。
それを悟った両親は、せめて猫になったあたしが幸せに暮らせるようにと、これでもかというくらい最高の生活を用意してくれた。
最高級の新鮮なお魚とお肉。
日当たりのいい静かな場所には、あたし専用のふかふかクッション。
昼寝?
もちろんし放題。
悪戯しても物を壊しても「もう仕方がないわねぇ」って苦笑いしながら頭を撫でられる。
……正直に言おう。
厳しい王女教育を受けていたころより猫生活のほうが圧倒的に快適だった。
ところがここで問題がある。
あたしは永遠に生きる猫。
お父さまとお母さまが亡くなり、弟が王位を継いだあとも、あたしは王宮の片隅でそれなりに平穏な生活を送っていた。
……が。
世間知らずだった弟は佞臣に騙され、あっさりクーデターで死亡。
その混乱に乗じて祖国は外国に攻め滅ぼされた。
気がつけば王城は大混乱。
訳も分からないまま命からがら逃げ出したあたしは……
野良猫デビュー。
……いや、デビューしたくてしたわけではない。
ただ大きな問題が一つ。
王宮でぬくぬく甘やかされて育ったあたしには野良として生きるスキルが壊滅的に足りなかった。
毎日が怖い。家族や王国のことを考えると悲しくて泣けてくる。そしてひたすらお腹が空く。
しかも最悪なことに……
どんなに飢えても死ねない。
ただただ苦しい空腹が続くだけ。
病気にもならない。
怪我をしてもすぐ治る。
骨と皮だけになっても、なぜか毛並みだけはツヤツヤもふもふ。
(あの魔女いったい何してくれたの!?)
(いっそ死なせてくれ!!)
そう叫びたくなったことも数えきれない。
そしてついに、立ち上がる気力すらなくなったころ。
「あんた、ずっとそうやっているつもりかい?」
突然、知らない猫が声をかけてきた。
通りすがりのその猫は、あたしの口元に何かを置いた。
饐えた匂いのする何か。
王宮で暮らしていた頃のあたしなら、絶対に見向きもしなかったものだろう。
でもそのときのあたしには天からの恵みに思えた。
夢中でかぶりつくあたしを見て、その猫は言った。
「生きたいなら一緒においで」
絶望の中、やせ細って路地裏に転がっていたあたしを助けてくれたのは、野良猫のノラだった。
ノラは生まれたときからずっと野良猫。
野良として生き残る術を、あたしにいろいろ教えてくれた。
でも……
あたしは永遠に生きる猫。
ノラも、他の仲間の野良猫たちも、結局はみんな先にいなくなる。
新しい仲間はできてもいつも残るのはあたしだけ。
その悲しさに耐えきれなくなってあたしは独りで旅に出ることにした。
それから、いろんな国を旅した。
途中で飼い主ができたこともある。
でも、必ず別れは来る。
しかも、いつまでたっても死なないあたしを見て「悪魔!」なんて呼ぶ人間も出てきた。
いろんなことに疲れて、結局また独りで生きる道を選んだ。
危ない目にも何度も遭ったけど、ノラに鍛えられたおかげで危機対応能力はそこそこ高い。
それに基本、不老不死だし。
人間の言葉が分かるあたしは、いろんな国の事情も聞くことができた。
たまに戦争が起きて、たくさんの人が死ぬ。
やっと終わったと思ったら、みんな泣きながら「もう戦争は嫌だ」って言う。
……なのに、またしばらくすると戦争が始まる。
猫になったせいなのかもしれないけど、
あたしにはどうしても理解できなかった。
なんで人間は、わざわざ殺しあうんだろう。
あたしたちは食べ物と安全な場所さえあればそれでいい。
嫌な音のする恐ろしい武器まで作って戦うなんて、さっぱり分からない。
時が経つにつれて世界はどんどん変わっていく。
滅びてしまったあたしの祖国なんてもう覚えている人もいないだろう。
もちろん、変わらないものもあるけれど。
この世界では誰でも魔力を持っていて、生活のいたるところで魔法が生きている。魔力を道具に籠めた魔道具も多い。
一般に平民よりも貴族や王族の魔力の方が高いとされている。
あたしも王女だったころはそこそこ魔法が使えたのに、今はさっぱり。
(あたしの呪い、いつか解けるのかな)
(もし人間に戻ったら、一気に年を取って死ぬんだろうか)
(そもそも呪いをかけた魔女、まだ生きてるのかな)
そんなことをぼんやり考えながら、あたしは小さな雲が浮かぶ薄青色の空を見上げていた。




