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第60話 「給油所(マナ・スタンド)の看板娘。トラック野郎のアイドル」

【数日後:アシュトン・ハイウェイ(中間地点)】

「アシュトン・ハイウェイ」。  


岩山を貫き、谷を埋めて作られたその直線道路は、王国の物流を劇的に変えた。  


でも、道を作っただけじゃ終わらない。  


ローズマリーさんは言った。


「車には燃料が、人間には休息が必要です」と。


荒野のど真ん中。  


不夜城のような眩しいネオンサインが、砂塵の中に浮かび上がる。  


『REST & MANA - ASHTON STATION』。  


ここが、私たちの新しい城だ。


一台のモデルAトラックが、駐車場に滑り込んでくる。  


運転席には、疲れ切った顔をした強面のドライバーさん。  


さあ、仕事の時間だ。


「いらっしゃいませー! 長旅お疲れ様です!」


私は満面の笑みで駆け寄った。  


ドライバーさんが、目を見開いて私を凝視する。

 

……うん、視線の先は分かってる。


(うぅ、やっぱり恥ずかしい……! なんですかこの服!)


私が着ているのは、いつものスーツでも作業着でもない。  


ローズマリーさんがこの日のために徹夜でデザインした、特製「キャンペーンガール」衣装だ。  


白と赤を基調とした、ピチピチのノースリーブシャツ。


丈が短すぎて、おへそが丸見えだ。  


下はマイクロミニスカート。


動くたびにヒラヒラして、太ももが涼しすぎる。  


足元は動きやすいスニーカーだけど、絶対領域を強調するニーハイソックスって……。


『いいですかアリア。貴女の健康美こそが、殺伐とした街道における最強の武器(商材)なのですよ』


真顔でそう力説したご主人様の顔が浮かぶ。  


武器と言われたら断れない。  


ご主人様が「似合う」と言ってくれたなら、私は裸だって構わない覚悟だ。  


でも、やっぱりスースーする!


「お、おい……天使か?」


ドライバーさんが呆然と呟く。  


天使じゃありません、アシュトン家の番犬です。  


私は恥ずかしさを強引にねじ伏せ、ニカっと笑った。


「満タンですね? 入りまーす!」


私は、大型車用の給油ノズルを、片手でひょいと持ち上げた。  


給油口に突き刺し、レバーを引く。


ゴクゴクゴク……。


高純度の魔力水がタンクに吸い込まれていく。  


その間、冷たいタオルと缶コーヒーを差し出した。


「これ、サービスです! 顔拭いてさっぱりしてください!」


「あ、ありがてぇ……」


ドライバーさんがタオルを受け取る。


その指先が震えている。  


よし、掴みはオッケーだ。

 

私は素早く車体をチェックする。


「タイヤの空気圧も見ておきますね。……あ、左の後輪が少し減ってる。パンクする前に交換しちゃいます?」


「えっ、交換って……ジャッキがないぞ? 整備士を呼ばないと……」


「大丈夫です! 私がいますから!」


私はトラックの荷台の下に潜り込んだ。  


シャーシのフレームに肩を当て、深呼吸。


「んっ!」


全身の筋肉を一瞬だけ硬化させる。  


ズズズッ……と音を立てて、積載量込みのトラックの車体が、宙に浮いた。


「さあ、今のうちに!」


「……人間ジャッキかよ!!」


ドライバーさんの悲鳴のようなツッコミ。  


ふふん、驚いた?


ただ可愛いだけの看板娘だと思ったら大間違い。  


私は、ご主人様のために働く「戦う看板娘」なんだから!


                  ◇


【アシュトン・ダイナー】

給油を終えたボブさんは、ふらふらと併設のレストラン「アシュトン・ダイナー」に入っていった。  


そこは、スパイスと肉の焼ける暴力的な匂いで満たされていた。


「へいらっしゃい! 何にする?」


厨房で中華鍋を振っているのは、なんとガンテツ姉さんだ。  


「オイルもソースも似たようなもんだ」と言って、料理の腕もプロ級だった。


「お、おすすめは?」


「『アリア特製・爆走スタミナカレー』だ! 食えば三日三晩走り続けられるぞ!」


出てきたのは、洗面器のような皿に山盛りになったカレーと、わらじのようなカツ。  


ドライバーさんが一口食べると、衝撃が走った顔をした。


「う、美味ぇぇぇッ!!」


 空腹の胃袋に染み渡るスパイスと脂。  


ローズマリーさんの計算通りだ。  


私はジョッキに入った水を運びながら、ドライバーさんの様子を伺った。


「おかわりどうですか? ……あ、服にカレー飛んでますよ」


私は自然な動作で、ドライバーさんの肩についた汚れを布巾で拭き取った。  


距離が縮まる。  


「あ、あのアリアちゃん……こ、今度、王都の土産持ってくるよ!」


「えっ、本当? 嬉しい! 待ってるね!」


私はとびきりの笑顔を見せた。  


営業スマイル? 


いいえ、本心だ。  


だってお土産を持ってきてくれるってことは、またここに来てくれるってことだ。  


お客さんが増えれば、ご主人様が喜ぶ。


アシュトン家が潤う。  


だから私は、全力で愛想を振りまく。


見てますか、ご主人様。


私、ちゃんと「商売」できてますよ!


ふと、2階のスタッフルームを見上げる。  


マジックミラーになっていて中は見えないけれど、強烈な視線を感じる。  


ローズマリーさんが見ている。  


その視線は……なんだか少し、冷たくて熱い。  


もしかして、他のお客さんと仲良くしすぎて怒ってる?  


……まさかね。あの計算高いご主人様に限って。


                  ◇


その後も、アシュトン・ステーションは大盛況だった。  


無線を通じて噂が広まったらしい。


『中間の給油所に女神がいるぞ!』


『飯も美味いし、風呂もある!』  


結果、交通量は激増し、ベアトリスの道を使う車はいなくなった。  


でも、私の仕事は「接客」だけじゃない。  


私はテーブルを拭きながら、お客さんたちの会話に耳を澄ませる。


「えー、東の橋が直ったの? じゃあそっちにも営業行けるね!」


「へぇ、ベアトリス商会の倉庫でストライキ? 大変だねぇ」


何気ない会話の中に、お宝(情報)が眠っている。  


道路状況、荷物の相場、ライバル会社の動き。

 

私はそれを記憶し、あとでローズマリーさんに報告する。  


「看板娘」は、実は「最強のスパイ」でもあるのだ。  


脳みそを使うのは苦手だけど、耳を使うのは得意だ。            

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