第25話 「冒険者復帰。ダンジョン最速攻略(RTA)」
【王都:冒険者ギルド】
豪雨が降り注ぐ中、私はギルドの扉を思い切り蹴破った。
バンッ!!
酒場で管を巻いていた荒くれ者たちが、一斉に静まり返る。
私はずぶ濡れのまま、急いで中へ入っていく。
「……おい、誰だあいつ?」
「子供か? 迷子なら帰んな」
嘲笑が飛ぶ中、私は一直線に受付カウンターへ歩み寄った。
「い、いらっしゃいませ……?」
怯える受付嬢に、私は掲示板から引き剥がしてきた羊皮紙の束を叩きつけた。
「ここにあるSランク依頼、全部受けます」
「は、はいぃ!? 全部って……『深層ダンジョン』の主討伐も含まれてますよ!? 最低でもAランクパーティが三日がかりで挑む案件です!」
「三日?」
私は鼻で笑った。
三日なんてかけていたら、ご主人様の命が消えてしまう。
「三十分で終わらせます。……急いでるんです。ご主人様のために」
私は受付嬢の手から受注スタンプを奪い取り、自分で書類に押印すると、風のようにギルドを飛び出した。
残された冒険者たちは顔を見合わせた。
「……おい、今の銀髪。まさか、半年前に姿を消した『銀狼』か?」
◇
【王都地下:未踏破ダンジョン「奈落の顎」】
そこは、王都の地下深くに広がる、古代遺跡を利用した高難易度ダンジョン。
複雑怪奇な迷路、即死級の罠、そして凶悪な魔獣がひしめく地獄。
だが、私にとっては、ただの通路にしか見えない。
ドガァァァァァンッ!!
迷宮の石壁を、粉砕する。
「いちいち曲がってられるかぁぁぁ!! 最短距離だぁぁぁ!!」
私は地図を見ない。
最深部から漂う「ボスの匂い」だけを頼りに、壁という壁を素手でブチ抜いて直進していた。
いわゆる「物理的なショートカット」。
ご主人様の命がかかっているんだ。
迷路ごときに付き合っている暇はない。
「ギシャァァッ!」
崩れた壁の向こうから、巨大なミノタウロスが襲いかかる。
通常の冒険者なら苦戦必至の中ボス。
だが、私は止まらない。
「邪魔だぁッ!」
ズドンッ!
私の拳がミノタウロスの腹にめり込む。
次の瞬間、巨体は砲弾のように吹き飛び、背後の雑魚モンスターたちを巻き込んで壁のシミになった。
すごい……!
身体が軽い!
私は拳を握りしめた。
ローズマリーさんから注ぎ込まれた魔力が、全身の筋肉と完全に同調している。
以前の冒険者時代とは桁が違う。
今の私は、彼女の魔力を積んだ、最強の戦闘マシンだ。
身体の奥が熱い。
ご主人様が私の中にいる。
そう感じるだけで、無限に力が湧いてくる。
落とし穴?
落ちる前に壁を蹴って跳躍。
毒ガス?
息を止めてダッシュ。
魔法障壁?
殴れば割れる。
ダンジョン攻略RTA。
私は、記録的な速さで駆け抜けた。
◇
【最深部:ボスの間】
巨大な扉を蹴り飛ばし、私はボスの間へ侵入した。
待ち構えていたのは、三つの首を持つ巨大な竜「トライヘッド・ドラゴン」。
その口から吐かれる炎、雷、氷のブレスは、国軍一個大隊を壊滅させる威力を持つ。
「グルルルルゥ……!」
ドラゴンが咆哮し、三つの口から同時にブレスを放とうとした。
その威圧感に、普通なら足がすくむ。
だが、私は懐中時計を見た。
「ちっ、もう二十分経過してる。……カミーラさんの夕飯の準備に遅れる」
私は地面を蹴った。
音速を超え、衝撃波をまき散らしてドラゴンへ突っ込む。
「金貨一万枚と八億! 払えるもんなら払ってみろぉぉぉッ!!」
私はドラゴンの懐に飛び込み、アッパーカットを放った。
拳には、紫色の魔力と、銀色の闘気が渦巻いている。
ズガァァァァァァァンッ!!
三つの首が同時に上を向き、白目を剥いた。
巨体が宙に浮く。
私は空中で追撃し、かかと落としで脳天を粉砕した。
断末魔すら上げさせない。
一方的な蹂躙。
ドラゴンが光の粒子となって消滅し、あとには巨大な魔石と、宝箱だけが残された。
◇
【夕刻:冒険者ギルド】
ギルド内は、お通夜のような静けさに包まれていた。
カウンターの上には、山のような魔石と素材が積み上げられている。
受付嬢が、震える手で査定額を弾き出していた。
「し、信じられない……Sランク依頼五つを、一時間で……」
「で、いくらですか?」
私は息一つ切らさずに尋ねた。
「まずは即金で、金貨三千枚です。ギルドの金庫が空っぽになってしまったので、魔石と素材を売りさばき次第、残りの報酬をお支払いします!」
どよめきが起きる。
一生遊んで暮らせる大金だ。
だが、私の表情は曇った。
「……三千枚?」
足りない。
全然足りない。
薬代の一万枚には届かないし、八億の借金には焼け石に水だ。
普通の稼ぎ方では、ローズマリーさんの命と家を守るのに何十年もかかってしまう。
「だめだっ……もっと手っ取り早く、デカい金が動く場所じゃないと……」
私が唇を噛み締めた時、背後から甘ったるい声がかけられた。
「あら。随分とお困りのようね、銀狼さん?」
振り返ると、フードを被った地味な少女が立っていた。
だが、その眼鏡の奥の瞳は、蛇のように狡猾に輝いている。
ヒルダだ。
「……何の用?」
「貴女、お金が欲しいんでしょう? それも、法外な額が」
ヒルダは私に一枚のチケットを差し出した。
それは、王都の地下で行われている違法賭博闘技場「コロッセオ」の招待状。
「今夜、特別なトーナメントがあるわ。優勝賞品は……『神代の霊薬』。そして賭け金の総取りよ」
私の瞳が鋭く光った。
罠だ。
明らかに罠だ。
でも、エリクサーがそこにあるなら、悪魔の喉元だろうと手を突っ込むしかない。
「……ルールは?」
「無用。殺し合い上等。……貴女のその『物理』で、全部ねじ伏せてみなさいな」
私はチケットをひったくった。
「上等。……優勝して、その霊薬も金も、全部頂いていく」
私は雨の中へと消えていった。
ヒルダはその後ろ姿を見送り、愉悦に歪んだ笑みを浮かべた。
「ええ、頑張って。……貴女が暴れれば暴れるほど、帝国のデータは潤うのだから」
次回予告: 王都の地下深くに存在する、血と欲望の闘技場「コロッセオ」。 そこに現れたのは、銀の仮面の少女。 対戦相手は、凶悪な死刑囚、改造されたキメラ、そして帝国が送り込んだ暗殺者たち。
次回、「地下闘技場も物理で突破します。銀狼の咆哮」




