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第17話 「学園祭(後編) ダンスパーティーで王子に求婚される!?」

【学園祭当日:1年Aクラス「ロイヤル・カフェ」】

王立学園の学園祭は、晴天に恵まれ、朝から多くの来場者でごった返していた。

 

中でも一番の行列を作っていたのは、我が1年Aクラスの執事・メイド喫茶だ。


「いらっしゃいませ、ご主人様(棒読み)」


私は、ローズマリーさん特注の「丈が短く胸元が危ういメイド服」に身を包み、戦場のようなホールを駆け回っていた。


「3番テーブル、オムライス追加! 5番テーブル、紅茶のおかわり!」


厨房からのオーダーが飛ぶ。  


私は、片手に五人分の料理が載った巨大な銀盆を軽々と持ち、もう片手で紅茶ポットを操りながら、人混みを縫うように高速移動していた。  


この程度のマルチタスク、鉄喰い熊との乱戦に比べれば児戯に等しい。


「お待たせしました。オムライスです。……あ、ケチャップで絵を描くんですよね。えっと……」


私は震える手で、ケチャップ容器を握りしめた。

 

客の男子生徒が「ハートマークでお願いします!」と顔を赤らめる。  


私は深呼吸し、全集中した。美術のテストは『1』だったけど、頑張る!


ブチュッ。


皿の上に描かれたのは、どう見ても『血の涙を流すドクロ』だった。

 

いや、あるいは『破裂した心臓』か。


「……はい、愛情(殺意)たっぷりのオムライスです」


「ひぃっ!? あ、ありがとうございます!」


男子生徒は涙目でオムライスをかきこんだ。  


しかし、私のこの「塩対応」と「ドクロオムライス」が、逆に一部のマニアックな客層に大ウケしてしまった。


「見ろ、あの方が噂の『破壊神メイド』だ……」


「あの冷たい目で見下されながら、不器用な絵を描いてもらうのが最高なんだ」


カフェは大盛況。  


私はチップ(小銭)がチャリンチャリンとポケットに溜まる音を聞きながら、ニヤリと笑った。


ふふふ……これ全部私のもの! ローズマリーさんには内緒でへそくりにするんだ!


                  ◇


【夕刻:大講堂「星の広間」】

日は落ち、学園祭のフィナーレを飾る「後夜祭・ダンスパーティー」の時間がやってきた。


数千の魔石ランプが灯され、会場は幻想的な光に包まれている。


私は、メイド服からイブニングドレスに着替えていた。  


これもアシュトン家が用意したもので、夜空のようなダークブルーの生地に、銀糸の刺繍が施されたシックかつ艶やかなドレスだ。  


私の金髪のウィックと相まって、月の女神のような美しさを放っていると、カミーラさんが褒めてくれた。

 

……中身が「今日の売り上げ計算」をしているドケチ令嬢でなければ、完璧だろう。


でも、しょうがない。私だから。


「はぁ……早く帰って、ローズマリーさんにお土産のパンを渡したいなぁ」


私が壁の花になろうと柱の陰に隠れた、その時だった。

 

会場のざわめきがピタリと止んだ。  


楽団の演奏も中断され、静寂が訪れる。


入り口から、一人の青年が歩いてきた。  


純白の礼服に身を包んだ、王国の第一王子、アルベルトだ。  


彼は一直線にフロアを横切り――私の前で足を止めた。


「……見つけたよ、僕のシンデレラ」


アルベルトは優雅に跪き、私に手を差し出した。


「マリア嬢。この曲を、僕と踊ってくれるかい?」


会場中から黄色い悲鳴と、嫉妬の視線が突き刺さる。  


私は冷や汗をかいた。


断れば不敬、受ければ針のむしろ。


「つ、つつしんでお受けいたします……」


私は恐る恐るその手を取った。  


音楽が再び流れ出す。優雅なワルツだ。  


しかし、私にとってダンスとは「格闘技の足運び」に近い。  


ガチガチに緊張した私は、ロボットのような動きでステップを踏んだ。


「ワン、ツー、ワン、ツー……(ああっ、王子の足を踏みそう!)」


「力を抜いて。君なら、僕のリードについてこられるはずだ」


アルベルトは苦笑しながらも、力強く私の腰を引き寄せた。  


二人の身体が密着する。  


王子のリードは完璧だった。  


私の強張った筋肉の動きを読み、流れるように誘導していく。

 

いつしか私たちは、フロアの中心で誰よりも美しく舞っていた。  


金髪と金髪が光の中で交差する様は、まさにお伽話のワンシーン。


「……君とこうしていると、立場も策謀も忘れられるよ」


曲の盛り上がりで、アルベルトが私の耳元に唇を寄せた。  


甘く、低い声で囁く。


「ねえ、マリア。……君を、僕の(きさき)に迎えたいと言ったら、どうする?」


――え?


私のステップが止まりかけた。  


王子の瞳は、冗談の色を消して真剣そのものだった。


「僕は本気だ。父上にも、アシュトン公爵にも話を通すつもりでいる。君のその『強さ』と『裏表のなさ』が、僕には必要なんだ」


求婚。  


それは、全ての令嬢が夢見る最高の栄誉。


将来の王妃の座。  


会場の令嬢たちがその言葉を聞いていたら、卒倒していただろう。

 

しかし、私の脳内を駆け巡ったのは、全く別の計算式だった。


お、お妃様……? ってことは公務員? えっ、待って。王妃様って時給いくら? 残業代は出るの? いや、それより王宮に入ったら『365日無休』じゃん! ブラック企業確定!? 何より……ローズマリーさんの美味しいご飯が食べられなくなる!


私の顔色が、サーッと青ざめていく。  


アルベルトはそれを「驚きと感動」だと解釈したらしい。


「返事は今すぐでなくていい。……だが、僕は諦めないよ」


曲が終わる。  


アルベルトは私の手の甲に、長く、熱っぽい口づけを落とした。


「愛しているよ、僕の破壊神」


王子はウィンクを残して去っていった。  


会場は爆発的な歓声と拍手に包まれる。  


私だけが、魂の抜けた顔で立ち尽くしていた。


「……どうしよう。ローズマリーさんに殺される」


私の予感は正しかった。  


会場の二階席、貴賓用のバルコニーの陰。  


メイド姿の冷たい瞳でその一部始終を見下ろしている人物がいた。

 

ご主人様。  


彼女の手には、へし折れた扇子の残骸が握りしめられていた。


「……いい度胸ですね、あの泥棒猫(王子)。人の所有物に唾をつけるとは」


その背後で、カミーラさんがガクガクと震えながら呟いた。


「ろ、ローズマリー様……殺気漏れてます。会場の温度が下がっています」


「帰りましょう、カミーラ。……今夜は、徹底的な『消毒』と『再教育』が必要です」


ローズマリーさんの眼鏡が、キラリと不吉な光を放った。

 

私の学園祭の夜は、まだ終わらない。  


むしろ、本当の地獄(天国?)はこれからだった。

次回予告: 王子の求婚騒ぎを知ったローズマリーさんは、かつてないほど不機嫌だった。 屋敷に帰るなり、私は浴室へ直行させられる。 「王子の匂いがついています。洗い流しなさい」 現れたのは、濡れたシュミーズ一枚のローズマリーさん。 「私が直々に洗ってあげます。……身体の隅々まで、私の魔力で上書きしてあげるわ」 嫉妬に狂うご主人様による、濃厚すぎるお仕置き。

次回、「嫉妬? ローズマリー様の夜の検閲が厳しい件」

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