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第15話 カミーラは見ている 〜ローズマリー様、その玩具に入れ込みすぎです〜

【※カミーラ視点】


【深夜:アシュトン公爵邸・廊下】

アシュトン公爵家の夜は、海底のように静かだ。  


私、カミーラは、音もなく廊下を歩いていた。


手にはシルバーのトレイ。


その上には、ホットミルクと、替えのシーツが乗っている。


私の主、ローズマリー様は、本来ならば孤独な暴君であるはずだった。  


先代の急死により、若くして稼業を継いだローズマリー様。


彼女は心を殺し、感情を捨て、ただ家と国を守るための「鉄の女」として振る舞ってきた。


……そう、あの日。  


あの「銀髪の野良犬」を拾うまでは。


私は主寝室の前で足を止めた。  


分厚い防音扉の向こうから、微かに、しかし確かに、甘く切羽詰まった声が漏れ聞こえてくる。


「……んっ、ぅ……! ごしゅじん、さま……そこ、は……ッ!」


「我慢なさい。まだ終わっていませんよ」


私は無表情のまま、懐中時計を確認した。  


午前二時。  


今夜の「魔力調整」――という名目の「夜のお戯れ」は、随分と長引いているようだ。


                 ◇


【主寝室】

私はノックもせず、静かに扉を開けて中へ入った。  


部屋の中は、むせ返るような魔力の残り香と、汗、そして情事の熱気に満ちていた。

 

照明は落とされ、暖炉の炎だけが揺らめいている。


天蓋付きのキングサイズベッド。

 

その中央で、アリア様は「(はりつけ)」にされていた。

 

手首と足首は、魔力を帯びた深紅のリボンでベッドの支柱に固く結びつけられている。


健康的な肢体は、薄いシルクのネグリジェ一枚。


汗で肌に張り付き、身体のラインが露わになっている。

 

目元には黒いレースの目隠し。


視界を奪われ、聴覚と触覚だけが鋭敏になった彼女は、シーツを握りしめて震えていた。


「カミーラ。……なにかしら?」


ベッドの脇に立ち、サディスティックな笑みを浮かべているのは、我が主ローズマリー様だ。  


彼女の手には、細い革の鞭……ではなく、先端に魔石がついた「教鞭」が握られている。


「し、失礼いたします。お夜食をお持ちしました」


「そこに置いておきなさい。……この子の『(しつけ)』が、まだ終わらないの」


ローズマリー様は教鞭の先で、アリア様の太ももをツツ、となぞり上げた。


「ひゃうっ!?」


アリア様がビクリと背中を反らせる。  


無理もない。


その教鞭からは、神経を直接愛撫するような微弱な魔力が流されているのだから。


「アリア。先日のオークションでの失態……反省していますか?」


「は、はいぃ……! 食べながら暴れて、すみません……っ!」


「言葉だけでは信用できませんね。身体に刻んでおきましょう」


ローズマリー様は教鞭を捨て、自らの指をアリア様の口元へ差し出した。


「舐めなさい」


「……ん、ちゅ……」


アリア様は目隠しをされたまま、従順にその指を口に含み、舌を絡ませる。

 

その様子を見下ろすローズマリー様の瞳。

 

……ああ、なんと熱っぽい瞳なのだろう。

 

普段の氷のような冷徹さはどこへやら。


そこにあるのは、独占欲と、加虐心と、そしてどうしようもないほどの「依存」の色だ。


「いい子。……では、次はここです」


ローズマリー様は指を引き抜き、アリア様のネグリジェの胸元を寛げた。  


露わになった豊かな双丘。


その先端は、興奮と寒さで既に硬く尖っている。

 

お嬢様はそこに、低い温度で溶ける「魔導ロウソク」を傾けた。


「あっ、熱っ……!?」


「動きません。これは、貴女の魔力回路を拡張するための『儀式』なのですから」


とろり、と垂れる桃色の(ロウ)。  


熱さと、魔力が染み込む快感。


相反する刺激に、アリア様は「んぎぃっ!」と可愛らしい悲鳴を上げて身をよじる。


「暴れると、もっと垂らしますよ?」


「うぅ……いじわる、です……」


「ええ、私は意地悪なご主人様ですから。……ほら、こんなに感じて」


ローズマリー様はアリア様の耳元に唇を寄せ、甘く囁きながら、敏感な部分を執拗に攻め立てる。  


アリア様は泣きそうな顔で、それでも拒絶することなく、その刺激を受け入れている。


私は知っている。  


アリア様にとって、これはただの苦痛ではないことを。

 

孤独なローズマリー様が、唯一「他人に触れる」ことができるこの時間を、彼女もまた求めているのだと。


「アリア、私の名前を呼んで」


「ローズ、マリー……さん……っ!」


「違うでしょう? 『ご主人様』」


「ご、ご主人様ぁ……! もっと、ください……!」


アリア様が懇願すると、ローズマリー様は満足げに微笑み、彼女の唇を塞いだ。  


深く、濃厚な口づけ。  


唾液が銀の糸を引くほどに貪り合う二人の姿は、主従というよりは、互いの魂を喰らい合う獣のようだった。


               ◇


一時間後。  


嵐のような「調整」が終わり、部屋には静寂が戻っていた。  


アリア様は拘束を解かれ、疲れ果てて泥のように眠っている。

 

その横で、ローズマリー様はタオルで丁寧にアリア様の汗を拭き取っていた。  


先ほどのドSな女王様の顔ではない。  


聖母のように慈愛に満ちた、穏やかな顔だ。


「……ローズマリー様。そろそろお休みになられては?」


私が声をかけると、ローズマリー様はアリア様の乱れた前髪を整えながら、独り言のように呟いた。


「……カミーラ。この子は、馬鹿で、大食いで、品のない駄犬です」


「はい」


「でも……この体温だけは、嘘をつきません」


ローズマリー様は、アリア様の首筋に残る赤い痕を指でなぞった。


「私がどんなに酷いことをしても、この子は私を拒絶しない……」


ローズマリー様は、アリア様の背中に額を押し付け、小さく息を吐いた。  


それは、世界を敵に回して戦う彼女が、唯一鎧を脱げる瞬間。


「……入れ込みすぎですよ、お嬢様」


私はあえて、冷たく指摘した。


「その『玩具』が壊れた時、あるいは失われた時……一番傷つくのはお嬢様ご自身です」


ローズマリー様は苦笑し、眼鏡をサイドテーブルに置いた。


「分かっていますよ。だから……壊れないように、私が管理しているのです」


そう言って、ローズマリー様はアリア様の身体を抱き枕のように抱きしめ、布団を被った。


アリア様が寝ぼけて「むにゃ……お肉……」と呟き、無意識にローズマリー様の腕に擦り寄る。


ローズマリー様は嬉しそうに目を閉じ、すぐに安らかな寝息を立て始めた。


               ◇


【廊下】

私は部屋を出て、静かに扉を閉めた。

 

トレイの上には、手つかずのホットミルクが冷えている。


「……やれやれ」


私は小さくため息をついた。  


アリア様が来てから、ローズマリー様は変わった。  


よく笑い、よく怒り、そして……よく眠るようになった。  


国が滅びかけようとも、敵が迫ろうとも。  


あの「馬鹿な犬」が隣にいれば、私の主は折れないだろう。


「精々、長生きしてくださいませ、アリア様。……貴女はもう、ただの影武者ではありませんから」


私はアシュトン家のメイド長として、二人の安眠を妨げる不届き者を排除すべく、闇夜へと消えた。  


明日は学園祭の準備だ。  


また騒がしい一日が始まる。

次回予告 :束の間の休息も終わり、学園は「学園祭」の準備期間へ突入。 アリアのクラスの出し物は「執事・メイドカフェ」に決定! 資材搬入の手伝いで、アリアはうっかり巨大な道具を、小脇に抱えて運んでしまう。 「ち、違うんです! これは張りぼてで……!」 苦しい言い訳をするアリアに、周囲の男子生徒たちはドン引き。 さらに、カフェの衣装合わせでトラブル発生!?

次回、「学園祭(前編) カフェの準備で怪力がバレそう」

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一直線で可愛いワンちゃんと不器用で寂しがりなご主人様の関係、あまりに尊すぎます……。 甘く歪んだ独占欲とそれに応えちゃう健気さが見事に噛み合いつつ、ときどきお互い予想外のかわいらしさを見せるシーンがあ…
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