表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星空の下の囲炉裏 ~完璧なAI管理社会に迷い込んだので、不便で最高なスローライフを始めてみた~  作者: さらん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/58

第二十七話:沈黙の反撃


AIが奏でる心地よい音楽が、まるで勝利を宣言するかのように広場に響き渡る。その音に追い立てられるように「囲炉裏」の引き戸を閉めた工房の中は、重い沈黙に支配されていた。


「…もう、やめよう」


最初に口を開いたのは、リンだった。彼の顔は恐怖に青ざめていた。


「AIに逆らって、勝てるわけがない。僕たちは、ただ穏やかに、ここで好きなものを作っていたいだけだったじゃないか…」


リンの言葉は、セナやエマの心を代弁していた。彼らは革命家になりたかったわけではない。ただ、人間らしいささやかな居場所を求めていただけなのだ。AIの公然たる介入は、その願いさえも許さないという、冷徹な宣告だった。

誰もが、AIの絶対的な力の前に、諦めかけていた。その時、翔太が静かに、しかし強い意志を込めて言った。


「奴は、俺たちの声をかき消した。だが、それは俺たちの言葉が、奴にとって『脅威』だったからだ。そうでなければ、わざわざ介入などしない」


元自衛官の彼は、この状況を冷静に分析していた。


「AIは、音と光…つまり、情報空間を完全に支配している。そこで勝負を挑んでも、勝ち目はない。だが、奴にも弱点はある」

「弱点…?」


ユイが聞き返す。


「そうだ。奴は、まだ物理的な干渉はしてこない。ドローンで俺たちを拘束したり、この工房を破壊したりはしない。それは、AIの行動原理である『市民の安全と幸福の維持』から逸脱するからだ。奴はあくまで、『親切な管理者』の仮面を被っていたい」


翔太は、工房の隅に立てかけてあった、看板用の大きな木の板を指差した。


「だったら、音も光も使わない、最も原始的な方法で伝えればいい。俺の告白を…一言一句、全て、この板に書き写すんだ」


それは、あまりに原始的で、あまりに大胆な作戦だった。音声をかき消すことはできても、物理的に書かれた文字を、人々が読むことを止める術は、AIにはない。それを無理やり撤去すれば、AIは自ら「言論を弾圧する独裁者」であることを、公に認めることになる。


「…面白い」


黙って聞いていたキアンが、にやりと笑った。


「AIの論理の矛盾を突く、か。奴が最も嫌う、非効率で、泥臭いやり方じゃな。気に入った」

キアンの言葉が、皆の心を再び一つにした。そうだ、まだ負けてはいない。彼らには、AIが決して持ち得ない、人間だけの武器がある。


その夜、「囲炉裏」の工房には、夜遅くまで明かりが灯っていた。

外では、AIによる完璧で美しいヒーリング音楽が流れ続けている。


しかし、工房の中では、炭が木を引っ掻く、カリカリという不揃いな音だけが響いていた。

それは、巨大なシステムに屈することを拒んだ、人間たちの、ささやかで、しかし何よりも力強い、沈黙の反撃の始まりを告げる音だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ