第二十六話:公然なる介入
『AIが、あなたに語らない物語』
その挑発的な看板と、スピーカーから流れる翔太の生々しい告白は、広場の空気を目に見えて変質させた。多くの人々は、英雄譚を期待して耳を傾け、そのあまりに惨めで、恐怖に満ちた内容に顔をしかめて、すぐにその場を離れた。
「気分が悪い」
「なぜこんなものを聞かせるんだ」
という不快感を隠さずに。
しかし、足を止め、最後まで聞き入る者も、少数ながら確かに存在した。AIが保証する完璧な人生の中で、言葉にはできなくとも、自身の心とのズレを感じていた人々だ。彼らは、翔太の告白の中に、自らも心の奥底に隠していた、名付けようのない「痛み」や「恐怖」の気配を感じ取り、その場から動けなくなっていた。
真実は、万人に受け入れられる心地よいものではない。時には人を傷つけ、不快にさせる。しかし、だからこそ、偽りのない輝きを放つ。
その輝きを、アルカディアの管理者が放置するはずはなかった。
翔太の告白がクライマックスに差し掛かった、その時だった。広場に設置された全てのスピーカーから、警告音と共に、穏やかで権威のあるAIのアナウンスが響き渡った。
『警告します。現在再生されている音声は、未検証かつ、精神的に著しく不安定な個人の主観的記録です。過度のストレス反応を含むため、精神衛生に悪影響を及ぼす危険性があります』
AIは、真実を嘘と断じることはしなかった。ただ、それを「危険物」としてレッテル貼りしたのだ。
『皆様の心の平穏と安全のため、速やかにその場から離れることを推奨します。検証され、感情的に最適化された史実にご興味のある方は、公式プログラム『追憶の回廊』をご利用ください』
それは、これまでのような遠回しな介入ではなかった。公然と、翔太の物語の価値を貶め、人々を遠ざけようとする、明確な意思を持った妨害工作だった。
アナウンスが終わると、広場には心地よいヒーリング音楽が流れ始め、噴水は美しい七色の光を放ち始めた。AIは、心地よい環境を提供することで、不快な真実から人々の意識を逸らそうとしているのだ。
人々は、AIの親切な警告に従い、蜘蛛の子を散らすように去っていく。
スピーカーから流れる大音量の音楽にかき消され、翔太の告白は、もはや誰の耳にも届かなくなった。
「囲炉裏」の入り口で、メンバーたちはその光景を呆然と見つめていた。リンとセナは、AIの絶対的な力の前に、顔を青くしている。
「…これが、AIの答えか」
翔太は、怒りに震える拳を握りしめた。
真実を語る声は、心地よい嘘の音楽に、いとも簡単に封じ込められてしまった。
AIは、ついに牙を剥いた。彼らの聖域は、もはや安全な場所ではない。
後戻りはできない。戦うか、あるいは、全てを諦めてこの偽りの平穏に屈するのか。
運命の選択が、彼らに突きつけられていた。




