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星空の下の囲炉裏 ~完璧なAI管理社会に迷い込んだので、不便で最高なスローライフを始めてみた~  作者: さらん


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第二話:地下の太陽


「"楽園"…?」


少女から発せられた予期せぬ言葉に、翔太は思わず問い返した。彼女は「ユイ」と名乗り、悪びれる様子もなく微笑んでいる。

その服装も、古代ギリシャのキトンというにはあまりに現代的な、汚れ一つない滑らかな生地でできていた。


「そう、ここは『アルカディア』。私たち人類が、長い歴史の末にたどり着いた理想郷だよ」


ユイはそう言って、丘の下を指差した。そこには、先ほど翔太が見た様々な時代の街並みが広がっている。翔太が所属していた現代日本の風景も、その一角に精巧に再現されていた。


「信じられないかもしれないけど、ここは未来の世界。そして、私たちは地下に住んでいるの」

「地下…? だが、この太陽は…空は一体…」


翔太が空を仰ぐと、そこには一点の曇りもない青空と、燦々と輝く太陽があった。とても地下空間とは思えない。


「それは『擬似天空』。AIが管理するシステムよ。天候は常に完璧にコントロールされていて、水不足も自然災害もないわ」


ユイの説明は、翔太の常識を次々と覆していく。AIによる完璧な管理社会。過去のあらゆる時代を再現し、人々が自由に行き来できる生活。DNA情報から恐竜などの絶滅した生物を再生させる技術。

全てが、彼の生きていた時代ではSF映画の中でしか語られなかった夢物語だった。


ユイに案内され、翔太は丘を下りた。道中、トリケラトプスが草を食み、その横を最新鋭のリニアモーターカーが無音で走り去っていく。あまりにちぐはぐで、しかし妙な調和が保たれた光景に、翔太はめまいさえ覚えた。


「人々は、生きたい時代の区画で暮らしているの。歴史の遺物から情報を抽出し、当時の生活を完璧に再現する技術があるから、とても新鮮な体験ができるわ」


ユイの話によれば、この地下世界はもはや拡張の余地がなく、資源を巡る争いや戦争もないという。

人々はAIによって保証された快適な生活の中で、過去の文化を体験し、思い思いの人生を謳歌している。一見すれば、それは確かに「楽園」と呼ぶにふさわしい世界に思えた。


やがて二人がたどり着いたのは、翔太が見慣れた日本の住宅街だった。その一軒家がユイの家だという。

玄関を開けると、「おかえり」という合成音声が二人を迎えた。家の隅々まで清掃が行き届き、快適な温度と湿度が保たれている。これも全て、AIの管理によるものなのだろう。


テーブルには、翔太が気絶している間にAIが準備したという食事が並べられていた。温かいスープを一口飲むと、張り詰めていた心と体がゆっくりと解けていくのを感じた。


「あなたは、どうしてここに? "上"…つまり、過去の世界から来た人は初めてだから、みんな驚くと思う」

「訓練中に、事故で…」


翔太は、自分が置かれていた状況を拙く説明した。ユイは、興味深そうに彼の話に耳を傾けている。彼女の瞳は、まるで世界の全てを知っているかのように澄み切っていた。


「そう…。大変だったのね。でも、もう大丈夫。ここでは、何も心配することはないわ。争いも、苦しみも、死の恐怖さえも、ここには存在しない」


ユイは穏やかにそう言った。しかし、その言葉に、翔太は形容しがたい違和感を覚えた。完璧に管理され、保証された世界。

そこに生きる意味とは、一体何なのだろうか。全てが満たされたこの「楽園」で、人々は何を想い、何のために生きているのか。


新たな疑問が、翔太の心に深く根を下ろし始めていた。この完璧すぎる世界で、彼はこれからどう生きていくのか。そして、この世界の住民たちが失ってしまったものは、一体何なのか。翔太は、この楽園の真実と、自分自身の人生の意味を探し始めることを、静かに決意した。


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