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第22話:「教育」という名の不良債権

『警告:世帯収支 破綻アラート』 『教育投資インター: 31,500,000円』


第21話で弾き出された、絶望的な数字。 裕樹と美咲は、真っ赤に点滅するそのアラートを、呆然と見つめていた。


「……3,000万」 美咲の声が、かろうじて空気を震わせた。 「家が一軒、買えるじゃない……。無理よ、私たちには」


「ああ、無理だ」 裕樹は、ロジックが弾き出した「事実」を、冷たく肯定した。 「俺たちの世帯年収で、父さん(昭夫)の介護費用(第20話)が親の預金(1,000万)を食い潰し、あの『負動産』が俺たちにのしかかってくる。その未来を睨みながら、このコストを払うのは、物理的に不可能だ」


「じゃあ……」 美咲の顔から、血の気が引いていく。 「じゃあ、どうするの? 沙奈は? 私たちが『不良債権世代』だからって、沙奈まで、この『敗戦処理』(第9話)に巻き込むの? 地元の公立中学に入れて、おしまい?」


「……いや」 裕樹は、破綻アラートを閉じた。 「『脱出インター』が無理でも、もう一つの道がある」


彼は『沙奈:脱出スキル投資』のタブを複製し、名前を変えた。 『沙奈:国内エリート投資』


「え?」


「私立のお受験」 美咲が、裕樹の意図を察した。 「インター(脱出)が無理なら、国内(システム内)で、できるだけ良い教育(投資)を受けさせる。中学受験、あるいは小学校受験。エスカレーターで、良い大学まで行く」


「そうだ」 裕樹は、指を動かし始めた。 彼は、首都圏の進学塾や私立中学の学費データを、猛烈な勢いでシミュレーションシートに叩き込んでいく。


【シミュレーション:沙奈・国内エリート投資(中学受験ルート)】


進学塾費用(小4~小6): 約2,500,000円


私立中学・高校 授業料(6年間): 約6,000,000円


大学(私立理系) 授業料(4年間): 約7,000,000円


10年間の総額(概算): 15,500,000円


「1,550万……」 美咲が、その数字を読み上げる。 「インター(3,150万)の、半分ね……。これなら、何とかならない?」 希望の光が、美咲の目にわずかに戻る。 (親の資産はアテにできなくても、私たち二人の稼ぎと、ゴールド(第19話)を切り崩せば……)


だが、裕樹はキーボードを叩く手を止めていた。 彼は、その「1,550万円」という数字を、睨みつけていた。 そして、第7話で自分を打ちのめした、あの「悪夢」を思い出していた。


(……コストは、半分だ) (だが、『投資対効果(ROI)』は?)


「……美咲」 裕樹の声は、先ほどよりも、さらに冷たくなっていた。


「この『1,550万』は、何のための投資だ?」 「え? だから、沙奈が『良い大学』に入って、『良い会社』に……」


「『良い会社』?」 裕樹は、第7話で健太が実演してみせた、あの悪夢のAIツールを思い出していた。


「美咲。俺たちが、血反吐を吐く思いでこの1,550万を捻出して、沙奈を『良い大学』に入れたとして」 裕樹は、美咲の顔をまっすぐ見た。


「その『良い大学』で学ぶ『スキル』が、沙奈が卒業する15年後に、AIに代替されて『陳腐化』していたら、どうする?」 「……!」


「この『1,550万』は、『日本システム(国内)』でしか通用しない『学歴』を買うためのコストだ。 だが、その『日本システム』自体が、AIと少子高齢化で沈みかけてる。 俺たちが投資しようとしてるのは、沈みゆく船の『一等客室のチケット』じゃないか?」


裕樹は、頭を抱えた。 「教育」という、最後の希望。 それが、裕樹のロジックの中では、最悪の「金融商品」にしか見えなくなっていた。


「コスト(3,150万)が高すぎて買えない『海外インター』のチケット」 「リターン(将来価値)が怪しすぎて買えない『国内エリート』のチケット」


「……どうしろっていうんだ」


裕樹のシミュレーションシートの上で、 『教育』という項目そのものが、 『不良債権』という、真っ赤なアラートを点滅させ始めていた。

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