嫌な予感
「精神世界とか言われてもピンとこないんすけど。ファンタジーでしか見ないよそういうのは!」
「そんなこと言われても…」
彼女は困った表情でこちらを見つめる。
なんとも可愛らしい。
「そうだ、まず名前を何?というか自己紹介しようよまず…何処ぞの誰?who are you?」
「そ…そうだね…私はユキよろしく…ナギくん」
「うん…ん?」
確かに自己紹介はしてくれたが、同時にナギの名前を呼んだことに疑問を持った。初対面のはずなのに身バレしているのはなんとも不思議な話だ。
「ん?」
「ん?じゃねーよ!なんで名前知ってんの?」
「えー忘れたの?ひどいなー」
呆れたような顔つきで、こちらにため息を飛ばす。
「まあ、身体だけの関係だもんねー…」
ナギの頭を空白が埋め尽くす。会ったこともないはずの人にこんなこと言われたら誰でもこうなるだろう。沈黙が続き、彼女の焦点がこちらに合わなくなり、頬が赤く染まっている。それはさっきの言葉が嘘だった事を物語っているのだった。
「…うそで…す、すいません…」
「そう…うそ、あーマジでよかったー。本当だったら不祥事編突入しちゃうとこだったよ。ってか言っていい嘘と悪い嘘ってのがあるからね、マジで」
「ごめんなさい…」
髪を指でくるくるとしながら下を向く。
「…聞きたいことがまあたくさんあるんだけどさ。君って、昔俺と会ったことある?」
そういうと彼女は顔を上げ、キラキラした目でこちらを見る。
今にも飛びかかってきそうな子供の様な眼差しだ。きっと欠片でも思い出したことに賭けた(ベット)したのだろう
「…うん…あるよ。毎日遊んでたよ。5年前まで」
「え、あ、ガチで?12とかの時か…ごめんなんだけど覚えにないっす」
「まあそうだろうね、君と私がパラレルに迷った時、出るための条件として私が神様代わりに核となって君は現世に帰れた。その時の記憶をパラレルの神様が消しちゃったから覚えてないのも無理もないわ」
「マジで?色々ツッコミたくなるけど一旦スルー」
「あと君と別れる時に、絶対迎えにくるって約束してくれたんだけど覚えてないよね?」
「うん…ごめん」
新情報てんこ盛りの展開に脳がついていってない様だ。
次に繋ぐ言葉を検索しているが、難航している。
「そうえば現世にいる時、夢で会ったと思うけど…」
その出来事には覚えがある。そう今朝の出来事だ。
ここでようやく、脳の処理が追いつく。
「現世にも干渉できる…そうだ、ネットのみんなが君らしき人の夢を見たってトレンドに…」
「ああ、それは多分、現世にいるナギくんのみに干渉するのは無理だったから、いろんな人に同時に干渉したせいかも。まあ私に関する記憶がない人には声は届いてないと思うけど」
「なんか、規模デカ過ぎてあれだなあれ…」
「あれって?」
「アレだよアレ。ほらーうーんやばい的な」
「うん…なんか、アレだね…思ったより浅かった…うん、なんか、ごめん」
彼女が苦笑しながらナギの微妙な返答を受け流す。
それはさて置きここでようやく点と点が繋がる。朝のものもきっと彼女との記憶だったのだろうと容易に予測がつく。
「じゃ、じゃああの化け物は…なに、ここからどうやった出れるの?」
つい勢いで一気に迫ったせいか、彼女はオドオドしている。慌てている彼女はとても可愛いが、そんなに悠長にしている暇はない。情報を多く持ち帰るのが出ていった所以でもあるのだから。
「そ、そんなに一気に迫らないでよ…そ、そうね、ここから出たいなら鍵の守人に案内してもらうか、あの化け物を倒すしかない…あと重要なことを伝えたくて干渉したの」
「な、何?十分今のも重要だったと思うんですけど」
彼女の真剣な顔つきと、声の調子がさっきより沈んでいることから、あまりいいニュースとは言えないことが伺える。
「あのね…パラレルってのは大きい一つから、小さいのが無数に枝分かれしてるんだけど、ここは小さいのの一つで私は大きいところにいるわけで…その」
「つまり?」
「わたしはここにいない、だから次は本丸に神様と一緒に来て欲しい。」
「…えーーー」
彼女を突き放すように冷たく言う。
正直面倒ごとはごめんだからだ。それとパラレルへの行き方も全くわからないのだ。
「お願いっ」
手を合わせながらギュッと縮まる姿を前にしては断るものも断りづらくなってしまう。
「…まず神様ってど…」
急な目眩がナギを襲う。足元がふらつき彼女が二重、いや、三重にも見える。
「時間が近い…神様は君の近くにいるよ。あ、あと運がいいことに鍵の守人もいる。あとは頼んだよ。ここにいる間は君のそばにいるから」
「次、どうやったら君に…」
「そうだね、こちらからの干渉は3回目となると難しくなる。だから君が強く願えばきっと会えるわ」
ここでナギの意識は闇に落ちる。
赤黒い光が彼の瞳を焼く。それはそれなりの時間がたったことを示唆していた。
「ッチ、情報量が多すぎるっつーの」
起きて第一声がこれだ。なんて言っているのも束の間、ビチャ、ビチャ、と足音が聞こえる。背筋を指で撫でられた時のような嫌悪感が彼を襲う。あの化け物だけはごめんだと願うばかりだった。




