deux
――――紳士淑女の皆様。私一人で登場し口上を述べます事をお許し下さい。
古い伝統を復活させたいと、昔ながらの仮面をつけ、
手前どもが流す涙で胸の痛みや苦しみをご覧になって下さいと申し上げるのではありません。
作者は役者のためにある実話を思いだし涙にむせびながら書きました。
ある恋が憎しみを生み、苦しみ、悶え、怒り、皮肉な笑いと悲しい結末、私どもしがない道化役者ですが、皆様と同じ人間でありまして
心の中をどうぞご覧下され。
(Ruggiero Leoncavallo/「I Pagliacci」)
日も暮れて久しい頃。
道化師と呼ばれたシルスは、そのまま彼らに誘われるまま気付けば彼の貴族が郊外に建てた屋敷へと辿り着いていた。
何だか何でも上手くいきそうな気がする。
門番も居ない門を通り抜け、警備の者も居ない屋敷の中へと正面から入る。
神が味方してくれている。
正直にそう思えた。
そしてそんなシルスの少し後ろから、緩やかに歩いて付いて来ているのは人形師と人形。
勿論歩幅の違う人形は、人形師の腕の中だ。
わくわくどきどき、という風に瞳を煌かせて前を歩く青年を見ている。
人形師は、ただ笑っていた。
誰にも会わず、やがて辿り着いたのは屋敷の中心部。
より豪華な造りな扉の前で、ふらりとシルスは立ち止まった。
何故だか分からない。ここに愛しい妻が居る気がしたのだ。
人形師たちも、立ち止まる。
「さあ!もう23時よ、道化師さん。」
楽しくて仕方ないという声音で、人形は叫ぶように喜びの声を上げた。
シルスの手が動く。まるで彼女に操られているかのように。
観音開きの扉へと、手がかけられる。
「cinque、quattro、tre、」
人形師による、カウントダウンが始まった。
シルスの腕に力が入る。
「due、uno、」
扉が動く。
「―――――zero」
部屋は、開かれた。
人形は、にぃ、とワラった。