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DOLL  作者: 五月雨
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人形職人の話




その日、僕は奇妙な人たち?に出会った。


















僕はしがない人形職人(見習い)の一人。

腕は父譲りでそれなりにいいとは思うし、評判もいい。

顔の作りも醜悪というわけじゃないし、美形というわけじゃないし、で普通だと自分では思っている。

父はもう引退したけど人形職人で、母親は専業主婦で裁縫の腕がいい。

そこの長男として生まれた僕は、これまで十七年間人形一筋だった。

勉学だってそれなりにやったし、全くの無学ではない。

出来はそこそこで、悪くもないし、まあよくもないけど。


そんな僕に、恋人が出来た。


父の店のお客さんで、凄く可愛らしいお嬢さん。

確か医者の娘らしく、いい育ちはその立ち居振る舞いから分かるぐらい本当にいいとこのお嬢さんだ。

そんな僕と、人形職人の僕が恋仲になってもいいのだろうか?と思ったけれど、いいらしい。彼女が言うには。



「で、うじうじしているわけなのね~、うじ虫さん!」


「いやいや、分かるよ。身分違いの恋ってやつだろう?」



今日のお客さんは何だか変わった人だ。

普通に美青年な感じの青年と、可愛らしい人形の…二人?

しかしどういう仕掛けなのか、人形が独りでに動き喋っている。

新手の腹話術師とからくり人形なのだろうか。

だとしたらまだ新人の僕にはこんな精巧なからくり人形の相手なんて無理だ、ということで父を呼んだわけだけど、少し待てとか何とかで待っている間お茶なんか出して相手していたわけだけど、いつの間にか僕はぽろぽろと恋の話なんかしちゃったわけなんだけど。



「絶対、楽しんでるでしょう!?」



だって二人?(もういいや二人で)の口元は、笑いを堪え切れていないせいで歪な弧が描かれているのだから。

笑うのを堪える人形だなんて聞いたことないけれど。

でも人間の方は確実に爆笑一歩手前の様子。

恨めしげに睨めば、口先だけの謝罪をする青年と人形。

そこの二人、まだ口元引き攣ってるから。



「ぷぷぷ、だって何だか初々しいというか青々しいというか…、何だか、若いっていいわね~。」


「聞いてるこっちがおもし、じゃない、微笑ましいよ。うん。」



今、面白いって言おうとしたぞこの人。

恥ずかしいやら恨めしいやら情けないやら、本当に穴があったら入りたい。

しかし一応この人たちもお客様。早く来てくれ父さん。

思わず遠い目になりかけた僕の視界に、ふと人形のドレスが入った。

可愛らしい藍色のドレスなのだが、袖口の金細工のボタンが取れかかっている。


気付けば、こう僕は口にしていた。



「あの…、ボタン、付け直しましょうか…?」













「ありがとう、小さな職人さん。貴方、腕がいいようね。将来有望よ?」


「僕からも礼を言うよ。僕はからっきし裁縫というのが不得意でねぇ。恩に着るよ。」


「い、いえ…そんな大層な事じゃありませんし…。」



とか口にしつつ、本当は嬉しかった。

裁縫の腕は母から受け継いだのか、それなりに自信があったからだ。やはり褒められるのは嬉しい。

多分それが顔に出ていたのだろう。今度は、面白がるような笑みではなく、本当に暖かい笑みを二人は浮かべた。



「人形はね、恩は忘れないのよ?」


「だから、きっと恩返しをするよ、この子がね。」


「は、はあ、楽しみにしてます…?」



人形の恩返し。少し興味はあるけれど、実際に恩を返してくれるのは多分この青年の方なのだろう。

だって、人形は人形だし。


そうこうしている内に、父が奥からやって来て、僕はこの奇妙な二人とはそこで別れることとなった。







そうして数日後、僕の恋人は、死んだ。

何者かに刃物で刺され裏道に倒れていたのを、ある人形師が見付けて通報したらしい。

目撃者は一切不明。犯人の捜査も即行われたのが、今現在不明。

指紋も証拠も一切無く、凶器も無い。


捜査は難航し、結局お蔵入りとなったのがその三ヵ月後。




店に、またあの奇妙な二人がやって来たのは、その頃だった。






カランカランと鳴るドアに付けられた鈴の音に、僕は、はっとしてドアを見た。

入店したのは、あの時の二人だった。

腕に乗せるようにして人形を抱き上げている青年。

二人は揃って同じような笑みをその顔に張り付かせていた。


その表情に、何故かぞくりと背筋が震える。

何だか、不気味だったのだ。


僕はそんな気持ちを悟られまいと、意識して口を開いた。



「い、いらっしゃいませ。今回はどんな御用で?ち、父を呼んできましょうか?」



少し震えてしまった声に、ひやりとしたけれど、二人は気にした風もなくドアを開けたままの状態で首を横に振った。



「いやいや、今日は少し恩返しのご報告に、ね。」


「感謝するといいわよ、私たちにね。」



そう笑って人形と青年は背を向ける。


青年の肩口に、ひょこりと人形が顔を出し、そして右手を挙げて




「ッ…!?」



にっこりと、それを左右に振った。



嘘だ、嘘だ、嘘だ!



バイバイ、と無邪気なその挨拶。



やめろっ、やめてくれっ、嘘だろうっ!?






その右手は、





真っ赤に濡れていた。









「言ったでしょう、人形は恩返しするって。」


「あのお嬢さんはね、遊んでいたんだよ、君で、ね。」






その日、その町から人形師とその人形が消えた。


そして、人形職人の一人息子が、その日以来自室に篭るようになったという。





恩返し、成功――――?






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