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お昼の時間です  作者: ギーク
第一の世界
9/19

迷子

今は8時15分。朝食は8時30分からだ。

深夜12時過ぎに就寝し、朝7時に起こされたリコとセリナは現在、客間で正座中。


それは朝食を待っているからではない。


「姫様は多忙の身なのです。昨日は偶然お休みの日でしたが……23時過ぎはお静かにお願いします!」


雪乃に怒られていたからだ。


「「すいませんでした……」」

2人揃って項垂れていた。


昨晩、案内された寝室があまりにも綺麗だったのでつい1時間ほど騒いでしまったリコとセリナ。

枕投げなんかもしていた。

当然、人様の家で夜に騒いでいたら怒られるものだ。


「全く……セリナ様とリコ様がお休みになられた部屋から姫様の部屋は離れてはいますが……姫様は感覚が鋭敏なんです。もう少し静かにしていただかないと…」

「「はい……」」


もう15分間説教されているがぐうの音も出ない。


「まぁまぁ雪乃様、もうその辺でいいではありませんか。セリナ様もリコ様も十分に反省されていることですし……」

唯一の救いは墨男が間に入ってくれることだった。


「まぁ、墨男!甘い、甘いわ!姫様の眠りが妨げられたのですよ!国の宝である姫様の眠りですよ!」


「その姫様が昨晩、好きにさせなさいと申されたのです。姫様もこれ以上、セリナ様とリコ様が叱られると悲しまれるのではないのですか?」


「っ……!……ずるいわ。」

雪乃が拗ねたように呟いた。

彼女がどれだけ紫月を大事にしているかよく分かる。


「セリナ様、リコ様。先ほど雪乃が申した通り、姫様の眠りの妨げになったのは事実です。今後は気をつけてくださいね。」

「「はい……気をつけます……」」

墨男に優しい笑顔で諭されると尚、申し訳なさで死にたくなる。


「……はぁ」

ぺこりと頭を下げる2人を見て雪乃が溜息をつく。

「もぅ………ではセリナ様、リコ様。私は洗濯の仕事があるのでこれで失礼します。本当に、気をつけてくださいね。」

そして最後に少し微笑んで退室した。



「反省だねセリナ……」

「うん…もっと自重していこうねリコ……」

リコもセリナも、泊まらせてもらっている身分でありながら迷惑をかけてしまったことを深く反省する。


「…姫様はお怒りではございませんでしたよ。むしろ混ざりたがっておられました。なのであまり気になさらないでください。」

落ち込む2人に墨男が優しくフォローしてくれた。


「…ありがとうございます。後で紫月さんに謝りにいきますね。」

「私もリコと一緒に謝ります……。」


墨男の優しさが心に染みる。

恐らく自分達より年下である墨男に、助けてもらうことが情けなくて仕方がない。


「セリナ様、リコ様。私からも少しよろしいでしょうか?」

部屋の墨にいた墨男がリコとセリナの前へと移動する。


「……?はい。」

セリナが小さく頷くと、墨男はゆっくりと言葉を選んだ。


そして丁寧に頭を下げる。

「……ありがとうございました。」

墨男は上体を深く折り曲げ、畳に額が触れるほどに頭を垂れた。


「ちょ、ちょちょっ!?」

「ま、また!? ちょっと墨男さん!?」


2人は慌てふためいた。このポーズを見るのは確か3度目。でも慣れるはずもない。

この男は、とにかく何かあるとすぐ土下座だ。


「顔を上げてください!」

「そうですってば! 反省してるのは私たちなんですから!」


抵抗する2人をよそに、墨男は微動だにせず言葉を続けた。


「昨晩……姫様が、久しぶりに穏やかな表情をされていました。あのような柔らかな空気を纏われた姫様を見たのは……いつ以来か、思い出せないほどで……」


その声音には、震えるほどの安堵が滲んでいた。


リコとセリナは一瞬だけ見合わせ、真剣な表情になる。


「姫様は、あの夜……楽しそうにされていました。嬉しそうに……きっと心では笑っておられました。……セリナ様、リコ様。姫様を笑わせてくださったこと、深く感謝いたします。」


それはまるで自分の命の恩人に向けるような感謝だった。


「墨男さん……」

「私たちそんな大したことしていませんよ…………」


そう……〝心では〟笑ってくれていたとしても、それが表情には出ていなかった。

紫月を笑顔にしてあげることは出来なかった……。

本当に大したことはしていないのだ。



墨男はそれでも頭を上げようとしない。


(全く……墨男さん真面目すぎるよ。ウチらいつも通りうるさくしてただけだもん。)

(ここまで誰かに想ってもらえる紫月さんが羨ましいな……リコは私のために土下座とかしないもん……。私もしないけど……。)


半ば呆れつつ、でも心のどこかが温かくなる。

だからリコとセリナは、同時にため息をついた。


「「だから、顔を上げてくださいってば!!」」


声が揃ってしまい、自分たちで驚いて笑ってしまう。


そのタイミングで、ようやく墨男が恐る恐る顔を上げた。


「で、でも……本当にお礼が……」


「ちゃんと伝わりました!感謝も、紫月さんが大切なことも!ありがとうございます!」

「墨男さんの土下座も紫月さんは望まないと思いますよ!揚げ足を取るわけではないですが!」


リコとセリナのツッコミに、墨男は照れくさそうに視線をそらした。

「す、すいませんでした……つい……」

それでも――目元には、確かな安堵の色があった。


「ビックリしたよねーセリナ。」

「ビックリしたねーリコ。」

ねー!とお互いの顔を見て笑う。


その様子を見て墨男は少し違和感を覚えた。

(…………黒の土下座など珍しいことでもないはずだが…………変わった方々だ。)

誰でも唐突な土下座は驚くものだろうが、土下座をしているのが黒だと事情が違ってくる。


(……俺の考えすぎか?……いや……そういえば…)

昔、紫月に怒られたことがあった。

あまり気を遣われすぎるとこちらが申し訳なくなる、と。

(きっと姫様と同じ、優しい方というだけだろう……姫や青と赤の御方に気を遣われるなど従者失格だよな……)


もう少し社交性を身につけねば。

そのためにまずは……


「……差し支えなければ…どのようなお話をされていたのか、伺ってもよろしいでしょうか?」

共通の話題に限る。


(……さすがにマズイだろうか……)

この質問は墨男にとって大きな一歩だった。

紫月の家の者以外に自分から親しげに話しかけるなど、普段はありえない。


「昨日ですか?昨日は……」

セリナが答えようとした瞬間、


「紫月さんの昔話です!」

リコが一テンポ早く、勢いよく答えた。


「お、おぉリコ、少し落ち着いて……。ええと、紫月さんと墨男さんの出会いの話を聞きました。」

セリナがやんわり補足する。


墨男の目が揺れた。

「……私との、出会いを……ですか…」


「はい。紫月さん、楽しそうに話してましたよ。」

リコは屈託なく言うと、

「そーですね。とても大事な記憶なんだと思いました」

セリナも同意した。


「……」

セリナの言葉が墨男の胸の奥に静かに響いた。


彼は小さく息を吐き、目を伏せる。

「私は……てっきり、忘れたい過去なのだと。あの日の思い出が…姫様を縛り続けているのだとばかり……」


「「??」」

一瞬、どうしてそう思ったのだろう?という顔をしたリコとセリナだが

((あっ……紫月さんの結婚か……))

すぐにピンと来た。


雪乃から聞いた話だと、紫月は外国の王子と結婚するらしい。

しかし、紫月は墨男を想っているのは確か。

紫月の笑顔が消えた理由は明らかだ。


そのため昔の思い出が紫月の鎖となっている、ということなのだろう。


すると、だ。

(墨男さん、紫月さんの想いに気づいてるな……セリナは気づいてるかな?)

(なんてこった……まぁ紫月さん分かりやすいもんな。リコ〜これはとんでもないぜ〜)


墨男もなかなか罪な男だ。


((でも……))


「縛ってるなんて思わなかったけどなぁ」

リコは首をかしげる。


「はい。紫月さんはむしろ誇らしげでしたよ?」

セリナが淡く微笑んだ。


「……そうですか」

その呟きは、ほどけたような、滲んだような。


そして墨男はゆっくりと、言葉を選びながら告げた。


「姫様は……私にとって何よりも大切なお方です。忘れるはずがありません。あの日の記憶は……全部」


苦しそうな顔で。


リコとセリナは顔を見合わせた。

この男がどれほど紫月を想っているのか、痛いほど伝わった。


だから、次の問いは自然だった。


「――ねぇ墨男さん」

リコが真正面から聞く。

「紫月さんのこと、好きなんですか?」


間髪入れずに墨男が答える。

「姫様は素晴らしい主です。従者が敬愛することは当たり前かと。」


2人の予想とズレた答えが返ってきた。


「いやいやいや、そういうことじゃなくて!」

リコが全力で突っ込むと、

「墨男さん。“異性として”という意味です。」

セリナが柔らかく言い直す。


今度は一拍だけ間があき――


「有り得ません。」


はっきり、真顔で、冷たく言い放たれた。


空気が止まる。


「そ、そんな即答……?」

思わず固まってしまうリコ。


「……少しは照れる素振りくらい……」

セリナの声もかすれる。


「姫様とは主従です。それ以上の感情を抱くことなどあってはなりませんし、有り得ません。」

墨男の目つきが鋭くなる。


「「……っ」」

彼が元々精悍な顔つきなだけに、恐ろしく見えた。


「……失礼ですが、もうこの話題は控えていただけると幸いです。」

言葉は丁寧だが、彼の表情は変わらない。


「……すいません。」

「……すいません。」


少し前までは穏やかな朝だったのに、たった1つの質問で地獄のような雰囲気になってしまった。


リコとセリナが自分たちの安易な発言を後悔していた

――その時。


ぐぅぅううううううううううううぅ


呻き声のような音がどこからか鳴る。


「……セリナ……お腹、鳴った?」

「……鳴ったね。……ハハッ……」

「……今、鳴る?普通。」

「……スイマセンデシタ」


セリナは気まずさで死にそうだった。


「……ぁ」


しかしこれが功を奏したのか、墨男の目つきが穏やかになる。


「……朝食にしましょう。もう姫様もいらっしゃるはずです。配膳を開始いたします。」


「お願いします。ほらセリナッ!」

「…………オネガイシマス」


「……ふふっ。」

少し笑ってしまう墨男。


場の空気はやっと朝らしい和やかさを取り戻した。






「まったく……敵いませんね。」

朝食の配膳をしながら墨男がボソッと呟くが、リコとセリナの耳には届かなかった。



ーー5分後ーー


紫月が部屋につくと、温かい香りが静かな食卓を満たしていた。

昨夜食べきれなかった料理が、丁寧な和の朝食へと姿を変えている。


•銀ダラの出汁茶漬け 〜柚子の香り〜

•鍋野菜の含め煮と出汁巻き玉子

•魚介と青菜の胡麻和え

•茶碗蒸し

•香の物三種

•和ハーブ茶


どれも胃に優しそうで食欲をそそる。

量は昨日と同様、えげつないが。


「わぁ……いい香り……」

茶漬けから漂う出汁の香りに顔を幸せそうにするセリナ。実は結構グルメなのだ。


「これ、墨男さんが作ったんですか?」


確か、昨日の残った具材は墨男がアレンジしてくれるという話だ。

リコがチラッと墨男を見るが、墨男は首を振る。


「作ったのは当家の料理人です。墨男は昨日の食材を使って献立を考えてくれました。」

墨男の代わりに紫月が答えてくれた。


「おぉ……さすが墨男さん。」

「なるほど……勉強になります。」

感心するリコと、何やら考え込むセリナ。


リコとセリナが自分たちの世界で働いている店、ストロベリーローズの献立はセリナが考えているのだ。

なので、新しいアイディアを見つけるとつい熱中してしまう。


「リコさん、セリナさん。嬉しいですが、冷めないうちにいただきましょう。」

墨男を褒められて満足げな紫月だが、もう空腹に耐えられない様子。


「そうですね。食べましょうか。」

リコが熱中しているセリナをチョンチョンつつくと、

「あっすいません。食べましょう。」

パッと顔を上げた。


「いただきます。」

「いただきます。」

「いただきます。」


それぞれが食前の手を合わせたあと、3人は一口、銀ダラの出汁茶漬けを味わった。


フー フー フー フー フー!!

ただし、猫舌のセリナは全力でフーフーしてから。


「「「………!!」」」


全員瞳がふわりと細くなる。



「わぁ……銀ダラって、こんなに香りが広がるんですね。口に含んだ瞬間、柔らかくて……この出汁は昆布と鰹節でしょうか、墨男さん。」


セリナが流暢に食レポをすると、墨男がちょっぴり驚いた顔をした。


「ご明察通り、昆布と鰹節で出汁をとりました。セリナ様は確かな舌をお持ちですね。」

「え、ホントですかぁ!オホホホ」


(ムッ…………)

それを聞いた紫月がややふくれ面を浮かべつつ、丁寧に続いた。


「……この出汁、昨日の鍋の脂を一度落としてから澄まし直してますね。香りが軽い。柚子を乗せてるのは、銀ダラのみりんの甘さが勝ちすぎないようにする意図でしょう。良い仕事です。」


普段は必要以上は語らない紫月だが、料理の話となれば自然と舌が滑る。


「姫様の舌の繊細さには恐れ入ります。心より感服申し上げます。」

「……大袈裟です。でも…ありがとう。」


朝から中々見せつけてくれる2人だ。



一方リコは――


(う、美味い以外になんも思いつかん!)


感想が詰まり、口を開けたまま固まる。

リコの難敵、「語彙力の壁」である。


「……お、おいしい!めっちゃ……うまい……!幸せ……!」

「リコ……もう喋るな……」

言い終えた瞬間、自分で恥ずかしくなって俯いた。



(あっ…リコさんが傷ついているわ……こういう時は……されて嬉しい事をすればいいのかしら……?)


紫月はこういう時の慰め方が分からない。

なので自分なりに褒めてみることにした。


「……私は素直な感想で素敵だと思います。素直なところがリコさんの良さですから。」

それだけ言って、出汁の澄まし汁に口をつける。


「紫月さん……」

その横で、リコはこっそり胸を撫でおろした。





ーーーーーー





食後、紫月が湯呑みを置き、今日の話へ移る。


「——さて、今日はお茶のために栄に行きますね。私は午前中が10時半まで栄で用事があるのでこれから家を出ますが、リコさんとセリナさんはどうされますか?後から馬車で来ますか?」


本来、紫月は今日1日休みだったが、急遽家の用事で栄へと向かうことになってしまった。

昼の11〜13時だけはリコとセリナとの約束を優先できたので、用事の合間で合流する予定だ。


「良ければ一緒に行っていいですか?空いている時間で栄の街歩きしたいです!」

「お、いいねリコ。紫月さん、私もあの街をじっくり歩いてみたいです!」


せっかくの異世界だ。

見れるうちに見なければ勿体ない。


「いいですよ。では…私の用事が少し長引くかもしれないので……十一時、天使の噴水広場で待ち合わせましょう。」


天使の噴水広場とは、

1番最初にユキミ、ミキ、リコ、セリナが異世界で見た場所であり、

リコが墨男にぶつかり、国の姫である紫月と出会った場所であり、


色々と不思議な縁のありそうなあの場所のことだ。


「あの綺麗な噴水ですね。合点承知之助です!」

「え、えぇ。…誰なんです?その合点承知之助という方は。」


リコの死語についていけない紫月。

それも突然だろう。リコの世界でも使っている人はほぼいないのだから。


「あっ紫月さん。厚かましいんですけど、栄の地図はいただけないでしょうか。私たち、信じられないくらい方向音痴でして……」


地図を所望するセリナ。

異世界のあまり知らない土地を移動するとなると、地図は必需品だ。


「えぇ。分かりました。でも意外ですね、セリナさんは方向音痴という印象がありませんでした。」

「意外とすんごい方向音痴です。地図とかはミキが得意なので私たちは任せっきりなんですよねー。」


ユキミ、リコ、セリナの3人が方向音痴なので、ミキがいないと迷子コースになってしまう。


「ミキ……さん?」

「お昼に紹介する友達の1人です。可愛い子なんですけど、アホなんですよね〜。いつも力加減おかしいし。」

「そ、そうなんですか。」


(……?今のところはミキさんの方がリコさんとセリナさんよりしっかりしていそうだけど……)


「紫月さん、ウチはー?ウチもそんな印象ないですよね?」

「え?………………………正直印象通りです。」

「え!?酷い!」


紫月も言うようになってきた。

それだけ打ち解けてきたという証拠だろう。


「酷いも何も実際にリコ方向音痴じゃん。」

「う……うるさいなぁ!」


いつも通りの流れでリコとセリナがじゃれていると

「……」

紫月が襖をジッと見る。


「墨男、そこにいるでしょう。入りなさい。」

「失礼致します。」


紫月が襖の向こう側に声をかけると、食器の片付けのために客間を出ていた墨男が入ってきた。

手に何かの紙を持って。


「速いわね墨男。もう地図を持ってくるなんて。」

「使用人として当然のことです。」


墨男が持っていた紙は地図だった。

どうやってこの短時間で地図を持ってきたのか……


紫月が墨男から地図を受け取り、セリナに渡す。


「……なくさないでくださいね?」

渡してからの第一声があんまりだった。


「もちろん大事に扱いますよ……リコが……」

「え!?ウチが!?……あー……セリナ結構ガサツだもんな……仕方ない…」


こうして地図は最終的にリコの手に渡った。


「では出発の準備をしましょう。私は少し化粧をなおすだけなので……あと十分で支度できますが、おふたりはどうですか?」


確かに、少し口紅が落ちているが紫月のお化粧はバッチリだ。

昨日と同様の素晴らしい美少女。


「私とリコもそのくらいで大丈夫です。特に持ち物もないですから。」


リコもセリナも、身支度は紫月の使用人たちが全て整えてくれたので準備万端。

みてくれだけは良家の令嬢のようだ。


一同は解散し、支度へ。



数分後……



リコとセリナは少しだけ口紅を塗り直してもらい、玄関に行くために廊下に出る。


「お茶会すごく楽しみだけど、ここのご飯が美味しすぎて…つい食べすぎた……あれ?」

「どうしたのセリナ?」


急にセリナの足が止まった。


「ねえリコ……今日の朝ごはん全部食べきれたよね…多少は胃に優しいメニューだったけど、昨日の夜と同じくらいの量だったのに……」


ここでリコも気づく。


「うん……おかしい。いくら空腹でも…ウチらの世界でいう5〜6人前は余裕であったよね?朝からこの量は無理だよ。」


——2人は身体に起きた変化を、まだ受け入れられない。


いや、それよりも……


「今頃気づいた……もう少し早く気づかない?普通。」

「ウチらアホなんかな……」


自分たちの鈍さが何より衝撃だった...……








ーーーーーー



「くれぐれも、はしゃぎすぎないように。いいですか?」

「「はーい……」」


「リコさん、セリナさん。私はもう行きますね。また11時にここで会いましょう。」

「「はーい!」」


噴水広場から紫月と雪乃が馬車で去る。


天使が水瓶を掲げる白い大理石の噴水。その周りを囲むのは、レトロな赤レンガの建物と、洒落たテラス席を持つ見事な屋敷。

石畳の道は朝の光に濡れ、風に揺れた噴水の飛沫が虹を描いていた。


「また来ちゃったねぇここの噴水。2回目でもチョー立派な噴水!」

「ようやく雪乃さんから解放された……ウチことマークしすぎじゃない?」


馬車から降りて元気なセリナとお疲れ気味のリコ。



紫月宅からこの噴水広場まで馬車で20分。

そんなに乗ってはいないが、リコが疲れ気味なのも無理はない。

辿りつくまでかなり大変だったのだ……





〜ちょっと回想〜


まず、雪乃からの指導。

「食事をする場所であまり大声では話していけませんよ?」

「セリナ様。足を広げては、はしたないです。」

「リコ様、地図は丁寧に扱ってくださいね。」

「もし迷子になっても焦らないように。落ち着いて周りの人に道を聞いてください。」

etc……


20分間ずっとこの調子だった。


〜回想終わり〜


「リコが明らかに聞いてない顔になってたからでしょ。私はちゃんと「聞いています」って顔してたから。」

「くっそォずるいヤツめ。」


もちろんセリナも聞いていなかったが、聞いているフリはちゃんとしていた。

その結果、雪乃の指導がどんどんリコへ集中していったのだ。




「でもよくあの中でそんなフリができたね。めっちゃ馬車揺れてて怖かったじゃん。それどころじゃなかったよ。」

「そこは気合いよぉ。それに紫月さんが乗っている馬車だから安全ではあったはずだしね。」


そう、次に大変だったのは馬車の揺れだ。



〜またまたちょっと回想〜


馬車に乗って数分、紫月が

「……時間が危ないわ。近道で行ってください。」

こう御者に命令した。


すると

「かしこまりました。」

急に馬車が方向転換をし、すごくガタガタした道、急な傾斜、木でできた橋など危ない橋を何回も渡った。

2つの意味で。


「うわぁぁぁぁあああー!!」

「キャー!」

「馬車で騒いではいけません!」

「もう雪乃、賑やかでいいじゃないですか。」


紫月の言う通り、馬車の中はそれはそれは賑やか。

その中でも雪乃は指導をしてくるので恐ろしい。


〜回想終わり〜



「なんで墨男さんが同行者じゃなかったんだろ?紫月さんの傍には墨男さんってイメージだけど。というかボディガードでしょ?」

「それは確かに……色々あるんだよきっと。私らが考えても分からんよ。」


正直、付いてくる人は墨男の方が気楽だったと思う2人。

雪乃のことは断じて嫌いではないが、やや苦手なのである。


「それはさておき。紫月さんとの約束の11時、私らが最初に出てきたドアからリコがダッシュで元の世界に帰る。そしてユキミとミキを連れてくる。私は紫月さんに適当な言い訳をしてリコ達を待つ。OK?」


「OK。他にやる事は特にないよね?」


これからの流れは重要だ。

ちゃんと行動を合わせないと、また帰れないかもしれない。


「多分ない…うーん……あっっお金!」

「え、お金?ウチらの世界の?」


世界が違えば当然お金も違う。この世界には聖徳太子も諭吉も栄一もいない。

それなのに、セリナはなぜお金を必要とするのか。


「うん。これを見て。」

「……なにこれ?」


セリナの手には10円玉に似たコイン。表には銭、裏には藤が描かれている。


「私は元の世界から小銭入れをポッケに入れてた。1200円だったかな。それがこっちの世界ではこのコインが4枚に。これって1200円と同じ価値のコインに変わったってことじゃない?」


「確かに………あぁ…なるほど。これなら今日のお茶代は払えそうだね。紫月さんに立て替えてもらう必要がなくなる。さっすがセリナ〜。」


手をポンッとして納得するリコ。


「流石に1泊と2食をお世話になってお茶代もってのはねぇ?昨日、リコもお風呂で気にしてたじゃん。それに……」

「それに?」

「万が一だよ?今日も帰れなかった場合の……宿代はあった方が良さそう…。」

「……そだね。」


今日は絶対に帰る、とは言いきれないのが怖いところ。


「……それより、まだ時間あるし街探索しちゃおうぜ。リコ〜ナビ頼んだよ。」

「ウチに任せとけ!えーっと……よっし、あっちから行こう!」




こうして2人の迷子ルートへのカウントダウンが始まるのだった。








ーーーーーー




コンコンコン


「失礼致します。」


紫月は3回のノックをした後、目の前の西洋風のドアを開く。


「遅いぞ紫月。客人を待たせているではないか。」


ドアの先にいたのは紫月の父、紫十郎。

それと……


「まぁまぁ紫十郎さん。うちの息子もまだ来ていませんし、怒らないでください。」


彼は紫十郎の盟友、エドワード・ヴァレンタインだ。


「……いらっしゃっていないのですか?」


もう約束の時間だ。

なのにメインの来訪者はまだ来ていない。


「街を見てくると行って戻って来ないんですよ。全く……女性を待たせるなんて……。すいません、紫月さん。」


エドワードが眉間にシワを寄せる。

しかし、女性への気遣いを忘れないところが実にエレガントだ。


「いえ、私も来たばかりですし……」


正直、彼がいなくて少しほっとする紫月。


それは何故か……?



「……」





ーーーーーー




「ねぇ、セリナ。あの看板見て。“珈琲”って漢字で書いてあるけどなんて読むの?あっ!下に“Café 星灯”って英語も書いてある!」


「“ 珈琲”って書いてコーヒーだよ。ほんとだ……和洋折衷ってやつ? オシャレすぎる……!」


その頃の呑気な2人。

見えるもの全てに目を輝かせている。


「うちらの街より素敵だよね!ほら、あそこのパン屋も“サンドウヰッチ”って……ヰでイって読むの?」


「そうだよ。ヰタセクスアリスって本もあるじゃん。森鴎外の。」


「知らん!よく知ってるな。……にしても文字が普通に読めるのは不思議よね。」


リコの指摘は最もだ。

ここは異世界。偶然、言語も文字も元の世界と一緒などありえるのだろうか?


「分からないことは考えない。私らのモットーじゃん。そんなことよりも今はこの世界を満喫しないと!どこ見ても素敵だわぁ〜。」


セリナが感心しながら言葉をこぼす。

それでいいのか?と思う方もいるだろうが、これでいいのだ。


石畳の道を行くと、店先には焼きたてのパンや、季節の和菓子が並んでいた。

洋菓子店のショーウィンドウにはショートケーキやプリン、隣の和菓子屋には可愛らしい餅や練り切り。

どちらも丁寧にガラス越しに並べられていて、通りを歩く人々が笑顔で眺めていく。


「ねぇ、栄は和菓子も洋菓子もあるって紫月さんが言ってたよね? ってことは主流は和菓子なのかな?」


「多分そうだね。栄は商業都市だから西の大陸からの文化も多く入ってきてるって雪乃さんから聞いた。」


「えっ!ウチは聞いてないけど…でもなるほど……街が凄いわけだ!」


 リコは目を輝かせながらショーケースに顔を近づけた。

 その姿を見てセリナが小さく吹き出す。


「あれだけ疲れてたのに、元気になったじゃん。」

「いやぁ、美味しそうなもの見ると元気出るタイプなの!」


二人の笑い声が通りに響く。

その音に、近くの露店の店主が顔を上げた。


「そこの美しいお嬢さん方、観光かい? 今日は天気も良いし、港のほう行くといいよ!」


白い服を着た、典型的なハゲオヤジだ。


「港?すぐそこに海あるんですか?」

「リコ……潮の匂いがするじゃんよ……」

「え……」


セリナの指摘にリコが匂いを嗅ぐも、

「……?」

感じ取れなかったらしい。


「お、おうとも。ここをチョイと行けば汽船も見られるぞ!ってことで肉まんはどうだい?2個で1銭だよ。」


「え……あぁ。せっかくだし…いただきます。」

(図々しいハゲだな……)

セリナが思わず胸中でつぶやく。


(なんだこのハゲ。)

リコも同じことを考えていた。


そして小銭入れからコインを1つ取り出し、ハゲオヤジに渡す。


「毎度あり!はいっどうぞ」

「「おわっ!」」


店主から渡された肉まんは直径40cmほどの大きさがあった。


「……セリナ。こんなに大きいのに普通に食べられそうなんだけど……。」

「奇遇だねリコ。こんなカン〇ーパンダに出てくるような龍の戦士サイズの肉まん……普通に食べられるな。」


やはり体に異変がおきていることは間違いないようだ。

今日の朝食は茶漬けが土鍋で出てきたのだ。それを食べて1時間ちょっとしか経っていないのに、40cmの肉まんが食べられるはずがない。

通常ならば。


「「いただきまーす。」」


頑張れば歩きながら食べられそうだったので、適当な方向に食べながら進む。


(モグモグ……)

(モグモグ……)


 異世界のはずなのに、聞こえる音も匂いも、どこか現実と地続き。

 煤の匂い、焼けたパンの香り、遠くで鳴る汽笛。

 文明開化の真っ只中を歩いているようだった。


15分後……


肉まんをペロリと食べ終えたリコとセリナ。


「ねぇリコ、地図で港の場所見よう!」

「おけ! えーっと……この道をまっすぐ行って、二つ目を……」


 リコが指を差した先、道が三本に分かれていた。

「えっと、どっち?」

「……たぶん真ん中?」

「いや、右じゃない?」

「……え、どっち!?」


 結局二人は顔を見合わせ、同時に別方向へ歩き出した。


「いやいやいや!」

「いやいやいや!」



数分後……


「……セリナ、ここどこ?」

「……わかんない。ていうか、地図にこの通りが無さそうじゃない?」

「無い!?ってことは……」


細い路地は、行き止まりのように入り組んでいる。

干された洗濯物が風に揺れ、猫が塀の上であくびをした。


人の気配もまばらで、リコが気まずそうな顔で呟く。

「……迷ったか。」

「そうだね……」


いったい何のために地図を貰ったのか。

方向音痴の2人にかかれば、地図などただの絵にすぎない。


「どうしよう……もうそろそろ戻らなきゃいけないよ。」

「リコ、私たちじゃ考えたって道は分からないよ……」


2人が頭を抱えていたその瞬間、後ろから静かな声がした。


「お嬢さん方、少しよろしいですか?」


振り向くと――

背の高い美青年が立っていた。


月の光のような美しい金髪、青にも緑にも見える高貴な色の瞳。白いコートに礼装のようなスーツは長身がよく映える。甘い顔立ちだが気品があり、彼を見た者は男女問わず頬を赤く染めるだろう。


(わ……な、なにこの人……!王子様が現実にいた!?えぇ!?どうしようセリナ〜〜〜!)

(目、まっすぐ見られない……でも見たい……!!うぅ……チラ見ならイケるか?……いや眩し……)


「は……はい。」

返事をするためにリコが声を絞り出すが、彼があまりにイケメンなので、まるでプロポーズを受けた女性のような返事をしてしまう。



「あぁ、良かった。実は、道に迷ってしまいまして。……地図を落としてしまったようなんです。もしご存知でしたら、道を教えてくださいませんか?」


なんという運命。

このチャーミングな青年も道に迷っていたらしい。


「ひ、人助けの時間だねリコ!ね!ね!」

「はいはい落ち着け。鼻の下伸びてるぞセリナ。」


リコはため息をつき、持っていた地図を差し出す。


「実はウチらも迷子なんですけど、地図はあるんです。」


青年は目を丸くした。


「えっ……その地図、もしかして“この街の”ですか?」

「はい。この街の地図です。」

「こ、これを読んで迷子に……?」

「……そこは触れないでください。」


リコが分かりやすく落ち込むと、青年は慌てて笑みを和らげる。


「すいません。笑ったわけじゃなくて……その、よろしければ手にお持ちの地図を見せてくださると本当に助かります。」


するとセリナが胸に手を当て、ぱっと笑顔を咲かせた。

「もちろんです!困った時は助け合いですからね!」


その隣でリコはこう思った。

(こ、こいつ!イケメンの前だからっていい顔しやがって!ハゲオヤジの時と反応が全然違う!てか地図持ってるのウチだから!)


「ありがとうございます。では、拝見しても?」

「あ、はい。どうぞ。」


青年が微笑みながら地図を受け取る。

その笑顔、まるでバラのよう。

しなやかな指先が地図を滑るように動き、あっという間に現在地を割り出した。


「……なるほど。ここは中央通りから少し外れているようですね。あなた方の目的地は?」


「えっと……噴水広場です。」

「天使のデザインのあの噴水です。」


彼はふっと笑い、地図を返した。

その笑顔に、セリナの顔が一瞬で赤くなる。


「でしたら地図を見せてくださったお返しに、僕がご案内します。」


「えっ!? い、いえそんな……!」

「い、いいんですか!?」

「セリナ……」


食い気味の親友にドン引いてしまうリコ。

しかし、肝心の本人は気づいていない。


「僕も同じ方向です。一緒に行きましょう」


そう言って丁寧にお辞儀するイケメン。

彼の動きは恐ろしく自然で、完璧な紳士の所作だった。


リコとセリナは目を見合わせ、こくりと頷く。

「「どこまでもついて行きます。」」


「それは少し困っちゃうな……」

優しい青年は眉を下げて軽く笑い、3人は並んで歩き出した。


「あの……道案内、ありがとうございます。えっと……その……」


道中の話題を作ろうとするセリナだが、イケメンを前に頭が回らない。

いざ話そうとすると何を話せばいいのか分からず、タジタジになってしまう。


そんな様子を見て、青年がふっと微笑んだ。


「……ロメオと申します。」

「……え?」


セリナが顔を上げると、青緑色の宝石と目が合った。


「僕はロメオと申します。よろしければ、お嬢様方のお名前を聞いても?」


優雅な口調と所作に、通りすがる人々まで見惚れて立ち止まる。

明らかに、気を遣って話題を作ってくれたのだと分かった。


「ウチはリコです!こっちは……ってえぇ!?セリナ!?」


リコが隣を見ると、セリナは顔を真っ赤にして固まっていた。


「な、名前っ!? セリナです! はいっ! せ、セリナですっ!」

「ああ、リコさんとセリナさんですね。素敵な名前だ。」

「~~~~っ!」

セリナは恥ずかしさで爆発寸前。

リコは呆れたようにため息をついた。


「もう……セリナ、顔ニヤけすぎ!」

「だ、だって……あんな優しく微笑まれたら……!」


ロメオはそんな2人のやり取りを穏やかに見守りながら、周囲の街並みに目を向けて口を開く。


「この街は、見れば見るほど面白いですね。東と西の文化が絶妙に混ざり合っている。」


「ですよね。和菓子も洋菓子もご飯系も充実してて最高です。たまに見えるガラス細工も綺麗ですね〜。」


周りには

食べ物屋、食べ物屋、食べ物屋、雑貨屋、食べ物屋、着物屋、食べ物屋、雑貨屋。


時々ある雑貨屋の入口には必ずガラス細工が飾ってある。藤やバラをモチーフにした作品が多い。


「リコさんもそう思いますか。僕もこの街が大好きです。観光がてら街歩きをした甲斐がありました。」

「それで迷子になっちゃった訳ですか。」

「あはは……そこを突かれると痛いですが……」


どこか楽しそうに、けれど品よく笑うロメオ。


(カッコイイなロメオさん。顔も整ってて、中身も優しい……ん、あれ?)

リコがロメオに好印象を抱いた時、あることに気づく。


「……」


セリナがやけに静かだ。

いつも1番うるさいのに。会話は割って入るタイプなのに。


「セリナ?」

心配になってリコがセリナをつつくと、


「……なんかバテてる女性が多くない?」

「え?」

セリナが辺りをキョロキョロ見る。


「あ、本当だ。」

リコも辺りを見てみると、確かにへたり込んでいる女性が大勢見える。


「熱中症……?でも…湿気は少しあるけど、結構涼しいと思うんだけど…。ロメオさん、暑いですか?」


自分たちは涼しくても、異世界人には暑く感じるのかもしれない。


そう考えたセリナがロメオに質問したのだが……


「……アハハ」

彼は曖昧に笑った。

まるで原因はロメオにあるかのような笑い方だ。


「「??」」


リコとセリナが疑惑の目を向けると、ロメオは観念して語りだした。


「実は……地図をなくした僕が道を聞いた女性たちなんです…。困っていたら彼女たちから声をかけてくれて……道を聞いただけなのに何故かみんなへたり込んでしまったという訳でして……」


「「oh…」」


なんて罪な男なのだろう。

人並み外れた美貌は、罪なのだ。


「ロメオさん、なんか…すいません。それと私…もう1つ余計なことに気づきましてね……。」

「なんでしょう……」

「男の人も……ちょくちょく混じってますけど……」

「……同じです。」


その罪深さに、セリナは心の中でため息をつく。

(誰も悪くないんだ……誰も悪くないんだ……誰も悪くないんだ……)


ため息をついたのはリコも同様だった。

(アーメン。)


「あ……こうしているうちに、着きますよ。」


ロメオが指さす方向に、視界がひらける。


「おぉー!」

「戻れたー!!」


白い天使像が水を撒き散らし、虹が揺らめく噴水広場が現れた。


「ここが、天使の噴水広場です。」

「ロメオさん……!ウチらを導いてくれてありがとうございます!やったねセリナ!!」

「ロメオさん、ありがとうございます!やったねリコ!!」


ロメオは2人の反応に小さく笑みを浮かべる。


「いえいえ。お二人のおかげで辿り着けました。こちらこそ、ありがとうございます。」

「あれ、ロメオさんの目的地は……?」


リコが地図を見せようとすると、ロメオが首を振る。


「僕の目的地もこの噴水の近くなので、もう自力で行けます。すいませんが、人を待たせているので僕はこれで失礼しますね。」


「なら良かったです。では、次に迷ったときはまた助け合いましょう。ウチら迷子仲間で!」

「意外とすぐに出会うかもしれませんね?お約束通りならですが。」


「僕もまた会えるような気がしています。次、お会いした時には改めてお礼をさせてください。それでは、またどこかで!」


軽く頭を下げて別れを告げるロメオ。

陽光の中へ溶けるように歩き去るその背に、リコはぽつりと呟いた。


「……ほんとに、王子様みたいだったね。」

「うん。ロメオさんの絵、あったら買うかも。」




“ またどこかで”


この言葉が現実になる日は来るだろうか?




きっと来るだろう……





なぜなら……彼は……



ーーーーーー


コンコンコン


部屋に鳴る3回のノック。


「あのバカ者め……ようやく来たのか。…早く入りなさい!」

部屋のドアに向かって呼びかけるエドワード。


「……失礼します。すいません…街で迷ってしまいまして。遅刻してしまいました。」

「いえ……お待ちしておりました……どうぞ座ってください。」


紫月が自身の向かいの席に来訪者を座らせる。


「お待たせして申し訳ございません、紫月さん。」


「お気になさらないでください……ロメオさん。」


紫月の目の前にいる青年、ロメオ。

彼こそが紫月の……


西の大陸の統括国である、バレンティア王国の第二王子


ロメオ・ヴァレンタイン


「ここはロメオさんが初めて来た土地のはずですが……大丈夫でしたか?」

「はい。親切で少し変わった、ある二人組が助けてくれました。ご心配、ありがとうございます。」



(親切で少し変わった二人組……?まさか……)

少し心当たりのある紫月。


(……そんな訳ないわね。)

しかし、そんな偶然は無いだろうと考え直した。


「ロメオが来たところで本格的に始めましょうか、紫十郎さん。」

「あぁ。もう詳細を決めていかねばなるまい。紫月とロメオの……」




(あぁ……やめて……やめて……)










「婚約話を」

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― 新着の感想 ―
 今回のお話もとても面白かったです!更新頻度が早くて助かります〜^^ またまたアホさ前回のリコとセリナでしたが、いつしっかりしていると思われるようになるのでしょうね笑  紫月さんの気持ちを考えると胸が…
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