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お昼の時間です  作者: ギーク
第一の世界
22/25

パワーアップ


「紫月たちを救い、幸せにする覚悟が……綺麗事ではない、本当の“ 覚悟”が君たちにできるかどうか。それを、私に教えてくれ。」


佐々木さんの言葉に、三人は目を見合わせた。


「「「……」」」


誰も、すぐに口を開けなかった。


しかし……


「佐々木さん、私の記憶もみんなに見せることはできますか?」


セリナは違った。


「私の……紫月さんやロメオやアズールと話した記憶を。それを見せた後に、もう一度判断を聞いてください。」


「……分かった。」



また、あの酔うような感覚に襲われる四人。


景色が変わるなか、佐々木さんの声が響く。


「セリナちゃんの記憶、私も見せてもらうよ。」








ーーーーーー





「ロメオ……アズールさん……セリナ、こんな会話をしてたんだね。」


映像が終わると、リコがポツリと呟いた。


佐々木さんはどこか複雑そうな表情だったが、すぐに顔を引き締めて口を開く。


「すぐに結論は出せないかもしれないけど……それでも——」

「ウチ、やろうかな。」


「……え?」


あまりにもリコの返答が速かったので、佐々木さんは目を瞬かせる。

もっと迷い、もっと悩むものだと思っていたからだ。


「覚悟、とかはよく分からないけどさ。」


リコは肩をすくめ、少しだけ視線を逸らした。


「紫月さんもロメっちもウチのダチ公だからね。友達が苦しんでるなら、なんとかしたいもんでしょ。それに、愛しの紫水君が寂しがってるからウチの愛で包んであげたい。」


「なんじゃそりゃ。全然懐かれてないくせに。」


セリナが呆れたように笑う。


「これからだよ、これから。紫水君はウチの将来の旦那候補だから♡」


「さすがですわー、リコさん。」


セリナは佐々木さんの方を向いた。


「もちろんですが、私も助けたいです。」


ひらりと手を振りながら言う。


「みんな笑えるようになって欲しいですから。それに、もう誰かの悲しんでる顔を見るのはゴメンです。」


口調は軽いが、その奥にある感情が軽くないことは、全員に伝わった。


「……ミキもやる。」


「え、ミキも?」


驚いて横を見るリコ。


ミキは小さく頷いた。


「うん。リコとセリナがやるなら、何とかなりそうな気がしてきた。ロメオの想いも知っちゃったし……それに、ミキは恋する人の味方だから、あの三角関係がどうなるのか見過ごせない。」


「なんじゃそりゃー。」


再び呆れるセリナ。

だが、三人は自然に笑いあった。


「え……みんな、ほんとに……?」


ただ一人、ユキミはちっとも笑えなかった。


「「「うん。」」」


なんの抵抗もなく頷く三人。


それを見て、ユキミは視線を落とした。


「そ…それなら……あたしも……」


「「「えぇ!?」」」


店内に、揃った驚きの声が響く。


「いやいや、無理しないで!」

「ユッキー怯えてるでしょ?」

「思ってることがあるなら言って!」


詰め寄るミキ、リコ、セリナ。


「いや……まぁ……うん……大丈夫。」


無理に作ったような笑顔。


その様子を見て、佐々木さんが口を開いた。


「みんな、そんなにあっさり決めていいのかい?」


それは、心配するような顔で。


「正直……もっと悩むと思っていたよ。君たちは、かなり重い現実を見せられたはずだからね。」


佐々木さんがそう言うのも無理はない。

四人は残酷な映像を見せられ、かなり精神にきたはずだからだ。


それに答えたのはリコだった。


「そりゃ……映像は見てて辛かったですよ。みんな苦しんでるのも、嫌ってほど分かりました。でも……」


「うん。」


「ウチらに難しいことを深く考えろ、って言うだけ無駄ですよ。だってウチら、アホなんですから。」


佐々木さんは目を見開く。

その後、一つため息をついた。


「まぁ……君たちらしい、といえばらしいか。」


そして佐々木さんは視線をユキミへと向ける。


「ユキミちゃん、私と少し話そう。」


「……はい。」


「それと……申し訳ないけど、三人は席を外してくれるかな?」


セリナが頷く。


「分かりました。二階で大丈夫ですか?」


「うん。終わったら呼ぶよ。」


「はーい。」


階段へ向かう三人。


「ユッキー、大丈夫かな?」

「佐々木さんなら大丈夫でしょ。」


リコとミキのそんな声を背に、一階にはユキミと佐々木さんだけが残った。






三人の姿が、階段の向こうへ完全に消えたのを確認してから。


佐々木さんは、ふっと息を吐いた。


「全く……驚かされるよ。」


どこか呆れたようで、けれど楽しそうでもある声音。


「普通は、もっと悩むものじゃない?」


「……そこは。」


ユキミは小さく肩をすくめる。


「みんな、普通とはちょっと違いますから。」


二人は、苦笑いを交わした。


「あぁ……そうだね。」


佐々木さんはそう言うと、ふと思い出したように服のポケットを探り始めた。


「……?」


首を傾げるユキミ。


やがて佐々木さんは、小さなスイッチのようなものを取り出す。

指で収まるほどの、ボタンの付いた物体。


佐々木さんは、それを見せるように軽く掲げた。


「これはね。」


にこり、と微笑む。


「君たちが、もう少し先の世界で見つけるかもしれない物だよ。」


「え……?」


ユキミが問い返す間もなく。


ポチッ。


乾いた音と共に、ボタンが押された。


次の瞬間。


半透明の膜のようなものが、ふわりと広がり、二人を包み込む。


「えぇっ!?」


思わず声を上げるユキミ。


「安心して。」


佐々木さんは、変わらず穏やかな表情のままだ。


「この中での会話は、外には一切漏れない。誰にも聞かれず、邪魔もされない。」


「え……えぇ……?」


状況が飲み込めず、視線を彷徨わせるユキミ。


しかし、佐々木さんは構わず言葉を続けた。


「さて……ユキミちゃん。」


一歩、距離を詰める。


「君は、あの三人よりも“恐れ”を強く持っている。」


「……!」


「慎重、とは少し違う。もっと根の深い……心が拒否している感じだね。」


「え……??」


言葉に詰まりながら、ユキミは小さく頷いた。


「…………は、はい……。」


佐々木さんは、そっとユキミの頭に手を置いた。


「え……?」


突然の感触に、ユキミは体をこわばらせる。


「ど、どうして頭に……?」


佐々木さんは、優しいまま微笑んでいた。


「私が、この試練への“ 恐れ”を取り除いてあげる。大丈夫、痛くないから。」


「え……? な、何を……」


不安が、急速に胸を満たす。


「ここで怖気づかれては困るんだ。」


その声だけが、少し低くなった。


「その恐怖は俺がもらう。お前たちに、諦めてもらうわけにはいかないからな。」


「や……やめ……!」


逃げようとするユキミ。


「大丈夫だ。」


佐々木さんは、逃がさない。


「すぐ終わるし、目が覚めたら……何も覚えていない。」


「……!!」


視界が、急速に暗くなる。


ユキミはそのまま意識を失い、目の前の机に突っ伏した。


佐々木さんは、倒れたユキミを静かに見下ろす。


「……さて。」


独り言のように呟く。


「ミキは……まぁ、いいか。最終的に“恐怖”が見えなかったし。」









ーーーーーー









「ごめん、心配させて。あたしもやることにしたよ。」


三人が一階へ戻ると、ユキミが軽く頭を下げた。


「え、大丈夫なん?」


真っ先に声を上げたのはリコだった。


「うん。なんか、不思議と怖くなくなった!」


「ユッキーがそう言うなんて。佐々木さんと、どんな話したの?」


探るような視線が佐々木さんに向けられる。


「それは内緒だよ。」


そう言って、佐々木さんは片目を閉じる。


「……っ!」


その仕草だけで、セリナが短くうめいた。

佐々木さんがイケメンすぎたからだ。


「どうしたんだい?」


心底不思議そうに首を傾げる佐々木さん。


無自覚に人を刺すタイプだ、とリコは思った。

罪なお人である。


「そういえば……」


佐々木さんは話題を切り替えるように、穏やかに言った。


「異世界に行って、何か疑問は出なかったかい?」


「あー、ありますあります!」


 リコはそう言って、着ている赤いワンピースの裾をつまんだ。


「ウチら、向こうじゃスウェットが着物になったじゃないですか。でも逆に、あっちの服はこっちに来ても変わらないの、なんでです?」


「いい質問だね。」


佐々木さんは満足そうに微笑んだ。


「君たちは、スウェットで異世界に行ったんだったね?」


「はい。」


「まず異世界のルールとして、その世界にないものは存在ができず、その世界に合うように変化するんだ。スウェットはあの世界にないから、近い概念の“着物”に変化したんだ。」


「じゃあ、」


リコは頷く。


「着物とかワンピースは、ウチらの世界にもあるから変わらなかったんですか?」


「その通り。」



「あ、そういえば……」

ミキが思い出したように言う。


「お金も変わってたよね。」


「うん。通貨も同じだよ。向こうでは向こうの価値体系に置き換えられていた。今はもう戻っているはずだけど。」


リコが確認のため巾着を開くと、見慣れた諭吉がそこにあった。


「「「「へぇ〜〜」」」」


四人はそれぞれ、諭吉を覗き込みながら声を揃える。


その時、セリナがそっと手を挙げた。


「あの、私からもいいですか?」


「どうぞ。」


佐々木さんは優しく促す。


「異世界に行ってから、やけにお腹が空くんです。」


少し言いにくそうにしながらも、セリナは続けた。


「それって……私たち自身もあの世界では存在しないから、別のものに変わってるってことじゃないですか?」


一瞬、佐々木さんの目が見開かれる。


「さすが、鋭いね。当たってるよ。」


感心したように頷いた後、彼はゆっくりと視線をずらした。


そして、何気ない動作で――

店の奥にある、トイレのドアノブを指さす。


「ほら見て、あのドアノブ。ヒビが入っていると思わない?」


 

「「「「んん?」」」」


言われてから改めて見ると、確かに金属の持ち手部分に、白い細い線が走っているのが分かる。



セリナが半信半疑のまま近づき、屈んで覗き込んだ。


「あぁ!! 結構割れてる!!」


 指先で軽く触れた瞬間、彼女は思わず声を上げる。


「うぉっ!……ツンってしたら、取れそうですわ……」


「それはね、」


 穏やかな声が背後から落ちた。


「ミキちゃんの仕業だよ。」


「え!?」


間の抜けた声を上げたミキに、三人の視線が一斉に集まる。


ジトーっ、と。

紛れもない疑いの目。


「ち、ちが……え……?」


戸惑うミキをよそに、佐々木さんは淡々と続けた。


「これは、君たちの肉体が変化している証拠だ。」


「どういうことですか!」


ミキは一歩踏み出し、食い入るように問いかける。


佐々木さんは少し考えるように顎に手を当て、それから首を振った。


「うーん……説明するより、実際に見てもらった方がいいかな。」


そう言って、にこりと笑う。


「東平屋公園に行こう。」


「東平屋公園?」


ユキミが首を傾げる。


「どうして、あそこなんですか?」


「近くて、広くて、人があまり来ない。」


佐々木さんは指を折りながら理由を並べる。


「これからやることには、ちょうどいい場所だから。」


「……え?」


一瞬の間。


「まぁ……いいですけど……」


 ミキが恐る恐る頷く。


その様子を確認すると、佐々木さんは四人の服装を上から下まで見渡した。


「……その服、綺麗すぎるね」


困ったように笑ってから言う。


「動きやすい服に着替えておいで。汚れたりはしないと思うけど……念のためだ。」


「「「「は、はーい……」」」」


理由は分からない。

けれど、断る理由も見つからなかった。





四人は互いに顔を見合わせ、不思議そうな表情のまま二階へと向かった。










ーーーーーー











ここは東平屋公園。

森と公園が一体となった、かなり広くて大きい公園だ。


綺麗な場所だが、公園ができて早々に子どもがスズメバチに刺されてしまったので、人がいることはほぼない。



風に揺れる木々の音だけが、やけに大きく聞こえた。


並んで立つ四人は、全員ジャージ姿だ。


ユキミはオレンジ。

ミキはピンク。

リコは緑。

セリナは青。


信号機のように色とりどりで、自然の中では妙に浮いている。


「結構目立つね、カラフルで。」


佐々木さんが苦笑い混じりに言う。


「ミキたちのメンバーカラーと同じ色のジャージなんです。勘弁してつかーさい。」


肩をすくめるミキに、佐々木さんは軽く頷いた。


「まぁいいか。じゃあ、みんな。この木を見て。」


指差された先には、まっすぐ天に伸びる大木があった。

目測でも十メートルはありそうな高さだ。


「この木のてっぺんの高さを目指して、その場でジャンプしてほしい。」


一瞬の沈黙。


「まずは……リコちゃん。」


「あ、ウチですか? 分かりました。」


リコは特に深く考えた様子もなく、木の根元へと近づく。

軽く屈伸し、勢いよく跳んだ。


次の瞬間。


「うわぁぁぁぁあああああ!!!」


「「「リコォオオオオオオ!!」」」


リコの身体は、木のてっぺんをあっさり超え、さらに上へと舞い上がった。

十五メートル。いや、それ以上かもしれない。


そして――


スタッ。


信じられないほど静かな音で、地面に降り立つ。


四人の視線が、同時に佐々木さんへと突き刺さった。


「これが、君たちの肉体の変化だよ。」


佐々木さんは、あくまで穏やかに言った。


「筋力、スタミナ、スピード、食欲。どれも数倍から、数十倍に跳ね上がっている」


「「「「えぇ〜〜〜!?!?」」」」


驚愕の声が、公園に木霊する。


「異世界にないものは存在できない。その世界に合わせて、変化する。」


 佐々木さんは続ける。


「ただし、このルールには例外がある。魂、人格、遺伝子……そういう“強い要素”は変わらない」


「ありゃ、肉体は入ってないんですね……」


セリナが眉をひそめる。


「そうなんだ。寝不足で体調を崩したり、お菓子を食べすぎて肌が荒れたりするだろう? 肉体は些細なことで変わる。だから“強い要素”には含まれない」


「確かに……ラーメン食べすぎると太っちゃう……」


ユキミの呟きに、


「ユキミ、触れるとこはそこじゃない」


ミキが即座に突っ込む。


「そこ、静かにしなさーい」


セリナがぴしっと制した。


「第一の世界に存在しない君たちは、あの世界に合わせて肉体だけが変化した。その結果、身体能力が上がったんだ」


「世界に合わせて、ってことは……」


セリナは顎に手を当て、考え込む。


「あの世界の人たちは、これくらいの身体能力が普通ってことですか?」


「うん。食べ物のサイズ、どこに行ってもおかしかっただろう?あれが普通なんだよ。」


「「「「ひぇ〜〜……」」」」


四人は思わず、同時に息を漏らした。


「よし、説明はこのくらいで」


佐々木さんは手を叩く。


「せっかく公園に来たんだ。色々、体を動かしてみなよ」


四人はそれぞれ、自分の手や足を見つめる。

今までと同じはずなのに、まるで別物のように感じられた。


「よし!!」


ミキがにやりと笑う。


「体力測定、するか!!」


「「「お〜〜!!」」」


こうして、思いもよらぬ場所で、

高校生ぶりの体力測定が始まったのだった。









ーーーーーーー









「測定は私がやるね。」


「「「「いぇあぁぁぁあ!!!」」」」





〜第一種目 100m走〜


「第一走者、リコさん。頑張ってください。」

ユキミが放送部風にリコにエールを送る。


「きゃ、きゃー!リコ先輩頑張って♡♡」

セリナはリコに憧れる後輩風だ。


ピストル係はミキ、測定者は佐々木さん。


「位置について、よーい!!」


パン!!


リコが華麗なフォームで走る。



「リコさん、速いです。」

「きゃー!リコ先輩カッコイイー!!」


ユキミとセリナが応援。






そして……


「おぉ、リコゴール!!」


ミキがゴールしたリコに拍手をした。


「せっかくだし、何秒か聞いてやろうぜ。」


「「うん!」」


セリナの提案に、三人は走ってリコの元へ向かう。


「「「何秒だったー?」」」



その声に反応し、リコが振り向く。が……


「や、やややヤバい!!」


顔が引きつっている。


すると、佐々木さんが代わりに教えてくれた。


「リコちゃんはね……」






〜第二種目 ボール投げ〜



「次はボール投げだね。」


佐々木さんがそう言いながら差し出したのは、

大きく艶のある、見慣れた球体だった。


——ボーリング玉である。


セリナは思わず言葉を詰まらせた。

「え、それって……」


ユキミが恐る恐る覗き込み、指先で表面をなぞる。


「ツルってしてて、投げづらそう。」


「ユッキー、そこじゃない。」


即座にリコが突っ込むと、

ミキも我慢できずに声を上げた。


「玉そのものの問題だろ!!」


四人の視線が一斉に佐々木さんへ向かう。

だが当の本人は、困った様子もなく首を傾げるだけだった。


「大丈夫だよ。今の君たちなら、普通のボールと大差ない。」


「「「「えぇ……」」」」


誰も信じていない。

その空気を理解したうえで、佐々木さんは測定位置を指さした。


「一人ずつ、投げてみようか。」


穏やかな声とは裏腹に、逃げ道は用意されていなかった……





〜第三種目 シャトルラン〜




ドレミファソラシド〜 ドーン


95回ドシラソファミレド〜



シャトルランはセリナの得意種目。

本来なら、この回数ではセリナのみが走っているはずだが……



「みんな全然疲れないじゃん。」


「「「そっちこそ〜」」」



四人はまだ並走していた。






〜第四種目 立ち幅跳び〜



「確かあたしは……前は130cmだったな。」


ユキミがシミジミと、目の前の開けた土地を見つめる。



「ユキミー!がんばー!」

「ユッキー!ファイト!」

「コケないようになー!」


ミキ、リコ、セリナは少し離れたところから応援。



「よーし……」


ユキミが助走をつけ、


「やー!」


跳んだ。



「「「おぉーー!!」」」


三人の声より、


「ぎゃぁぁぁあああああああ!!」


ユキミの叫び声が木々に響く。


そして……


「わぁぁああああああああ!!!……べフゥ!!!」


ユキミは顔から地面へと突っ込んだのだった。






〜最終種目 握力〜



「握力計はこれを使って。これなら上限なく計測できるから。」


佐々木さんが青い握力計をミキへ手渡す。



「頑張ります!………ぐぉおおおおおおおおおお!!」


ミキは受け取ると、全然可愛くない声で力んだ。



「ミ、ミキちゃん……」

「いつもゴリラなのに……」

「いったい……何キロになってしまうんだ……」


固唾を飲んで見守るユキミ、リコ、セリナ。



ピピピッ


「えーっと、結果は……」










ーーーーーー









佐々木さんは、軽く手を叩いた。


「みんな、お疲れ様。」


「「「「疲れてないでーす。」」」」


声を揃えて即答する四人。

実際、その顔に疲労の色は一切なかった。


息も乱れていない。

汗すらほとんどかいていない。


ミキが腕を回しながら首を傾げる。


「シャトルランとかさ、最高記録とっくに越してたのに……」


「ウチも〜。」

リコが気の抜けた声で続ける。


「途中で飽きてやめたし。」


「「ね〜。」」


二人は顔を見合わせ、同時に頷いた。



「ちなみに、まだ体の変化は途中だから今後も記録が伸びる可能性は大だよ。」


佐々木さんがサラッと恐ろしいことを言う。





「…………んん?」


その言葉にセリナは反応。

そして一歩前に出て、控えめに手を挙げた。


「あの……佐々木さん。ひとつ、気になったんですけど……」


「ん?どうしたんだい。」


首を傾げたまま、セリナは言った。


「どうして私たち……この世界にいるのに、第一の世界の体質のままなんですか?」


「あ……確かに。」

ユキミも頷く。

「普通じゃ、ありえない記録だったよね。」


「あぁ。」


佐々木さんは、今思い出したと言わんばかりの顔をした。


「それはね。君たちの“肉体”が、ルールの例外になったからだよ。」


「例外……ですか?」


「うん。」


佐々木さんは、穏やかな口調で続ける。


「あの世界の人間は、力だけじゃない。病気や毒に対する耐性も、非常に高い。唯一、“肉体”そのものが“強い要素”になる……かなり特別な世界なんだ。」


リコが眉をひそめる。


「でもさ。セリナ、薬かなんかで気を失ってなかった?それに、映像で黒の男の子が……お母さん、病気だって……」


「あれはね。」


佐々木さんは、あっさりと言った。


「向こうの毒や薬、菌の力が、それだけ強いということだよ。セリナちゃんに使われた薬は、この世界ならゾウでも一瞬で倒れるほどの物なんだ。」


「……ゾウが?」


「しかも、二度と起きない。」


「ひぇ……。」


セリナの顔色が、さっと青くなる。


佐々木さんは小さく笑った。


「でもね。その薬を、セリナちゃんの体は数時間で分解できた。それだけ第一の世界の肉体は強いということさ。」


「「「「へぇ〜〜……!」」」」


感心した声が重なった、その直後。


ぐぅぅうううううう。


妙に大きな音が、公園に響いた。


「「「「……」」」」


犯人は、四人全員だった。


互いの顔を見て同時に俯く。


それを佐々木さんが、くすりと笑った。


「じゃあ……お昼ご飯にしようか。私もお腹が減った。」


「賛成!」

ミキが勢いよく手を挙げる。


「この近く、ファミレスあったよね!」


「あるある。最近できたとこね。」

ユキミが頷く。



「いいねー。佐々木さん、一緒に行きません?」


リコが佐々木さんを見上げる。




「……!」


佐々木さんは、一瞬だけ言葉を失った。


固まったまま目を見開いている。


「……?佐々木さん?」


リコが不思議そうに顔を覗き込むと、佐々木さんはハッと我に返った。


「ファミレス、か……。」


少し間を置いて、柔らかく笑う。


「うん。行こうか。」


「え、嬉しい!」

セリナが弾んだ声を上げる。

「佐々木さんと、お店以外で初めてのご飯!」


きゃあきゃあと騒ぎながら、進路を変えて歩き出す四人。


その背中を、佐々木さんは静かに見つめていた。


「……」


そして、誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。


「……みんなとファミレス、か。」


懐かしむように、ほんの少しだけ目を細める。









「……久しぶりだな。」


そう呟いてから、佐々木さんもまた、彼女たちの後を追って歩き出した。

体力測定 結果一覧


100m走

・リコ 1.0秒

・ミキ 1.02秒

・セリナ 1.5秒

・ユキミ 2.0秒


ボール投げ(ボーリング玉)

・リコ 約180m

・ミキ 約190m

・セリナ 約110m

・ユキミ 約120m


シャトルラン

・四人全員 200回

(飽きて自主的に終了)


立ち幅跳び

・リコ 約12m

・ミキ 約13m

・セリナ 約10m

・ユキミ 約8m(着地失敗)


握力

・リコ 200キロ

・ミキ 640キロ(ゴリラ超えた)

・セリナ 240キロ

・ユキミ 180キロ


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― 新着の感想 ―
今回もとても面白かったです!みんな化け物級に体が進化していてとても面白かったです。次回のお話もとても楽しみにしています。ちなみに握力はユキミさんの方が強いですよ!
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