再開
太陽が水にキラキラと映る美しい噴水。
その周りで雑談を楽しむ女性たち。
彼女らは暑いのか、ずっと扇子で顔に風を送っている。
「セリナ〜いつまで腑抜けた顔でいるの?」
それはリコも例外ではない。
ただ、彼女の場合は事情が少し違う。
「顔の火照りがとれない……もっと頑張ってよ〜リコ〜風をもっとぉ〜」
リコは自分にではなく、セリナに風を送っていた。
扇子は持っていないので、手を一生懸命パタパタしている。
「……あと5分ちょいで元の世界に行けるんだよ?もうちょっと危機感持ったら?」
「そんなこと言っても、あと5分ちょいで出来ることは特にないし……私らは下手に動かない方がいいし、残りの時間はのんびり過ごそうよ。」
「それはそうかもだけど、ウチはもう疲れたからパタパタするの辞めるからね!ロメオさんがイケメンすぎてセリナが熱出したって佐々木さんにチクってやる!!」
バシッとセリナの肩を叩くリコ。
ちょっとした仕返しだ。
「イテ!」
ずっとリコをこき使ってたセリナは甘んじて仕返しを受けるが、受けた後に「解せぬ」と言いたげな顔になった。
「……ずっとパタパタさせてたのはごめん。でもさ?周りを見てよリコ。ロメオさんで熱が出たのは私だけじゃないよ?扇子でパタパタしてる女性陣みんなだから。」
そう、皆が顔を暑そうにしているのはロメオの仕業なのだ。
その証拠にあちこちから聞こえる話題が、
「先ほどまでいらしたあの殿方……お名前はなんというのかしら。」
「本当に美しい方でしたわ!」
「あんなに綺麗な瞳に見つめられるなら私、死んだっていいわ。」
「実はワタクシ、あの男性が触れていた紙を持っていますの。近くを歩いていたのでつい……」
「彼と一緒にいたあの二人、何者かしら?身分は高いようだけれど……」
「今までで見た男性の中で、彼より美しい男性はいなかったわ。」
こんな感じである。
「確かに。じゃあ熱は仕方ないな…………ん?途中で聞こえた“ あの男性が触れていた紙”って……ロメオさんがなくした地図のことじゃない?」
「犯人は意外と近くに……大変だね。イケメンって。」
行き過ぎた美貌は人をダメにする、ということだろう。
「そうだねぇ。…彼女でもいれば狙われないんじゃない?……うーん……ロメオさんにつり合うのは紫月さんぐらいな気がする。」
「おっ私も同じこと考えてたよ。紫月さん、今日のおめかし可愛かったし、美形同士の二人で並んで歩いてみて欲しいわ。」
モクモクモクっと想像を膨らませるリコとセリナ。
今日の紫月は朝食後、髪をハーフアップにしていた。髪には愛らしい青紫の紫陽花の飾り。
うん、可愛い。
その隣にロメオ……
「……罪深すぎない?」
「気が合うねリコ。同じことを思ったよ。」
「ちょっとロメオさんを墨男さんに変えてみるね。」
ロメオほどではないが、イケメンと言っても差し支えない墨男。
切れ長の目と無駄のない精悍な顔立ちが彼の特徴だ。
いつも紫月の影にいるイメージの墨男を横に並べてみると……
「これはこれで……」
「リコォ、本当に気が合うね。」
「いぇーい。ロメオさんも墨男さんも違う良さがあるよね。」
例えるなら華やかなロメオはバラ、洗礼された墨男は磨かれた日本刀。
どちらが紫月の隣にいてもしっくりくる。
だが……
「でもさ、私らはイケメン二人で迷うけど…紫月さんは決めちゃってるんだよね。……どうにかしてくっ付けられないかな。」
「うん……墨男さん次第な気がする。墨男さんの行動次第で紫月さんも……鼻じゃなくて、ちゃんと口で笑えるように……」
「……」
「……」
しん、と一瞬の静寂。
「……あ」
二人で考えにふけっていると、リコがあることに気づく。
「……もう1分前だ。扉の前に移動するよ。」
「うん。11時ギリギリまで準備体操でもしときな。」
「紫月さんは……見当たらないね。」
「来たら言い訳しとくし気にせんでいいよ。行ってら!」
「おう!いっちょ走ってくる!」
手を振りながら、リコはこの世界に来た入口のドア前にスタンバイ。
何のためか草履を脱いだ。
セリナはその背中を見送りながら、小さく笑う。
「……ミキが暴れなきゃいいけど。」
ーーーーーー
静まり返った店内。
普段なら焼き菓子の甘い香りと紅茶の香ばしい香りが漂うこの空間も、今は張りつめている。
テーブルの上には、ポットと四人分のカップ。
けれど椅子に座っているのはミキとユキミの二人だけだった。
「……あと一分。」
「うん。」
ユキミは膝の上でぎゅっと拳を握る。
その隣でミキは、大きめのバッグの中身を何度も確認していた。
包帯、薬、乾いたタオル、飲み水、そして少しの食料。
まるで“救助に行く”準備のようだ。
「……リコちゃん……セリナ……無事でいて…」
「……あの二人のことだから……意外と…ケロッとしてるかもね…。」
ユキミの声が震える。
ミキはそっと彼女の背中に手を添えた。
「……大丈夫。あの二人が無事って、信じよう。」
「……うん。でも、何で……佐々木さんは来てくれないんだろう……」
昨日、自分たちを異世界へ送った佐々木さんは店にいない。
彼はミキとユキミだけが戻ったあの後、「何とかする」と言い残して体調を悪そうにして帰っていった。
「佐々木さんに色々と相談したかったのに……あたしとミキちゃんだけで……リコちゃんとセリナを助けられるかな……」
ユキミの不安げな表情は昨日からずっとだ。
「……ユキミ、落ち着いて。もう時間だから。」
二人の視線が時計の針に吸い寄せられる。
秒針がゆっくりと、“11”を指した。
「「……!」」
とうとう、やって来た。
「……ユキミ。」
「どうしたの……?ミキちゃん。」
「絶対に二人をみつけよう。」
「うん……」
声を合わせて唱える。
「「「lunch」」
親友を助ける覚悟を決めながら、ミキがゆっくりドアを開ける。
ドアの先には美しい虹色の道。
それと……
「あっ!ミキィィィイイイイイイイ!」
髪を乱しながら、ものすごい形相で走ってくるリコ。
「……?え、えーぇぇ!?リコォオオ!?」
「ミキちゃん?どうしたの?」
ユキミはミキの後ろにいて、まだ状況が理解出来ていない。
「どいて!ミキ!そこどいて!」
「お、おう。……え?」
リコがミキを押しのけて店に飛び込む。
「え!!リコちゃん無事だったんだ!……あれ…セリナは?」
「セリナはまだ向こうで待ってる!そんなことより!」
リコは店の中をダッシュしながら、棚をひっくり返しそうな勢いで叫んだ。
「説明はあと!!えーっと……お金どこ!?……あった!!よし、セリナと紫月さんのところに行く!」
「紫月さん?リコ、ちゃんと説明して!ちょっと待てぃ!!」
ミキが止める間もなく、リコは引き出しから小袋を掴み、
ユキミの手を、次にミキの手を掴んだ。
「はい行くよ!はい異世界!」
「ちょ、ちょっと!!」
「リコちゃん落ち着いて!? ねぇ!?」
「セリナと紫月さんが待ってんの!!」
「だから誰!? 紫月って!!!」
「ちょっ……ミキ抵抗しないで!行けばわかるから!lunch!!!」
ーーーーーー
「来ないなぁ紫月さん。今はその方が都合がいいけど……用事が長引いてるのかな?」
その頃、噴水近くのベンチで紫月を座って待っているセリナ。
11時をすぎても紫月は来ない。
「……リコはもうそろそろかな。」
そう思い、リコが入ったドアの方へ目を向けると……
「セリナァァァァア!ユッキーとミキ連れてきたよ!!」
ジャストタイミング。
リコが肩で息をしながらドアから飛び出てきた。
しかし、ユキミとミキの姿は見えない。
「あれ?リコ、ミキとユキミは?」
セリナがベンチから立ったその時……
「リコォオオ!!待たんかぁあ!!!」
「グフっ!!」
次にドアからミキが出てきた。
勢い余ってリコの背中にタックルする形で突進。
「あーぁ、リコ可哀想に……」
リコ、ミキと続けば最後に来る人物は明白。
その最後の人物は……
「リコちゃん……ミキちゃん……待って…足速いよ……」
ドアからよろけながら登場。
運動は苦手なユキミちゃんだ。
どうやら三人とも、虹色の道を走って来たらしい。
「……なんか疲れてるみたいだし、私から向こうに行くか……おーい!ユキミ!ミキ!」
1日ぶりに見たユキミとミキの元へ走るセリナ。
「「あっ!セリナ!!」」
「1日ぶりー!って……え……ミキ…そんな勢いよく来たら!!」
「セリナァァァア!!」
「ゴフッ!!」
今、何が起きたか……お分かりいただけただろうか。
セリナの姿を同時に認識したユキミとミキ。
そしてミキが再会のハグをしようとセリナの元へ走るも、危機を感じたセリナは回れ右して逃走。
しかしミキの方が足が早いため簡単に追いつかれてしまい、リコと同じ形で突進されたのだ……
「あーぁ、セリナ可哀想に……」
リコはダメージを負った友に同情の言葉と視線を送ることしかできない……
なぜなら自分もダメージで動けないからだ……。
5分後……
噴水近くのベンチでセリナ、ユキミ、リコの順で座る。
「リコちゃん、セリナ。大丈夫?」
両隣の友の背中を優しくさするユキミ。
「うん……まだ痛いけど……リコ、生きてる?」
「ありがとうユッキー……セリナ、ウチもうダメかも……」
「も〜〜〜二人とも大げさだよ!!」
リコとセリナを殺った張本人は何故かケロッとしている。
「リコ……よくミキを連れてこれたね…説明無しに連れてこようとしたら絶対抵抗すると思ってた……」
「店のドアを開ける前に腕を掴まれたけど…何とか振り払ってダッシュしたよ……そしたら追いかけて来ると思ってさ……」
見事、ユキミとミキを連れてきたリコは「さすが」と言えるだろう。
ユキミは多少抵抗されてもなんだかんだ引っ張れば連れてこられただろうが、ミキは話が違う。
抵抗されたら力勝負では敵わないので、リコの走って逃げるという選択は最善の選択だった。
「ユッキー、セリナ。見てよこれ……」
「「うわ……」」
リコが着物の袖をめくると、とっても赤ーくなった腕が出てきた。
「あれ……?そんなに強く掴んだつもりないんだけどな……」
「コイツにやられた…うぅ…ウチの可愛い腕が……」
「ごめーん☆」
ミキは全然反省しない。それもそうだ。いつものことだから。
いつものことが起きたからこそ、セリナはある事に違和感を持つ。
「……よく着物でミキから逃げられたね?ミキも着物で走ったの?」
そう、リコは着物で走っている。
リコの方がミキより少し足が早いが、着物ではいつも通り走れるはずがない。
ではミキも着物だったのか?
「あっ……再会の喜びで忘れてたけど…こっちに来たらミキの服が着物になってた!」
「ミキちゃん……普通忘れないよ…走ってた時は洋服だったでしょ?」
ミキとユキミの反応で分かる通り、虹色の道を走っていた時は洋服だったらしい。
今はミキが赤、ユキミが青の着物に変わっているが。
いったいこれは……
「あぁ!そういえばリコが道の外に落ちたら危ないと思ってゆっくり走った!」
「そこで気遣ってくれたのに、こっちの世界に来たらウチにタックルしたんだ?」
「私にも……」
「もう地面だしね。心配させやがって!って意味で飛びついた☆」
ただのミキの気遣いだった。まさかミキにそんなことができたとは……
「なーんだ………………ん?そういえば、元の世界に戻った時って服はどうなったの?私らは当然ずっと着物だったけど。」
「そこウチも気になった。今日の着物は紫月さんから貰った物だし……帰って洋服かなんかに変わったら嫌だ……」
これは今朝の出来事だ。
雪乃に
「姫様からの贈り物です。おふたりに替えの着物を、と。こんなに上等な着物……姫様はなんとお優しい……それなのにあんなに夜遅くまであなた方は……」
お説教と共に綺麗な着物を受け取った。
申し訳なくて朝食前に紫月に礼を言うと、
「…実は…その着物には少しですが、私の着物とお揃いの花が描かれています。……気に入っていただけたなら…嬉しいです。」
彼女は頬を赤らめてくれた。
なので今リコとセリナが着ている着物は紫月との友情の証であり、大切なもの。
その着物が失われることになっては悲しい、というのが二人の気持ちだった。
「……リコちゃんとセリナの予想はどっちだと思う?」
「「え?」」
ユキミからの問いにリコとセリナは顔を見合わせる。
「……私は元の服に戻ったと思う。この世界に来て、服も私物もこっちの世界の物になったし……」
「ウチもそう思うな。セリナと同じ理由。」
この世界に合わせて身につけていた物が変化したなら、逆もまた然りだろう。
そう考えたのだが……
「ハズレー」
ミキが腕をバッテンにして否定した。
「それがね………元の世界に帰っても着物のままだったよ。ね、ミキちゃん。」
「うん。あの服お気に入りだったから残念だった。」
何故?どういう仕組み?
色々考えるだろう、普通ならば。
しかしそこはリコとセリナ……
「もー呑気だなぁ。でも……着物がなくならないなら良かったよね、リコ!」
「うん!紫月さんに申し訳なさすぎる。良かった良かった……」
分からないことは考えない。それが1番。
「…って!今は紫月さんのことを説明しないと!セリナ、頼んだ。」
「えぇー。うーん……じゃあ、結構要約して言うよ?耳と鼻と尻の穴かっぽじってよーく聞いて。」
「いや、どうやって3つもほじるんかーい!」
「ユキミ……ツッコむとこ違うと思うよ……」
珍しくミキがツッコミを披露したところで、今日のメインイベントの話に入ることになった。
「話をまとめるとこう。まず昨日から。リコがぶつかった黒服の人、墨男さんは助かった。そして墨男さんの主人である紫月さん登場。紫月さんはお姫様だった。墨男さんを助けたお礼に1日のご飯と寝床を用意してもらえた。紫月さんと友達になった。今日はみんなでお茶会。以上!!質問はリコにどうぞ!!」
「リコさん、質問!」
「はい、ミキさん。」
「ミキたちは何で連れてこられたんですか?」
もっともな質問。
未だに、探しに行こうとしたら逆に迎えにこられた理由を聞いていない。
「ミキとユッキーもお茶会に招待したから。招待した犯人はウチら。」
「な、なぜに?」
「紫月さんには恋のお悩みがあるらしいから。ミキが大好物の話でしょ?」
「なるほど!さっすがリコ!」
ミキの質問は解決した。
「リコちゃん、質問です!」
「はい、ユキミさん。」
「紫月さんってどんな人ですか!」
お姫様、と言われれば気になるのは当然。
しかも今からそんな人と茶会することになるのだ。
「めっちゃ美人だよ。あとは……いっぱい食べる、優しい、可愛い、姿勢がめっちゃいい。やっぱお姫様だから品があるな。それと……」
「それと?」
「……笑わない。……笑えないな。」
リコとセリナの表情が曇る。
「お姫様だから...好きな人と結婚できないんだって……ウチらは友達になったけど……ちゃんと笑った顔を見てない。」
「私とリコが馬鹿やってると鼻でフンって笑うことはあった。笑顔じゃないけど……楽しい、とかは感じてくれてるんだよ。ちゃんと表情に出せないだけで……」
「「……」」
ユキミとミキは思わず黙った。
まだ顔も知らないお姫様への同情で。
「だから…もっと友達を増やして、楽しいこと色々して紫月さんを笑わせたいって昨日セリナと話した。」
「ユキミ、ミキ。協力してくれる……?」
リコとセリナがここまで真剣な表情をするのは珍しい。
……となるとユキミもミキも答えはひとつ。
「うん。いいよ。」
「もちろん。恋の相談は二人よりミキの方が向いてるもんね!」
「おぉっ!?リコさんリコさん、ミキが調子に乗ってます!」
「聞きましたよセリナさん。これは絶交ですね。」
「えぇ!?」
人がわんさかいる広場でギャーギャーはしゃぐ四人。
通りすがりの紳士淑女に異様な目で見られていることに全く気づいていない。
そしてリコとセリナに近づく不穏な影にも……
「セリナ様!リコ様!あれほどはしゃいでは行けないと言いましたのに!!」
「……!!セ、セリナ…この声は……!」
「……!!聞き覚えしかないよね……」
二人ともぎこちない動作で声の方に向く。
「「げっ!!」」
そこには白い着物を着た清楚系美人の雪乃さん。
あらまぁ、上品な顔が鬼の形相に。
「げっ!!とは失礼な…!周りを見てご覧なさい!あなた方はこれから姫様と行動するのです。もう少しお淑やかに……」
「雪乃、およしなさい。」
怒る雪乃の肩にポンッと白い手が触れる。
「「あ、紫月さん!」」
「遅くなってすいません……今、到着しました。」
紫月は雪乃の後ろに控えていた馬車から降りてきたところのようだ。
((わぁ……すごい美人……))
紫月を初めて見るユキミとミキは彼女に見蕩れてしまう。
「何かあったんですか?」
リコが訪ねると紫月は申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「実は…私の父が呼んだ客人の到着が遅れまして……その対応でここへの到着が遅くなってしまいました…。」
「なら仕方ないですよ!セリナなんか遅刻常習犯だし、1時間くらい待ち合わせに遅刻したことありますから。」
「余計なこと言うな!」
「だからセリナを迎えに行く時はいっつも最後なんです。」
「やめろっ!!」
広場の真ん中でまた騒ぎ始める二人。
「...はぁ」
雪乃が呆れた顔で一歩前に出て、手をパンと叩いた。
「セリナ様、リコ様!ここは広場です! 一般の方々も見ておられますよ!」
「「……それは……はい……」」
怒られて縮こまる二人に、紫月が穏やかに声をかける。
「場所を移しましょうか。お茶会の準備は整えてありますから。それと...えっと...」
紫月がユキミとミキへ視線をずらした。
「...あの.....」
何かを言おうとしているが、どこか緊張している様子だ。
(何を言おうとしてるんだろう...)
(ミキたちから話しかけていいのかな……?)
ユキミとミキも相手は姫なので、自分からは話しかけづらい。
(ムム、これは!)
その空気を敏感に察したセリナが、軽快に間へ割って入った。
「あっ、そういえば紹介がまだでしたね。こっちの小さいのがユキミで、かわい子ちゃんがミキです。……ってミキ、何その顔。」
褒められて嬉しかったのか、ミキが目をかっぴらいてアヒル口でニヤついている。
「も〜かわい子ちゃんだなんて!セリナちゃん分かってるぅ!」
「え...?あ、うん……」
ぶりっ子ポーズを決めるミキ。
なんだこいつ。
「セリナー。ユッキーが不満そうにしてまーす!」
リコの声に一同がユキミを見ると、確かにユキミは不満そうにしていた。
目をかっぴらいているのはミキと同じだが、口を尖らせて不満をアピールしている。
手を腰に添えて、あたりまえ体操の最初の部分のようなポーズをとっているのはなんなのだろう。
「もうセリナちゃんったら〜。あたしだけ……なんでやねーん!」
「「「「「…………」」」」」
辺りが静まった。
「...え?」
ツッコミをしたはずなのにすべったような空気。
ユキミは困惑した。
「ね?なかなかユニークな奴らでしょ?」
セリナが紫月に下手くそなウインクをしてみせる。
「...............は、はい。」
紫月はこう思った。
(正直……想像以上かも...…………でも...)
「は、はじめまして...紫月です。よろしくお願いします。」
「ミ、ミキです!よろしくお願いします!」
「ユユっ、ユキミです!よろしくお願いします!」
(でも……リコさんとセリナさんに雰囲気が似てるから…緊張しなくてよさそうね...仲良くなれたら...いいな。)
今、初めて紫月は「自分」から歩み寄った。
初めて「よろしく」を、自分の意志で言えたのだ。
「...姫様」
その変化に雪乃は目を輝かせる。
(元々話しかけることが苦手で……いつからか人を寄せ付けなくなった姫様が...自分からっ...!)
ぐぅぅうううううううううう
ぐぅぅうううううううううう
「...」
せっかく感動していたのに水を差されて眉をひそめる雪乃。
(台無し……誰よもぅ...)
「では挨拶を終えたところで、ご飯食べに行きましょう!私、もうお腹が限界で……」
「ウチもお腹空いたー!」
犯人はセリナとリコだった。
特大肉まんを食べていたはずだが、二人の腹の虫は収まらない。
「...私もお腹が空きましたから、もう茶屋に行きましょうか。雪乃、お願い。」
「かしこまりました。皆様、〝茶苑ルリイロ〟へはこちらの馬車で向かいます。姫様から順に案内しますので少々お待ちください。では姫様、お先に...」
「ありがとう。」
紫月がお淑やかに馬車に乗る。
さすがは姫君。その所作は絵のように美しく、見惚れるほどだった。
「綺麗なお姫様だな...」
「ね!ミキもあぁなりたい!」
「ウチ何たべようかなー!」
「リコはどーせウドンでしょ。私は...」
続いてユキミ、ミキ、リコ、セリナの順でワチャワチャしながら馬車へ。
「ふぅ...」
最後に残った雪乃は小さくため息をついた。
(はァ...余計に騒がしくなる予感が……...でも...)
馬車の中の楽しそうな五人を見つめ、ふっと優しく微笑む。
(姫様も楽しそうだし……今日くらいは怒るのはやめましょうか。だからどうか……)
「雪乃さーん!」
「全員乗りましたー!」
馬車から手を振っているセリナとリコに、
(どうか姫様に笑顔を...そして...)
紫月に話しかけているユキミとミキに、
(姫様の心を……救ってくれますように。)
「はい、すぐ乗ります。」
祈りを込めて雪乃は静かに笑った。
「全員乗りましたね。それでは行きましょう。」
「「「「出発進行ーー!!」」」」
こうして六人は〝茶苑ルリイロ〟へと向かうのだった。




