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宇宙人が描いた絵

宇宙人の描いた絵とは一体どんなものなのだろうか。

呪いの絵の類で「宇宙人によって書かれた絵」があるらしい。そして、その絵を見たものは必ず失踪するという。その絵の話は、1週間ほど前に友人Xから聞いた話だ。彼の住む家のリビングに、段ボールで梱包された状態のままの絵がその部屋の中心に置いてあるソファから一番見える位置に飾っていた。私はXくんを心配してその絵を確認したのかと問うと、彼は中身を確認していないという。中の絵が気にならないのかと聞いてみたが、気にはなっているが見てしまうと連れて行かれる気がしてならないと笑いながらも、その瞳は本当に怯え切っていた。




「でもこの絵、わざわざオークション会場まで足を運んで100万したんだぜ? 本物っていうしかないだろ」




彼はその絵に指を差す。だが、その指は震えていた。


にしても怪しいものだ。失踪の真相もわからないし、中身も誰も分かっていないものじゃあ誰が描いたものかも判断できない。




「宇宙人が本当にいるかも怪しいのにか?」




私がそう言うと、友人はその絵をリビングの壁から降ろして自分のそばに立てかけた。


その段ボールには、開封厳禁と黒いペンで書かれていた。達筆な字で、絶対に友人のものではなく前の持ち主のモノだろう。だが、その前の持ち主が手放したということは、ニセモノかその禁を自ら破って失踪したということになる。それくらいの魅力があるということだろうか。




「幾何学的な絵で、なおかつ正方形や正円が描かれてるって噂らしいぜ。これでも人間業っていえるか? 人間にそんな簡単にそんな模様描けると思うか?」




「パソコンで描けるだろ?」




ぶっきらぼうに答えると、友人は私にその絵を手渡してきた。




「それならさ、お前が鑑定してこいよ! そういうの詳しいんだろ? おまえの親父」




たしかに友人の言う通り、私の父は昔博物館の学芸員をしていて、今は小さな骨とう品やを営んでいる。だが、父親に見せて大丈夫なのだろうかと不安だった。




「友達の親を殺す気か?」




「噂でしかないんだ。失踪の原因がわからなくなる独り身のお金持ちたちより真相がつかめるんじゃないか?」




「お前自身のことも含まれてるのか? 悲しい奴だな......」




そう言いつつも、私自身気になりつつあったので、その日にその絵画を借りることとなった。


実家に戻り、さっそく父に経緯を説明してみると案外すんなりと受け入れて鑑定してもらえることになった。




「そんな安請け合いしていいのか?」




「宇宙人が描いた絵というのが気になる。もし俺がいなくなったら、その友人から慰謝料ふんだくればいい」




胆力の違いを見せつけられたところで、父はなんの躊躇もなく段ボールを開けた。するとすぐに父は、自分のもつ拡大鏡を眼鏡のように装着した。




「なるほど、興味深い」




「どう? 宇宙人、描いてそう?」




「今なんともいえん......」




そう言いつつ、父親は段ボールの中に絵画を戻してまた口を開いた。




「ただ、お前は見ないほうがいいと思う。嫌な予感がする」




その言葉を私はその時何も考えずに受け止めていた。


だが、事態は一変し始める。





友人から絵を借りてから1週間が経ち「山に登ってくる」と言い残したきり今度は、父があの絵画と一緒に戻らなくなった。ちょうど3日前くらいのことだった。


父が絵画を研究してくれていたアトリエに向かうと、机の上に父が書いたであろうメモが残されていた。


ちょっと殴り書きで読みづらいが、あの絵に関することのようでこんな感じのことが書かれていた。




・絵画は幾何学的模様ではなく、スケッチである


・画材は不明。鉛筆のように見えるが時折光るものが入っている。


・スケッチのデザインは不明。地球の物質ではない


・黒い




私は首を傾げた。はじめの3つは具体的な絵画の描写であったのにも関わらず、最後だけ抽象的で何が黒いのかよくわからない。父親に聞こうにも、その父親の行方は分からない。警察も、すでにこの事件から手を引いてしまっている。ただ、このメモが最後の切り札になると思った。




 私は元凶の持ち主である友人を駆り出し、探索隊を結成した。どうやら、友人の方も絵画の歴代の持ち主について調べていたらしい。それによると、彼らも父と同じように唐突に山登りに行って失踪したという。




「この絵画、やっぱりなんかあるんだよ......。俺は、俺はそれを知っていたのに......」




友人はかなり罪の意識に苛まれているのか、目を腫らしていた。下を向き続ける友人に、私は彼の肩を小突いた。正直、心の中の怒りの炎は消えていない。それでも、私は友情を選んだ。




「自分を追い詰めないでくれ。お前だけじゃない、俺だって共犯さ。今は反省より、おまえの考察と資金が頼りだ! 頼む、手を貸してくれ」




「そんなの、お安い御用だ!」




吹っ切れたかのように友人は顔を明るくして、私にスマホから資料を転送してくれた。そこには、これまで絵画を所有していた人間のリスト、そして彼らがいなくなる前までの足取りが記されていた。




「みんな、同じような場所に向かっている気がする......」




ほとんどの人物が近い、遠いに限らずに同じ山へ向かっている。B山だ。たしか、B山って宇宙人とかオカルト雑誌で有名なスポットだって聞いたことがある......。私の父も同じようにB山に向かっているのかもしれない。近場の山は調べつくされた。残るは、この情報に賭けてB山へ行くしかない。日は暮れて来た。だが、一刻の猶予もない。父が死んでいたら、私は私を許せなくなる。そして、友人も......。 とにかく、私達はB山へと向かった。





B山は私の家から車で2時間半くらい先のところにありました。少し有名な山で、3合目くらいまでは自動車で登山が可能になっている。そこからは2つのルートから頂上を目指せるようになっている。一つはなだらかな初心者コース。そして、経験者コースだ。だが、私達の目の前にあったのは、3合目の駐車場と3つの分かれ道だった。




「こんな道、知らないぞ!?」




「この道の先に、オヤジが......!?」




「そうとは限らないだろ!?」




友人の制止を気にも留めず、私は見知らぬ道を走り出していた。


友人の足音が後ろから聞こえて来た。後ろを振り向くと、友人はへとへとになりながらついてきていた。そしてさらに後ろには黒い何かがついてきていた。私達二人以外の登山者だろうか。




「誰だ!? あんた!?」




私は立ち止まって、後ろからついてくる黒い何かに聞いてみた。


返事が来るかもわからない。いや、5m以上離れてるから聞こえているかもわからない。




「は⁉ 誰に言ってんだ!?」




近づいていた友人が先に反応した。瞬間、その友人を追い越すかのように黒い影がこちらに向かって来た。その速さは尋常ではない。私は、その威圧感に焦り、友人を置いて走り出した。初心者コースとは違い、小石の多い獣道に足を取られながらも追いかける黒い影に追い越されないように走ってきた。すると、目の前に薄ぼんやりと緑に光る小屋が出迎えてきた。宿舎だろうか。でも、なんで緑に......。


そんな疑問もどうでもよくなるくらいの疲労と安心感に感覚が鈍るように視界がぼやけてくる。




「あいつ、大丈夫か......?」




私は気づけば、その小屋の中に入ってきていた。中はいたって普通のコテージだった。ただ、照明の色がすべて緑色に奇妙に光り輝いていた。私はその中で隠れる場所を探し回った。そして、そのコテージの2階に上がった瞬間に目の前に広がる光景に絶句した。 そこには、たくさんの絵が飾ってあった。絵は幾何学的な模様の描かれた不思議な絵から、不気味なスケッチが乱雑に置かれていた。その中に、友人が買った絵があった。友人の絵には、キャンパスの裏に友人の名前が書いてあったためすぐにわかった。だが、この絵はなんだ? スケッチなんてなにも書かれていない。 真っ黒じゃないか。




「ここは、あの絵の作者のアトリエ......? やっぱ宇宙人なのか......?」




さらに奇妙なことに、他の絵にはいろんな人物が書かれているものがあった。しかも、赤い絵の具で。その人物のほとんどは私の知らない人物だった。だが、私は嫌な予感がした。それらすべてをもう一度見ると、その肖像画のすべてが行方不明になっていたあの絵の前の所有者だったのだ。 そして、この赤い絵の具、どこか鉄臭い。まさか......。




戦慄を覚えている先に、床に倒れている人を見つけた。父親だ。鼻に手を当てると、寝息を立てている。まだなにも危害を加えられていないようだった。




「親父! 生きててよかった。 こんなところから脱出しよう」




 私は父親を引きずりながら家を出ようとした瞬間、ドアが開く音がした。そして、人間と同じ二足歩行している動物の足音が聞こえる。だが、それ以上に気になるのは、ブブブブブという羽音のようなバイブレーション音だ。1階から聞こえてくるあたり、この家に入ってきた「何か」から発せられているのだろう。その「何か」は2階の私に気づいていなかった。私は、音を立てずゆっくりと1階が見える場所まで移動した。玄関先には誰もいない。さっきの「何か」は家の奥にいるようだったので、私は父親を背負って階段を降りて玄関まで頑張って走っていきました。瞬間、奥にいた「何か」が音に気付いてしまいこちらに向かっていた。




「こっちだ!」




扉を開けた先には、友人が待ち構えてくれていた。私と友人とで父を運び出した。


「何か」は私たちに気付いていないのか、興味を示さなくなったのか家の周囲をうろちょろとした後そのまま家に戻っていった。私たちは胸を撫でおろし、車まで戻って山を後にした。





後日、山登りの知り合いから聞くと、B山に登るもあの家も、3つ目の登山道もなかったらしい。


絵も取り返せていないままだったのに......。そのことをXに放すと、私の見た奇妙な光景に怯えて取り返す気はないと言っていた。




なんにせよ、最後まであの「何か」の正体はわからずじまいで、本当に宇宙人だったのかも分かっていない。ただ、あの家に住んでいたのはただ者ではなかったっていうのは確かだ。




それと、父親があれからずっとぼんやりと白いキャンバスを眺める時間が長くなった。結局あの黒い絵は一体なんだったんだろうか。父親には、一体どんなスケッチが見えていたのだろうか。


それは、父親にしかわからない。

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