1話 知らない世界での初めての朝
夢を見た
見慣れた校舎、その裏手
目の前には男の子
周りには冷やかす声
男の子が口を開く
「ごめん」
知っていた、私では彼に相応しくないと
だってずっと言われて来た事だったから
それでも「可愛い」と言われたくて、少しでも彼に好きになってもらいたくて
普段した事の無かった化粧も
目の前を覆っていたボサボサの髪の毛を切った事も
笑われる事が増えただけ
何の意味もなかった
口下手で何1つハッキリと話せない私は
彼に好きになってもらえる訳がなかったんだ
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ざわざわと音が聞こえ目を覚ました
「夢………」
目尻に触れる、泣いてしまっていたのか……
はあ、とため息をつき、ベッドから起き上がる
見慣れない部屋
ここはどこだろう
私は確か……
下から賑わう声が聞こえる
何だろう
服を整え、部屋の扉を開ける
廊下に出る、他にも何部屋もあるようだった
奥に階段を見つけ、そろそろと降りる
下に近づくごとにざわざわと話し声が大きくなる
スイングドアがあり、開けようとしようと手を伸ばす
「おっと!!」
途端に向こうから人が入って来て、鉢合わせる
「きゃ!」
緑の目の女性と目が合った
「コーディアルさん……」
ビックリして肩をすくめる私を見て
「ああ、起きたのかいあんた、体調は大丈夫かい?」
後で起こしに行くつもりだったんだよ、と、コーディアルさんは言った
「あ、はい、大丈夫です。昨日はありがとうございます」
ぺこり、とお辞儀をする、やっぱり昨日助けてもらっていたんだ……
「あーいいよいいよそれは!」と小気味よい顔でコーディアルは笑った
「しっかし名乗った覚えないんだがねえ」と私をじろじろと見る
「それは昨日男の人とのを見て……」
「昨日……? ああ、あれか、見てたのかい」
なるほど、と言った顔で納得されてしまった
「俺のコーヒーまだかよコーディアルー」
先程のスイングドアの先から声が聞こえる
「おっと、ちょっと今忙しくてね、後で話があるから、上で待っててくれるかい?」
コーディアルさんを見ると、エプロンのような物を着て手にはお盆を持っている
何か料理中だったのだろうか
邪魔をしてはいけない、と「わかりました」と言い、階段を上り先程の部屋へと戻る
出窓に近付き、下を見る、昨日串焼きを食べた露店が見えた
まだ朝は早いのだろうか、少し靄がかかっている
朝の寒さを感じ、ぶるりと震えた、先程自分が寝ていたベッドへと腰かけると
「ぐう」と短くお腹が鳴った
昨日串焼きを食べている時は夢だと思っていたのに……
今は知らない世界に1人で不安で仕方がない
私の感情とは裏腹に鳴るお腹を抑え、身体をベッドに横たえる
「どうしよう本当……」
目の前にある鏡に映る姿は自分の物ではない
それが更に自分を不安にさせた
本当の自分とは全く違う姿
本当の私はこんなにも明るい髪色ではないし、もう、長くもない
目だって二重ではないし、パッチリとだってしていない
今思えば、本当の私が導く者さんにああ言った問いが出来るはずがなかった
本当の私は、多分この世界が異なる世界だとわかっても、ただただ困惑するばかりで
あんな風に喋る事は出来なかった、ひたすらに泣きわめくだけだったはずだ
門番さんやお店の人にだってそう、あんなに明るく答える事が本来の私には出来ただろうか
変わりたい、と願った時に、少しでも明るくなりたいとも願った
人と喋れるようになりたいとも……
「本当に叶っちゃってるよ……」
ずっとずっと憧れていた姿
こんな風になりたいって、私が思い描いていた姿、そのまま
可愛いって言われたのは本当に本当に、心から嬉しかったのに
それなのに
ここは違う世界だと実感させるものでもあって
「どうしたいのよ私は……」
ーーートントン
「待たせたね、今大丈夫かい?」
扉をノックする音にコーディアルさんの声
「はい、大丈夫です! 今、開けますね!」
身体を起こし、扉に駆け寄り開ける
「遅くなってすまないね、お腹空いたろう?」
コーディアルさんの手には、ほかほかと湯気の出る飲み物にパン、サラダ等が乗ったお盆があった
それを見た私のお腹は又「ぐうー」となった、今度は少し長い
「あ……」
「あはは! 正直だねえ、持ってきて良かったよ!」
コーディアルさんは再び小気味よい声で笑った
私がお腹の音に赤面していると、コーディアルさんはそのままそのお盆をベッドの横のサイドテーブルに置いてくれた、
「どうぞ、おかわり言っとくれれば用意するから!」
これ、絶対食いしん坊だと思われてしまったんじゃ……
「い、いただきます」
手を合わせた後、用意されたパンにバターを塗る、よく焼かれたパンにバターはすっと溶けた
1口齧ると「サクッ」と音がし、その後にはパンのもっちりとした食感にバターの旨味が口に広がる
「美味しいです!」
「ほんと、嬉しい事言ってくれるねえ、あたしが焼いた自慢のパンだからね、このカフェの看板メニューさ」
「ご自分で?!すごい……カフェの料理長さん?あ、それともウエイトレスさんですか?」
そう言えばさっき呼ばれていた時にもお盆を持っていたのを思い出した
「ああ、言い方が悪かったね、あたしはここの店長さね」
ふふん、とコーディアルさんは答えてくれた
コーディアルさん曰く、ここは朝と昼はカフェ、夜は酒場を経営している
自身がお酒が大好きと言う事から、朝からお酒も提供しているらしく、昨日のように柄の悪いお客さんも時たま来るらしい
本当は安全上お酒を出すのは夜だけにしようって思ったものの、腕っぷしには自信があり
「何かあったら、あたしが何とかすれば言いって事に気付いた訳さね!」……で昨日の騒ぎとの事
「ごちそうさまでした!」
食いしん坊だと思われたくなかったけど、どれもこれも美味しくて結局おかわりをしてしまった
「気持ちいい食べっぷりでいいねえあんた、気に入っちゃったよ」
コーディアルさんは空になったお皿を見つめ、にこにこと微笑んだ
「あんたの名前を聞くの、忘れてたね、何て言うんだい?」
「ミア、です」
門番さんの時にサインした名前を名乗る
あの時はアバター感覚で、普段ゲームで名乗っていたものを使った
もうここは夢ではない現実だと理解したけど
本当の自分ではない私が、本当の名前を名乗るのってどう何だろうと考えると
やはり「ミア」で良い気がした
「ミア、ね、よし!宜しくさね、ミア」
コーディアルさんと握手を交わす
この世界で、初めての知り合いが出来た事に私は少しだけほっとした
(続く)