【誤字ダメ絶対! 謝罪SS】あくやくれいじょう 3しゃい。 はぢめてのおちゃかい
たくさんの方にご購入頂きました「悪役令嬢、物語が始まる前はただの美幼女。 戦いを挑んではいけません。」、感無量の作者に、誤字報告が飛び込んできました。ぴえん。
これは誤字ではなく、ニーナという知らない女が勝手に物語に登場していたようです。(現実逃避中)
現在出版社にて対応頂いておりますが、アンバー前子爵より免許皆伝頂きましたスライディング土下座で、取り急ぎお詫びを申し上げます・・・(スライディング土下座中)
そこで、以前に書き上げたマルティネス公爵家のとある一日をアップさせて頂きます。
全く山も谷も無い日常の風景を楽しんでいただき、可愛いビアンカ(と書いてスケープゴートと読む)に癒されて、ニーナという知らない女の事を忘れてくださることを願っております。
それでは、生贄の登場です! 張り切ってどうぞ!!!
今日はビアンカの3歳の誕生日。
朝起きてスキップをしながら食堂へと向かう。
その後ろを付いて歩くミーナは、どうみてもスキップに見えないステップを踏むビアンカの愛らしさに悶絶しながら後を追う。
「おはよー!」
元気よくあいさつをして食堂に入ると、公爵とナタリー、そしてルークは待っていた愛らしい末娘の登場に、笑顔でお祝いを告げる。
「「「ビアンカ、3歳のお誕生日おめでとう!」」」
家族からのお祝いに、ビアンカは満面の笑みで返す。
「えへへへ。ありがと!」
「さぁ、朝食にしましょう」
ナタリーの一言で、皆がテーブルにつく。
長いダイニング用のテーブルの上座に公爵が座り、彼の右側に位置する所にナタリーが座る。
反対の左側に位置する所にルークが座り、更にその横にビアンカが座る。
もちろんビアンカの席は幼児用チェアだ。
ビアンカが座るのを、侍従が手伝ってくれる。
誕生日は朝から好きな物が食べられる日。
ビアンカの前には、料理長お手製のパンケーキが運ばれてきた。
たっぷりのメープルシロップがかかったパンケーキを口いっぱいに頬張って食べる。
「今日のディナーは、パパがお仕事から帰ってきたら、皆でビアンカの誕生日パーティをしましょうね。
皆からのプレゼントはその時に渡しますが、ママからのプレゼントは先に渡すわね」
ビアンカはパンケーキを食べる手を止めて、キラキラ輝くエメラルド色の瞳をさらに期待で輝かせた。
「ママからのプレゼントは、ビアンカが参加してみたいと言っていた“お茶会”よ」
ビアンカはその一言に、シロップでべたべたの口を大きく開いて、テーブルに手をついて体を乗り出した。
「やった!!! ほんと???」
絵本で見たお姫様がやっているお茶会に興味深々だったビアンカは、ナタリーのプレゼントに大興奮だ。
何度もメイドや侍女達と、お茶会ごっこをして遊んでいたのだ。
「だれよぶの? じゅんびはどーしゅるの?? しょたいじょうをかかなきゃ!!!」
鼻をふんすふんすさせて話すビアンカを見て、ナタリーはご満悦。
しかし反対に公爵の顔は沈んでいった。
「ママ、聞いて無いよ?」
「あなたはお仕事でしょ?」
やいのやいのとお茶会について楽しそうに話すビアンカとルークを見て、公爵は午後から有給休暇を取る事に決めた。
朝食後、ビアンカはナタリーと手を繋いでキッチンへと出向い、料理長にお茶会の指示を出す。
今日からビアンカにクリームとチョコレートを解禁することにしたナタリーが、料理長にそれらを使ったスィーツをリクエストした。
母親の横で、澄ました顔で立っていたビアンカだったが、興奮でずっと鼻がふんすふんすしていた。
小さなビアンカは普段は口で呼吸する為、常に口が半開きなのだ。
その度にナタリーが、手でそっとビアンカの顎を上に軽く押して、口を閉じさせる。
そうすると鼻呼吸が始まるが、小さな鼻での呼吸が慣れていない為、どうしても荒くなってしまうのだ。
そしてすぐに口呼吸に戻ってしまう。
そこでナタリーが始めたのが“お姫様ごっこ”。
お姫様とは”お城に住んでいて、口を閉じて澄ました顔をして、少し顎をツンとさせている人物”だと教わったビアンカは、澄ました顔をする時にその表情をするようになった。
しかしやはり鼻呼吸は苦手なので、鼻がいつもふんすふんすしてしまう。
次は部屋に戻って、お茶会の招待状を書く。
ナタリーに教えてもらいながら、ルークと公爵に招待状を書いた。
するとビアンカは、横にいるナタリーにもお手製の招待状を書いて、とびっきりの笑顔で一番に招待状を手渡した。
ナタリーは心の中が温かくなるのを感じながら、愛娘の初めてのお茶会の招待状を、大事そうにそっと胸元に押し当てた。
ビアンカはルークにも招待状を手渡して、公爵の分は侍従長に、王宮に届けてもらう様にお願いをした。
次は、お茶会に来て行く服を選ぶ。
今日は天気が良く、春の木漏れ日が優しく降り注いでいる。公爵邸の薔薇園の薔薇が満開の為、お茶会は薔薇園にあるガゼボで開催することとなった。
ビアンカは、あれでもないこれでもないと衣装をひっくり返す。
そこで出てきたのが、公爵が衝動買いをしてきてナタリーにこってりと怒られた、白いシフォンのドレス。
初めてのお茶会に着て行くのにピッタリの高品質のそのドレスは、汚してはいけないからと今日までクローゼットの奥底に仕舞われていたのだ。
そしてお茶会が始まった。
色とりどりのスィーツが、ガゼボにあるテーブルに所狭しと並べられている。
いつもは家長である公爵が座るお誕生席に、今日はビアンカが座るのだ。
「よくおいでくだしゃいました!」
ビアンカはお姫様然として、澄ました顔で招待客を席へと案内する。
小さいもみじの様な手を繋いで席へ誘導してくれる姿に、公爵一家はもうメロメロである。
そして始まったお茶会。
そこでビアンカにとって残念なお知らせがあった。
「ビアンカ、今日はここにあるスィーツの中から好きな物を食べてもいいけど、1つだけよ」
“ガーン”という音が聞こえてきそうなほど、壮絶な表情を浮かべるビアンカ。
だけど、泣いても叫んでも母親が許してくれる事は無い事を、もう既に知っている。
その為、その小さな脳をフル回転して考える。
カラフルでかわいい丸い物が一番気になるが、その横にはふわふわした大きな物が鎮座している(シュークリーム)。
そしてビアンカは知っている。そのふわふわした大きな物の中には、夢にまで見たクリームが大量に入っている事を。
ビアンカは野生の勘で、“大は小を兼ねる”という言葉を理解した。
「これにしましゅ!」
小さな指で差したシュークリームを、メイドがサーブしてくれる。
目の前に現れた、かわいくないがおいしそうな食べ物。
家族が見守る中、ビアンカの初体験。
シューから出て来るクリームの甘さに、ビアンカのエメラルド色の瞳が、太陽光の下で今まで見たことが無いほどにキラキラとした。
家族たちはそんな末娘の可愛らしい姿に、目尻を下げる。
クリームの魅力に魅せられたビアンカは、自分の中の過去最高記録を編み出すかのように、誰もが信じられないほどの大きな口を開いた。
そしてその開いた口の中に、少しでも多くのシュークリームが入るように、補助をする様に手で押し込む。
そうした事によって、口の端からも、手で押さえられた個所からも大量のクリームが飛び出した。
しかし多くのクリームを口の中に入れる事に成功したビアンカは、満足そうに咀嚼を続ける。
公爵一家、悶絶の瞬間である。
ハムスターの様に口の中をいっぱいにして、更に口の周りと手をクリームでベタベタにしながら、初めてのシュークリームを食べ続ける姿は、ただ可愛かった。
食べ終えたビアンカの口の回りを拭いてあげたナタリーが、ビアンカに手を出すように言うと、拭かれる事に気付いたビアンカが、手に付いたクリームをペロッと舐めてから手を差し出す。
反対の手も同じ様に、ペロッと舐めてから母親に拭いてもらう。
ナタリーは、これは教育をちょっと早めた方がいいかもしれないと考えながらも、その愛らしい瞬間を目に焼き付ける。
ビアンカはまだ3歳なのだ。
満足したビアンカは、何事も無かったかの様にホストの役割を続けようと、ルークに話しかけた。
「ルークにぃちゃまは、さいきんどーしてらっちゃいましゅの?」
そう振られたルークはデレデレしながら、最近は剣術の稽古に力を入れている話をし出した。
「お兄ちゃまはいつか、ビアンカとお母様を守れるように、騎士になろうかと考えています」
「すてき!!! おひめしゃまをまもるきしちゃまね!!!」
自分のことを“お姫様”と言ってしまっているが、この公爵家では確かにビアンカはお姫様だった。
しかしここでビアンカはあることに気づいた。
「おにぃちゃまがビーとママをまもるの? パパは?」
公爵家嫡男として育ってきたため公爵も剣は振るえるが、文官を目指していた為それほどの腕は無い公爵は、にっこりとビアンカに微笑んだ。
「もちろんルークに守ってもらうよ」
「それなら安心」とビアンカがホッとして言葉を発する前に、ルークは父親を地獄へと落としにかかる。
「お父様は自力で生き延びてください。
もし無理そうなら、ビアンカとお母様の盾となって命をもって二人を守ってください」
まさかの息子の辛辣な言葉に、公爵は悲しくなって「ぴえん」と泣き真似をし出した。
「お父様、それもう古いです」
「っていうか、パパ。 二児の父親が“ぴえん”って、キモイ・・・」
ルークとナタリーの容赦のない言葉に、公爵は机に顔を伏せて泣き真似をし出した。
ビアンカはパパを慰めてあげたかったが手が届かなかったため、幼児用チェアに立ち上がって公爵の頭をなでなでしてあげる。
「ビアンカたん・・・」
公爵が嬉しさのあまり顔を上げたのと同時に、ナタリーからビアンカに制裁が入る。
軽くビアンカの腕を“ぺちん”と叩いて注意する。
「ビアンカ、椅子は座るもので立ってはいけません。前にも注意したのに忘れたの?」
はっきり言って全く痛くない程度のものだったが、ナタリーのお怒りの表情と、叩かれた自分の腕を交互に見たビアンカは、大きなお目目に涙をうりゅりゅと溜めて。
だけど、泣いても大好きなママが抱きしめてくれないことに気づいたビアンカは、大きな口を開けてギャン泣きをした。
「びえ~~~~~~~~~~~~~~~ん!!!!!!!!!」
お茶会でギャン泣きをした伝説は、ここから始まっていたのだった・・・。
「ごめんなさいは?」とナタリーに言われて、えぐえぐしながら「ご、ご、ごめ、おぇ(えずいた音)」
左手で目をごしごし擦りながら、母親に抱っこしてもらおうと右手をナタリーに伸ばす。
「ごめ、ごめんちゃい。・・・えぐ、えぐ、おぇ(えずいた音)」
ナタリーにやっと抱っこしてもらっても、そのままえぐえぐ泣き続けるビアンカに公爵がピンク色のマカロンを差し出す。
「ほら、ビアンカ。もう泣きやみなさい。泣き止んだらこのマカロンあげるよ」
自分のウソ泣きのせいでビアンカがおこられたのに、その泣き方があまりにも可愛くて、公爵はデレデレしながらマカロンを差し出した。
ビアンカは可愛いピンクのマカロンを横目で見てから、泣くのを止めてマカロンを受け取る。
「おいちい」
目を真っ赤にしながら、ナタリーの腕の中でもそもそとマカロンを食べるビアンカ。
悪役令嬢(3歳)、初めてのお茶会は失敗に終わったが、振り返ってみるとシュークリームもマカロンもゲットできたので、結果オーライである。