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【書籍化】(連載版)悪役令嬢、物語が始まる前はただの美幼女。 戦いを挑んではいけません。  作者: 西九条沙羅


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10/10

番外編: ルークの初恋

ルークの人物像:変態、どシスコン、我儘、付き合うと大変なタイプ

ルークは、目の前の光景が信じられなかった。


彼は今、仁王立ちで模擬刀を大きく振りかぶっている自分の目の前に、細い女性用の模擬刀の先が、いつでも彼を斬れる場所で狙い定められていることに気づいた。





五歳で重度のシスコンとなったルークは、ビアンカと母親を守れる男になりたくて、騎士の道を目指した。

十歳の時にビアンカがリチャード殿下の婚約者に選ばれた。それからは王立騎士団に入るために、血の滲む努力もした。

しかし元来体を動かすことが好きだったルークは、文官を目指すよりも肌に合っていたようで、苦しい鍛錬も楽しむことが出来た。




そして十五歳になって学園に通い出したルークは、公爵家嫡男に必要な経営科ではなく、騎士になる為の騎士科に進んだ。


ルークが教室に入ると、二人いた女生徒が息をのむ。

現在この王国中の婚約者のいない男性の中で、最高峰であり最難関の公爵令息がまさかの同じクラスになったのだ。

二人とも爵位が低い家系の次女三女なので、もちろん万が一も無い事は理解しているが、目の前にいる最上級の美男子に少し夢を見る。


(もしかして?)(もしかするかも?)


二人はドキドキしながら、楽しい学園生活になりそうだと夢想していた。


しかしその夢想は早々と散る事となる。


何故ルークが最難関なのか?

それは、ルークにとって女性とは、



母上と妹か、

それ以外か。


・・・。

どこぞの金髪ホストもドン引きの、マザコンでありシスコンのルークの考えに、夢見がちな少女達も心を早々と折られるのだ。

そして気づくのだ。ルークと婚約したら、いつの日かビアンカの横に立たなければいけない。あんな小作りに出来上がったビスクドールの様な美少女の横に自分が立つなんて、想像しただけで気絶しそうだと。


((常に一歩下がって、遠近法で人々の目を誤魔化さなければ、周りから自分の顔がデカいと誤認されてしまう。絶対に嫌だ!!! ))




そうしてハイスペックでありながら、理想の婚約者候補ワースト3に入る勢いのルークであったが、授業が始まって考えを変えさせられる出来事が起きた。



クラスで剣術の模擬試合が行われた。

順当に勝ち進んでいったルークが決勝戦であたったのが、シャーロットであった。

憧れの王立騎士団長の娘である。しかしいくら彼女に才能があっても、15歳ともなれば男女の体格に差が表れ始める時期である。

どんどん背が伸びていったルークはクラスでも大きい方だった。その為、女子にしては背が高いシャーロットでも、頭一つ分に近い身長差があった。対格差を活かした戦術を立てたルークだったが、彼の模擬刀はシャーロットによって軽く往なされてしまう。何度繰り返しても同じで、挙句に往なされた後に、ルークが態勢を立て直す前に、その細身ゆえの身軽さでルークの間合いを詰めて攻撃してくる。ルークはどんどん焦り始めた。


そして———・・・


仁王立ちで模擬刀を大きく振りかぶっている自分の目の前に、細い女性用の模擬刀の先が、いつでも彼を斬れる場所で狙い定められていることに気づいた。


「そこまで!!!」

「「「わぁ!!!」」」



教師の声の後クラスメイト達は、桁違いの模擬戦に興奮して歓声を上げた。



シャーロットは自分の模擬刀を納めると、呆然としたままのルークに爽やかな笑顔と共に手を差し出す。

ルークはゆっくりと構えを解き、流されるままシャーロットと握手をする。

全てがスローモーションに見えた。

今目の前で、弾けるような笑顔を浮かべるシャーロットと、模擬刀越しに自分を射抜くような眼差しを向けていたシャーロット。


繋いだ手は、とても小さい。


ルークの心臓が痛いほどに鳴る。


”ドクンドクンドクン・・・”


握手が終わると、まるでルークに興味が無いかの様に、シャーロットはルークに背を向けクラスメイトの方へと駆けて行く。

その後ろ姿を、自分の心臓音をBGMにして、ルークはずっと見つめ続けた。




誰がどう見ても恋に落ちたルークであったが、この胸の高鳴りは、戦闘による興奮と錯覚をした。つまり逆吊り橋効果である。



しかしクラスメイトのほとんどが、数日もしないうちにルークの初恋に気付いた。

それもその筈。

チラチラを通り越して、ガン見レベルでシャーロットを見つめているのだ。

さらに、視線に気づいたシャーロットが話しかけると、「何が?」って感じでツンツンし出す。

そしてシャーロットが首を捻りながらルークから離れると、その後ろ姿を恋する少年の目でガン見するのだ。


(((あ~~~、・・・ツンデレかぁ)))




そんなルークはある日、とある集会に参加することとなった。

その名も、”ビアンカたんを近くで()で隊”。


とある前子爵が始めたその集会が、この国で最も人気なファンクラブとなり、公爵による公認となったあれらやこれらは、割愛させて頂く。

大して深い話は全くないからだ。



さて、ルークの話に戻るが、彼は最初このファンクラブが好きでは無かった。しかし父親である公爵は、王太子妃となるビアンカに不埒な思いを持つ者や、本人の意思を無視したストーカーなどを炙り出すのにちょうどいいという事で、公爵家公認ファンクラブとして監視する事としたのだ。

最初は嫌々参加したルークだったが、ここでは声高らかにビアンカの愛らしさを思う存分話す事ができる事に気付き、気が付けば参加するのが楽しみになっていた。



そして今日、運命の出会いを果たす。


シャーロットが集会に参加していたのだ。

しかも手元には、ゴスロリドレスを着せたビアンカカラーのくまのぬいぐるみ。



「そうだったのか」

笑いながらルークが話しかけると、ばつが悪そうな顔をしたシャーロットが、ビアンカカラーのぬいぐるみを背に隠した。

「言ってくれれば良かったのに」

「え!?」

「言ってくれれば、いつだってビアンカの裏話をしてあげたのに」


ルークの優しい笑顔を見て、シャーロットも笑顔で返事をする。

「だって、それが目当てで近づいただなんて、気を悪くするかと思って。

(どうやって攻略するか)考えあぐねていたの」


「全然いいのに。なんだったら今度、家に遊びにくる? ビアンカに会わせてあげようか?」


思いがけない幸運に興奮したシャーロットは高速で何度も頷く。

しかしクラスメイトがこの会話を聞いていたらドン引きだっただろう。

なぜならば、自分の妹をだしに使って好きな子を口説いているのだから。



そうして二人は早速その日に、一緒にマルティネス家へと向かうこととなった。


いつもは凛としたシャーロットが、くまのぬいぐるみを抱えて顔を綻ばせているのを見て、ルークもとても幸せな気分になった。




その頃、王太子妃教育が休みだったビアンカは、母親と公爵家の自慢の庭にあるガゼボでティータイムを楽しんでいた。

二人はルークが女性を連れて帰って来たことを侍従から聞き、大興奮で急ぎお茶会の準備を始めた。


サロンで二人を迎え入れたナタリーとビアンカは、ルークが女性をエスコートしているのを見て内心大興奮である。

シャーロットの抱えているゴスロリを着たくまのぬいぐるみは大変気になるが、それに目を瞑れば、赤い髪のスラっとした凛々しいシャーロットは、大変好ましい。



((この人を逃せば後が無いかもしれない!!!))



ナタリーとビアンカ、二人はアイコンタクトで頷きあう。


「よくいらっしゃいました。ルークの母親のナタリーでございます。こちらは娘のビアンカです」


ナタリーが人畜無害な楚々とした笑顔でシャーロットを迎え入れる。


「ブラウン侯爵家が長女、シャーロットと申します。ご子息とはクラスメイトです。本日は急に伺ってしまい申し訳ございません」


くまのぬいぐるみはさておき、騎士の礼でキリリと挨拶をするシャーロットに、ビアンカもナタリーも小説でたまに出てくる男装の麗人を想像し、少しだけ頬を染めた。しかしその男装の麗人の脳内は、ゴスロリを着たビアンカがきゃっきゃうふふをしているのだが。


「俺が誘ったんだ。このぬいぐるみをビアンカにあげたいんだって」

「まぁ!」

自分モデルのくまのぬいぐるみが、可愛い衣装を着させてもらっているのを見て、ビアンカは華が開いたような飛び切りの笑顔でシャーロットからぬいぐるみを受け取った。

騎士らしい凛々しい笑顔でビアンカにぬいぐるみを渡しているが、脳内ではまたもゴスロリビアンカが満面の笑みでシャーロットの琴線を鷲掴んで、その上の鐘を狂った様に鳴らし続けている。


「この衣装とっても可愛いわ」

「これってもしかして・・・」


前世の記憶のあるナタリーは、その衣装に見覚えがあった。


「はい。数百年前に流行りましたゴスロリです。

わたしこの当時の衣装が大好きで。そしてビアンカ様にとっても似合うんじゃないかと思って、衣装を作ってしまいました」


「えー!? 衣装作れますの? 素敵!」


ビアンカはその細かい裁縫に感動して、憧れの目でシャーロットを見つめる。

シャーロットはもう、今日死んでも悔いは無いと心の中で遺書を書いていた。


「俺も、ビアンカに似合いそうだと思って」

そう言ってルークは、事前に自分の侍従に頼んでいたスケッチブックを受け取り、それをシャーロットに渡した。


「今から衣装描いてあげてよ」


ルークからそう言われてシャーロットは、ずっと脳内のビアンカが着ているゴスロリ衣装をデッサンしてナタリーとビアンカに見せた。


「「「こ、これは!!!」」」


ビアンカとルークは、好意的にそのデッサンを見ていたが、二十一世紀の地球の記憶のあるナタリーは、恐れ慄いていた。


(こ、これ、・・・アカンやつじゃない?


これ、変態さんを滅茶苦茶刺激してしまう、絶対アカンやつじゃない???

いやいや、何でひざ小僧だしちゃいけないという常識が蔓延っているこの世界で、絶対領域が存在しちゃうのよ。ダメよ。ダメなのよ。可愛いけど。滅茶苦茶ビアンカに似合うし、何ならツインテールもして欲しいなんて思っちゃうけど。母親としては絶対に娘に着させられない。何で太ももだしちゃっているのよ。この世界にガーターベルト無いのよ。なのに何でゴスロリだけはガーターベルト着用するのよ。神様、ちょっと設定おかしくない? ちょっと? 聞いてる? 昼寝中? 仕事してよ、神様!)



ナタリーが少し思考の渦に飲まれて、さらに神との交信を試みている間に、若い子供達はキャッキャうふふと楽しそうにゴスロリ談義を始めていた。





「ところで、二人は結婚はどうするの?」


何とかゴスロリから子供達を離すべく、神との交信を諦めたナタリーがいきなり突拍子も無い事を言い出した。

しかしこれは、会話の軌道修正だけの意図で発せられたのではなかった。ナタリーはルークの恋心に一早く気付き、更に二人が恋人同士でも何でも無い事に気付いていた。何故ならば、シャーロットの目はビアンカに釘付けだからだ。


シャーロットは、付き合ってもいないのに公認カップルに訊ねるような質問をしてきたナタリーにビックリして、飲みかけていた紅茶を吐き出しそうになった。憧れのビアンカたんの前で粗相をする訳にはいかず、鍛え上げた腹筋で何とか堪えたが、そうこうしている内にルークからまさかの返しが。


「そんなことまで考えていないよ」



(いや、それ。付き合っているカップルが返す言葉じゃん・・・)


驚き慄いている間に、どんどんマルティネス家で「うふふ」「あはは」と話が進んで行ってしまう。


「そんなこと言ってる間に、こんなに素敵なお嬢さん、誰かに取られてしまうわよ」

「最近では、学園を卒業後に一度社会に出てから結婚するのが主流だからね」

「まぁ、そうなの?」

「シャーロットはビアンカの専属騎士になりたいんじゃないのか?」

「え? あ、・・・え?」

「そうなんですの? シャーロットお姉さま」

「そうです!」


軌道修正しようと思っている間に、ビアンカから微笑まれて「あわわわわわ」となり、また軌道修正しようと思っている間にビアンカから「お姉さま」と呼ばれて、シャーロットの脳内は、警告のブザーを鳴らす小さなシャーロットと、無邪気にシャーロットの琴線を振り回しまくって、鐘を鳴らしまくるゴスロリビアンカが、リアルのシャーロットの思考を鈍らせる。


「私の騎士にならなくても、ルークお兄様と結婚されたら本当の“お義姉様”になるんだから、いつでも一緒にいられるわ」


そう言ってビアンカが、少し頬をピンクに染めて、胸の前で両手を握って上目遣いで見つめてくるものだから、シャーロットの脳内では、10人の小さなビアンカが手を繋いで輪を作り、とち狂ったかの様に鐘を鳴らしまくるビアンカを囲んで、「きゃっきゃうふふ」とスキップしていた。


もうシャーロットの頭の中はしっちゃかめっちゃかで、キャパオーバーである。

その間にシャーロットは、ナタリーとビアンカによってルークと公認カップルにされてしまっていた。


公爵が帰って来てからは彼女として紹介され、何ならそのままディナーまで呼ばれて、シャーロットは燃え尽きたボクサーの様なスタイルで、馬車に揺られて自宅へと帰って行った。



シャーロットが乗った馬車が見えなくなるまで、ルークはじっと見つめていた。


ルークは既に気づいていた。自分の恋心に。

ただその初恋をどうやって実らせたら良いのかが分からなかったのだ。

彼女を目の前にすると、上手く話せない。

優しくしてあげたいのに、そっけなくしてしまう。

正解は分からないが、この方法が不正解なのは解っていた。

だけど、どうしても彼女が欲しかった。


だからここに連れてきたのだ。自分のテリトリーに。



「あとは、ちゃんと自分で口説いて、好きになってもらいなさいよ」

ナタリーがルークの右腕に自分の腕を絡めた。

「シャーロットお姉様がお兄様を好きにならなかったら、私達はシャーロットお姉様の幸せを第一に動くからね?」

ビアンカがルークの左腕に自分の腕を絡めた。


ルークは笑顔で二人に誓った。


「うん。振り向いて貰えるように頑張るよ」



そう言って微笑み合う三人の後ろで・・・



「え? え? ・・・何の話?



・・・・・・・・・・・・・・・・パパも会話に入れてよ~~~!!!」



今日は公爵以外、腹黒なマルティネス一家だった。





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― 新着の感想 ―
いいよね陰謀渦巻かない楽しい世界
番外編二篇楽しく拝読しました。 またの更新お待ちしています。
更新ありがとうございます。 ナタリーの脳内ツッコミが面白すぎて、大笑いしちゃいました。 ゴスロリビアンカは絶対に可愛いけど、絶対領域の露出は、パパも兄も王太子が許さないでしょうね(笑)
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