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うつぜっ(後編)

「な、な、なななにっ」

 ――光が近づいてっ


「おおきくよけてっっ」

 マリアが、とっさにフットペダルを蹴るように踏んだ。


 ズドオオン


 益荒男ますらおが、飛び跳ねるように真上に移動。


「ぐっっ」 

 急激なGで肺の空気が押し出された。

 左下をかすめる波動砲の光の束。

 

 何とか直撃はかわした。


 ヴィイイ、ヴィイイ


「でも、左下は放射熱で焼かれたようね」

 流石波動砲である。

 かすっただけでもダメージが出た。


「ダメージ判定出ます」

「左下のバーニアが機能不全」

 サカイだ。

 ダメージ判定の出たバーニアが使用不可になった。


「そう」

 ――全体の二割のバーニアを持っていかれたわ 

 通常の飛行が出来るのは、一割までだ。


 パシュ、パシュパシュ


 機体がふらついた。

「ふう、まともに飛ばないわね」

「リタイヤ(撃墜)かしら?」

 マリアがつぶやいた。


「マリアさん、操縦をかわってくれませんか?」

 サカイだ。


「? ランクDのあなたが何をするの」

 駆け出しのランクだ。

 マリアが小首をかしげる。


「いえ、この程度はダメージをうけた内に入りませんよ」

 ――このままだと契約が

 サカイは、実質何もしていないのだ。


「そ、そう、じゃあ、かわるわね」

 二人は、前席と後席を入れ替わった。


「シートベルトをきつく締めてください」


「は、はあ」

  

 ズドオン


 益荒男ますらおが、水を得た魚のように、流れるように加速した。



「おおっと、ダメージ判定が出ましたよっ」

「バーニアの二割程が機能停止ですねっ」

 オニダワラが言う。


「大体バーニアの一割喪失で自動制御(オートバランサ―)が効きにくくなるな」

 撃墜判定の基準でもある。

 高機動戦闘は無理だ。


「じゃあ、益荒男ますらおは撃墜ですか?」

「普通はそうなるね、でも……」

 実戦で、バーニアの一割喪失なんて結構ある。

 これで飛べなくなると、ランクB以上では通用しなくなる。

 手動マニュアルで飛ばせないと話にならないのだ。


 益荒男ますらおのコックピットが映る。

 サカイとマリアが入れ替わっていた。


 益荒男ますらおが何事も無かったように飛び始める。


「サカイ、イチロー……やはりそうか」



 益荒男ますらおの動きが変わった。

 ダメージを受ける前より滑らかに飛んでくる。

 あからさまに実戦経験のある飛び方だ。


「波動砲、次弾装填」


 ガコン


 レイカの音声操作ボイスコントロール

 使用されたエネルギーシェルを排莢。

 新しいシェルが薬室へ。

 再び砲門に光が集まり始める。


「……やはりサカイ様は、あのサカイ様だったのですね」


 サカイ、イチロー。

 ニャンドロス宙域で三十機以上の、魚戦ぎょせん(SAKANA型戦闘機)を一人で撃墜したウルトラエース。

 二十歳前後の年ですでに十年間、”ニャンドロス解放戦線パルチザン”で戦い続けた伝説の人物だ。


「サカイ様、サカイ様」

 レイカが、益荒男ますらおに広域無線で呼びかける。


「なんだい、レイカ嬢」

 ――返事があった


「サカイ様は、ガゼフ王国のウルトラエースですね」 


「そ、そうだよ」


「なぜこのような所に……?」

 確か、サカイ様はニャンドロスの進攻を開戦当初まで押し返した立役者のはず。


 ガゼフ王国の英雄だ。


 ガゼフ王国とニャンドロス神聖帝国を休戦させた。


「サカイ、あなたすごい人だったのね」

 マリアだ。


「い、いやあ、でも、ほら、自分って孤児院育ちの平民なわけよ」

 サカイである。


「??」

「は、はあ」

 マリアとレイカだ。


「ガゼフの第一王子に、手柄と功績、全部横取りされて追放されちゃった」

 てへっ

 サカイがへにゃりと笑った。

 

「「ええええええ」」



「ええええええ」

 会場でも通信と映像は流れていた。


「あれが伝説の」

「あんなに若いのか」

「地獄の、”ニャンドロス宙域戦”の生き残りっ」

「たしか、十歳の時から、戦闘機に乗ってるんだっけ」

 会場がざわつく

 サカイは、ニャンドロスに最初に侵攻を受けた辺境惑星出身。

 逃げるときに否応なく戦闘に巻き込まれた。


「凄い事実が発覚しましたね、ハカマダさんっ」

「どこかで見覚えがあると思ったんだ」

「それで、登録したてでランクが、”D”だったんですね」

 最初は、Fランクからスタートだ。


「あ、顔写真出ました」

 会場のモニターにサカイの大きな顔写真とデータ。


「確かに本人だねえ」

 ハカマダが言った。



「でもっ、勝負は別ですヮッ」

 波動砲チャージ完了。

 会話で時間を稼いでいた。

 接近してくる益荒男ますらおを真正面に。

「回避は不可能ですノッ」

 益荒男ますらおを、波動砲の範囲の真ん中に。

 回避するには近すぎる。


「いいやっ、まだだっ」

益荒男ますらお高機動ハイマニューバモードッ」 

 益荒男ますらおの全身にラッパ型のバーニアが飛び出した。


 ズドオオン


「ぐふうっ」

 ――すごい加速だっ

 蛇行しながらシルフィード改に急接近。

 強烈な加速Gに、視界がレッドアウトブラックアウトを繰り返す。


「きゃあああ」

 マリアが強烈なGに意識を失う。

 マリアのシートのエアバッグが作動。

 安全かつ完全に固定された。


「は、発射あ」

 シルフィード改の視界一杯に広がる四角くくて大きな影。


 ガアン


 一瞬でふところに入った益荒男ますらおが、波動砲を拳で殴った。

 波動砲が明後日の方向に発射される。 

 

「波動砲、パージッ」

「ひえええ」

 レイカが音声操作ボイスコントロールっ。

 波動砲を切り離しながら、機体をひるがえす。


 ズドオオン


「これを、よけるかっ」

 さっきまで機体があった所に、巨大杭打機パイルバンカーが撃ち込まれていた。


 シルフィード改が緊急離脱した。

 

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