うつぜっ(前編)
「これより、”波動砲発射シークエンス”に入る」
「エネルギー弁閉鎖」
「エネルギー充填開始」
「セイフティーロック解除」
「ターゲットスコープ、オ―プンッ」
「エネルギー充填120%」
「対ショック、対閃光防御」
コンペ会場の大画面にコックピットの画像が出ていた。
レイカが、対閃光防御用の黒いゴーグルをかぶる。
◆
「おおっと、シルフィード、いきなり波動砲発射態勢だあ」
「実況は、オニダワラ、解説は、ハカマダでお送りしています、模擬戦闘」
「二機体がスタートエリアに入ったのですが……」
四角くて大きい、益荒男。
本来は小型だが、携帯用波動砲と二本のロケットで負けず劣らず大きい、”シルフィード改”。
二機体は、銀河標準ベクトルにより、空母エンタープライズの左右に分かれていた。
「まあ、初手で波動砲は妥当な選択でしょう」
ハカマダが眼鏡をあげる。
「お互い大きすぎて、”ステルス”の”ス”の字もなさそうですもんね」
「ははは、たしかに」
ハカマダがニガ笑い。
◆
ヴ、ヴ、ヴ、ヴ、ヴ
波動砲に光が集まる。
「あそこねっ」
マリアが、スロットルレバーを押し込んだ。
ズドオオン
益荒男が大きな赤いバーニア炎を出しながら前進した。
「武器……? が巨大杭打機しかないんだもんなあ」
――接近するしかない
サカイがしみじみと言う。
「はい、出ましたよ」
360度アラウンドモニターの一部に、シルフィード改から筒状の線が出ている画像が映し出された。
”波動砲の通り道”だ。
「発射の時に、この範囲内にいなければ無傷ねっ」
マリアが、”通り道”の外に機体を動かした。
◆
益荒男のコックピットが、会場のモニターに映されている。
「おや、やはり逃げますよねえ」
「そりゃそうでしょう」
「本来、波動砲は、惑星とか大きなものを破壊するためのものですからね」
「小回りなんてききませんよね」
――途中で照準は変えられない
「発射の時の反動もすごい……って」
本来、巨大な戦艦の真ん中に装備されるものだ。
「おや?」
オニダワラだ。
モニターがシルフィード改のコックピットに変わる。
レイカが色々なレバーを操作していた。
「おおっとお、これは……」
「凄いことをしてますよっ」
ハカマダである。
「おいっ」
「あれって」
モニターを見ている人たちがざわめいた。
「何をしてるんですか?」
「機体の制御を手動にしたっ?!」
「えっ、それってどういう……」
次の瞬間、強烈な閃光が起こる。
波動砲が発射された。
◆
「うむむ」
――このままでは(波動砲は)当たらないよね
「嫌な予感がする……」
サカイがつぶやいた。
「うふふ、私も撃ってみたいわねえ、波動砲っ」
マリアだ。
モニターの一部に拡大化したシルフィード改。
もう少しで波動砲が発射されるだろう。
一瞬ぐらりと、シルフィード改がぐらついた。
「えっ!!」
「まさかっ」
「マリアさんっ、おおきくよけてっっ」
ピシャアアア
光の太い束が宇宙を走る。
ヴオンッ
光の束がこちらに近づいて来た。
波動砲が、宇宙を二つに切り裂いた。
◆
「……当然ですヮネ」
レイカは、益荒男が波動砲の範囲外に出るのを見ながら言った。
波動砲は大きいとはいえ宇宙戦闘機を撃つようなものではないのである。
「でもっ」
国に残してきた貧乏な家族が頭をよぎる。
負けると契約破棄だ。
「やってやるのですヮッ」
「波動砲発射ああ」
ピシャアアア
自動の姿勢制御は切った。
「このおおおお」
押して引いてひねって踏んで、コマのように明後日の方向に行こうとする機体を、両手両足全てを使って抑え込む。
シルフィード改の表面に、姿勢制御用のバーニア炎の小さな花が咲いた。
「いっけえええ」
波動砲を強引に益荒男に向けた。
照射中の波動砲の方向を変えてレーザーブレードのようにする。
ヴオン
機体が、波動砲を出しながら半円を描いた。
◆
「うおおお」
「まじかっ」
「すっげえええ」
「やりやがったあ」
「す、すごいことになりましたねっ、ハカマダさんっ」
「これはすごいよっ、オニダワラ君っ」
「「「波動砲を強引にひん曲げたあ」」」
「ええっ、波動砲の反動は、戦艦並みの巨大な推力でおさえつけるもの」
「ただでさえ推力の偏っている、シルフィードモドキで押さえつけ、さらに方向を変えるとわっ」
キラ――ン
ハカマダの眼鏡が光るっ。
波動砲の光が収まった。
「さあっ、益荒男はどうなったのでしょうかっ」
オニダワラが大声で叫ぶ。
「直撃していれば蒸発してますね」
模擬戦闘だからしないけど、ダメージに応じて機能は止まる。
「あっ、モニター出ました」
「健在、健在ですっ」
「避けれたようですねっ」
オニダワラだ。
「でも、ダメージはあるようだ」
ハカマダである。
後編に続く。