ぶあついぜっ
「イノシシ……?」
――大口径のバーニアの加速がすごい。
芋洗い坂が重機をもとに作った宇宙戦闘機(Space、Fighter)、益荒男の印象である。
ズドオオン
ガタガタガタ
「ぐっ」
「どう、この加速」
マリアがフットペダルを大きく踏み込んだ。
首を置いていかれそうな加速だ。
ドオオン
「がっ」
「止まるのもすごいのよ」
次は、急激な逆制動。
本体と腰の装甲の前につけられたがバーニアが赤い炎を出した。
前につんのめる。
「えいっ」
今度は横方向のバーニアが火を吹く。
グルン
水平に横に回った。
「げふう」
視界が横に回る。
「ふふふ~~ん」
マリアが鼻歌交じりで機体を飛ばしていた。
「で、イチローは傭兵よね」
「ランクは?」
傭兵のランクは、”F~S”である。
「Dランクだ」
ズドオオン
急加速と急制動、急旋回の中でなんとか答えた。
一般的にCランクで一人前だから、Dはかけだしの傭兵になる。
「ふ~~ん、吐いたりしないでね」
しばらくマリアが益荒男を飛ばした後、空母に帰った。
「はい、これに目を通しておいてね」
マリアから分厚い本を手渡される。
「益荒男の操縦マニュアルよ」
「あなた、Dランクらしいから私の足を引っ張らないようにしてね」
「あ、ああ、登録したてでな……」
小さく答えた。
マリアには聞こえなかったらしい。
「とりあえず仮契約ね、それと明日の模擬試合はよろしく」
「……わかった」
マリアと別れた。
宿泊している自分の部屋に行く。
――明日までにマニュアルに目を通さなければならないなあ。
ペラペラと分厚い本をめくった。
――あ、開発者にマリアの名前がある。というか、開発主任じゃないか。この機体は社長令嬢の趣味?かな。
――射出武器?として使えるのは吸着ワイヤーくらいか。
「高機動仕様……?」
――えっ、あれからさらに速くなるのか?
――むむ、電磁防壁装置が装備されていないぞっ。全身、複合装甲か。
小型軽量の電磁防壁装置の開発の成功が、可変型宇宙戦闘機《S、F》を主流にしたのだ。
――益荒男かあ。宇宙戦闘機らしからぬバーニアの巨大な推力。こりゃあ小型の宇宙船に腕をつけたようなものだなあ。
足は飾りです。
操縦の仕方や仕様、性能などを頭に叩き込んでいった。
◆
翌朝、益荒男の展示ブースに来ていた。
益荒男を見上げる。
相変わらず四角くて大きいなあ。
一応全てのデータを頭に叩き込んである。
――癖のかたまりだなあ。
近くであれやこれやと指示を出しているマリアと益荒男を見ながら、
――クスリッ
軽く微笑んだ。
「お~~ほっほっほっ」
いきなり後ろからの大きな声。
――な、なんだ?
「貴方が今回の相手ですヮネエエ」
「うおっ」
金髪縦巻きロール、貴族女子語尾は上位宇宙貴族の証しっ。
「私は、”レイカ・バレイショ―”ですヮッ」
貧乏侯爵令嬢がそこに立っていた。
口元に扇子。
宇宙は広い。
共和制の国もあれば、民主主義の国。
絶対王政の国もあるのだ。
「え~と、サカイ・イチローです」
「あらっ⤴、サカイ……イチロー……?」
「どこかで聞き覚えのある名前ですヮ」
「はて……?」
「失礼ですが、マークスランクを教えて欲しいのですヮ」
「登録したてで、Dランクです」
「登録したては、Fランクからのはじまりでは……」
二階級も上だ。
貧乏侯爵令嬢が首をかしげる。
「それはですね……」
「なんだお前、Dランクかっ」
振り向くとミツルギの主任のサクラギが立っていた。
ひょろりとした体形。
神経質そうに見える。
「イモアライザカは、Cランク、ふはは、勝ったなあ」
「うちの契約パイロットのレイカはなあ、聞いて驚け」
「Aランクだっ」
サクラギが勝ち誇ったように言う。
「恥ずかしながら……ですヮ」
レイカが奇麗なカーテシーをする。
「というか、レイカも負けたらわかっているな」
「ええ、契約の打ち切りですヮネ」
「そうだ」
「……ああ、打ち切られてしまうと弟や妹たちの学費が……」
彼女の家は貧乏である。
そのため若いうちから、傭兵で家計を助けてきたのだ。
「イモアライザカを倒すために高い金で契約したんだからなっ」
「そ、そうなんだ……」
よく見ると彼女のパイロットスーツに、継ぎはぎを当ててつくろった跡が見えた。
――苦労してそうだなあ。
「やってみろ、バ~カ、バ~カ」
「短ピー、包ピーー」
「むっきいいい」
いつの間にかやって来たマリアが、サクラギを煽っていた。
マリアとサクラギ、サカイとレイカは、ワイワイと騒ぎながら、機体の置いてある展示ブースに歩いた。