すむぜっ
遥かな昔、太陽が赤色巨星化して、地球を含む太陽系惑星全てをジュッとさせる前。
地球には、”ベンツ、ウニモグ”という車があった。
標準でドライブギア、前進八段、後退六段。
最大で、前進後退、共に二十四段である。
これには、”多目的作業用ウニモグ”と、”高機動型ウニモグ”の二種類があった。
ちなみに、”ウニモグ”は、”多目的動力装置”の略である。
アタッチメントととして、クレーンやショベルアーム、ドーザーブレード。
さらには高所作業用のゴンドラまであった。
益荒男の元になった、”万能重機、頑轍”の設計思想は正にこれである。
これは益荒男にも脈々と受け継がれていた。
『これ一台で工事現場の全てが出来る』
万能重機、頑轍のキャッチコピー…………
「……なのですヮ」
レイカが言った。
「ほうほう、なかなか面白いのジャ」
シャルロッテが答える。
二人は今、益荒男の操縦席内で座席から降りていた。
オールアラウンドビューモニターには、広大な宇宙。
右にやまとんなどの艦と、左に小惑星帯が映っている。
大人が、床に余裕で横になれるくらいひろい操縦席。
前に置かれたレイカの金髪ドウ・リー・ルのカツラが無遠慮に広がっていた。
ピッ
レイカがボタンを押した。
シュッ
少し空気の音を出しながら、操縦席の後ろの壁が開いた。
「こちらですヮ」
開いた壁を少しかがんでくぐると、大人が余裕で立てる高さの空間につながる。
「ほほう、これが、”居住モジュール”カヤ」
左右の壁に上下二つずつ、カプセル状のベットが四つ。
ガルウイング状の扉を閉めれば個室になった。
さらに非常事態には、コールドスリープ装備の救命ポッドにもなる。
奥には、シャワーとトイレ。
簡単なキッチンもついていた。
レイカが壁のスイッチを押すと窓の覆い(装甲)が開き、外の景色が見える。
外から見ると、益荒男の背中に四角い居住モジュールを背負っているのだ。
「おお、なかなかの解放感ジャノゥ」
シャルロッテがベッドの腰かける。
「ええ、かなりひろいのですヮ」
レイカが言う。
――ん? 戦艦の主砲の一撃も耐える五層の積層装甲。
――陸、海、空、宇宙どこでも活動可能。
――さらに大気圏突入も出来たはず
――ゆったりとした居住モジュール
「もしかして……」
「まあ、すまんノ」
「益荒男を緊急脱出艇として購入しようとしているのジャヨ」
――ほぼ、装甲がゼロの、タイプゼロに乗り続けるのはいかんということジャナ
「……そこまで状況は危ないのですか?」
――第一王子との関係は?
「ああ、サカイ師匠と出会ったのも、戦場で第一王子にハメられてなあ」
「前線が孤立していたところを、サカイ師匠とパルチザンに助けてもらったのジャヨ」
シャルロッテが腕を組み、うつむきながら言った。
「まだ、開戦を諦めておらんじゃろうナア」
「”ニャンドロス”とですか?」
「そうジャ」
「ふう」
レイカが緊張した体をほぐすように息をそっとはいた。