のるぜっ
宇宙戦艦、”やまとん”は上下に二つのブロックに分けられる。
元になった重機運搬船、通称、”タコ部屋”の構造そのままだ。
上部は艦橋や食堂、大浴場、寝室になる個室(←せまい)。
下部は、宇宙戦闘機の格納庫兼滑走路。
格納庫の左後部に高性能三次元プリンターがある為、滑走路は右に寄っている。
高性能三次元プリンターの前にあるハンガーに益荒男と零式艦上戦闘機が駐機していた。
益荒男に男性と小柄な女性が乗り込もうとしている。
サカイとシャルロッテである。
複座の操縦席に二人が座り、スイッチを操作。
ウイイイン
と言う微かな駆動音と共にシートが下がり機体内に。
バシャン
コックピットハッチが締まった。
サカイが前席、シャルロッテが後席である。
「起動できる?」
前席に座るサカイが後ろを振り向きながら聞いた。
「しっかりマニュアルは頭にたたき込んできたのジャ」
――昔サカイ師匠に言われたノオ
マニュアルは頭に全てたたき込めと。
シャルロッテは、少し幼さの残る顔の表情を引き締める。
「メインモニター起動ジャ」
ブン
頭部にある一つ目のカメラレンズが光る。
コックピット内に周りが映った。
「エンジン起動」
ゴオウ
脇の排気口から白い煙が出ると共に益荒男が目覚める。
モニターの一部に艦橋にいるマリアの顔が出た。
「格納庫内の与圧《空気》を抜くわ」
コックピットと格納庫内にも放送が入る。
天井の辺に沿った赤い警告灯が光り、
シュウウウ
スリットが開いて空気が格納庫内から吐き出されていく。
「格納庫内、人工重力停止」
今度は床の辺に沿って赤く光る。
重力がなくなり、益荒男が少し浮くがソリのような足は床に固定されている。
「移動用アーム接続」
天井から接続アームが一本下りてきて益荒男をつかんだ。
足の固定が外され、前へ少し進み、90度まわり発進カタパルトまで移動。
ソリの様な両足がカタパルトに固定された。
接続アームが天井に収納される。
「射出用のバーを出すのジャ」
益荒男の胴体の真ん中から金属の棒が下に出た。
オフィサーが蒸気式カタパルトのワイヤーをバーにひっかけるようにつなぐ。
カタパルトが少し動いてワイヤーにテンションをかける。
その間に前のハッチが開いた。
戦艦、文副茶釜と駆逐艦、豆狸二艦が見えた。
「益荒男の発進準備完了」
「発進コールをどうぞ」
艦橋にいるマリアだ。
「シャルロッテ、サカイ、発艦するのジャッ」
天井のシグナルが赤から青へ。
カタパルトにひっぱられ、益荒男が戦艦、”やまとん”の前へ飛び出した。
「少しいいカノ?」
シャルロッテがサカイに聞いた。
「? いいよ?」
サカイが個人用無線に切り替える。
これでサカイとシャルロッテだけの会話になった。
「第一王子のこと、誠にすまんかった、あやまるのジャ」
少し幼い顔の表情を申し訳なさそうにした。
「手柄を横取りしたうえに褒美もなしで追放とは……」
――流石にひどいのジャ
「う~ん、まあ、死ななかったからいいんじゃない」
サカイがのほほんと言った。
物心《10歳》つく前からほぼ10年、最前線で戦ってきたのだ。
シャルロッテは、戦場しか知らないサカイの発言に少し悲しそうな表情をした 。
「いや、しかし、本来なら最低でも佐官待遇で軍に入れるのジャゾ」
「いやいや、戦争はもうこりごりだよ、平和が一番さ」
「……重ねてすまんのジャ、第一王子が戦争を再開させようとしてるのジャ」
「あ~、第一王妃の実家がな~」
第一王子アレクの母親である第一王妃の実家は、”ベンツアー重工”。
戦争がもう一度始まれば、”ベンツアー重工”の兵器が売れて儲かる。
ひいては、王宮内の第一王妃とアレク王子の立場も上がる。
「まあまあ、なるようにしかならないよ」
サカイがへにゃりと笑う。
その笑顔にシャルロッテは黙って頭を下げた。